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  • 店主のインスピレーションで本とバイクを結ぶ!【連載】地域とともに生きる本屋 vol.1「本と、珈琲と、ときどきバイク。」

    2022年02月04日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 猪越
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    2021年11月6日、静岡県掛川市にオープンした「本と、珈琲と、ときどきバイク。」。バイクメーカーに勤めていた代表・庄田祐一さんが、自宅の庭を改装してつくったブック&カフェです。「バイクと出逢うための本屋」をコンセプトに、店主自らの感性を生かした本が並ぶ同店。開業までの経緯や、一風変わった店名に込められた思いについてお聞きしました。

    ▲本屋棟(右)と喫茶棟(左)からなる店舗。「何かを探しに本屋に来て、バイクにも馴染んでもらえたら」と、店頭には販売店から貸し出してもらったバイクを展示

     

    「動」と「静」をつなぐ憩いの場として開店

    ――「本と、珈琲と、ときどきバイク。」とはかなり個性的な店名ですが、どのようなきっかけで生まれたお店なのでしょうか。

    僕には、人と何かが出合って、人の心が動く瞬間みたいなものに立ち会いたい、そういった瞬間を演出したいという根源的な欲求があります。30数年生きてきて、自分なりにいろいろ見て、聞いて、感じて、経験してきた中で、僕にとってもっとも感動する体験がバイクでした。

    バイクほど心躍るものは存在しないし、人が人らしくいられる美しさがある。そう感じていたのでバイクを生み出す側に立ちたいと思い、バイクのデザイナーになりました。

    しかしいざ組織の一員となると、企画からデザインというものづくりの流れの中で、複合的なプレーを求められます。業務を円滑に進めざるをえない中で、組織の行先と自分の思いがずれてしまっている。そう気づいた瞬間に、この会社にいるべきではないなと思いました。

    それならバイク業界の外から何らかの貢献をして、自分を成長させていきたいなと。小さな力だけど自分の足で立てて、自分らしいアプローチ、クリエーションで何ができるかを、3年ほど前から考え始めました。

    そこから本を読んだり情報収集したりして考えた結果、「バイクと出逢うための本屋」が最適なのではないかという考えに至ったんです。2021年3月末に脱サラして準備し、11月6日にオープンしました。

    ――約半年で開業までこぎつけられたわけですね。

    資金もそれほどあるわけではなかったので、短期間の中でできる店構えにしています。もともと自宅の敷地内に建っていたガレージを活かして喫茶棟に、もう一つ新しい小屋を建てて、そちらを本屋棟にしました。

    書店を開くのであれば大通り沿いのほうがもちろんいいですけれど、土地やテナントを別に探すと、初期費用が格段に変わります。幸いなことに自宅の敷地に少し余裕があったので、まずは小さい規模から始めてみることにしました。

    ▲代表の庄田祐一氏

    ――県道から少し入った住宅街という立地ですが、お客様はどういった方が多いのですか? やはり、バイクに乗る方が多いのでしょうか。

    まだオープンして2か月なのでなんとも言えないのですが、バイク乗りとそうでない方の割合は、いまのところ3対7くらいですね。一般のお客様はファミリーや女性の方が多いです。あとは本好き、珈琲好き、バイク好きの当店のコンセプトにドンピシャの男性ですね。

    バイクには、「危険な乗り物」や男臭い、やんちゃ、レースやメカニカルといったイメージがありますよね。僕はそういった入り口がすべてではないと思っていて、バイクは「民藝」だと言いたい。日々の器を楽しむように日常に溶け込んでほしいし、バイクが生活に寄り添う美しさを謳いたいと思っています。

    店名も、バイクには一番後ろに下がってもらって、バイクの魅力をまだ知らない潜在層の背中を少しだけ押してあげたい、そんなニュアンスを込めています。

    ――そういった思いを伝える場として「本屋」がお店の核になっているわけですが、もともと本もお好きだったのですか?

    本は好きですが、読書家というほどではありませんでした。ただ振り返ってみると、自分も何かを迷ったり探したりするときには、長時間にわたっていろいろな本屋をはしごしていたなと。根っこにそういう体験があって、本屋が好きなのだなと改めて気づきました。

    バイクって本来すごく動きのある性格を持っていると思うのですが、本は静かな性格ですよね。動と静の真逆の性格を持っている2者ではあるけれど、美しさを感じたり、興味や関心を広げたり、自分のプリミティブな感性を刺激してくれるという点においては、共通するものがあると感じています。

    バイク乗りも本を読む人も、今の社会ではマイノリティかもしれませんが、そういう共通点でうまく共存できるし、相性はいいのではないでしょうか。その2つをつなぐ憩いの場として当店のような本屋があり、珈琲を飲みながらゆっくりできる。そういう場所でありたいですね。

    印象的だったのは、以前、父娘2人の初めてのツーリング先に、この店を選択してくれたお客様がいらっしゃったことです。二十歳くらいの娘さんは免許を取りたてで、お父さんは昔バイクに乗っていたけれど、娘さんの影響でリターンライダーになったそうです。娘さんのバイクの納車日に2人で牧之原から片道20キロほどの距離を一緒に来てくれて、素敵だなと思った出来事でした。

     

    バイクそのものではなく、「その先に見える」本を選書

    ――初期在庫は1,200冊ほどとのことですが、1冊1冊ご自身で選書されたそうですね。

    出版社のサイトを一社ずつあたって、2017年以降に発行された本を基準に選定していきました。そうやってピックアップした約5,000冊の中から、当店にはまるものをさらに厳選して、予算と店内スペースの都合で絞っていきました。悩んだ末、1,200冊ほどになりましたが、今後は2,000冊あたりまで増やしていきたいと思っています。

    ――取り扱うジャンルは決まっているのですか?

    オールジャンルです。ただ、僕の感覚ではありますが、その先にバイクが見えるような本を選んでいます。またバイク雑誌はありますが、ダイレクトなバイクの本は少なめで、控えめに扱っています。

    ――バイクの基本や乗り方といった本は置いていないということですね。

    そのかわりに、バイクに乗る、乗らないを分ける境界線は好奇心によるところが大きいという持論のもと、行ってみたい、食べたい、知りたい、やってみたいなど、好奇心につながるような本のラインナップを主にしています。また、自分の軸をつくる本、日々の暮らしに寄り添える本、ものづくりやデザイン関連の本、アート系の本なども多く扱うことで、新たな発見を提案するつもりで選書しています。

    ▲ブック、カフェそれぞれ3坪というこぢんまりとした店づくり。本屋棟には、書籍を主に庄田さんが1冊1冊選書した1,200冊が並ぶ

    ――店内のレイアウトはどのようにされているのですか。

    入ってすぐのところには、活字が苦手な方でも見やすい図鑑や写真集などビジュアルで楽しめるものや、子ども向けの本を置いています。そこから旅や映画、食、恋愛や思考法の本などへと、奥に行くにしたがってグラデーションのようにつながっていく感じです。文芸、実用書といったカテゴライズはせずに、自分の感覚で並べています。

    その一方で、「こういう本を仕入れたら」というお客様の言葉に影響されるところも少なからずあります。まだ数は少ないですけれど、そうやってコメントをくださる方もいて、規模の大きい店舗よりはこういう個人店のほうが話しかけやすいみたいですね。3坪程度の空間しかないので、珈琲を飲みながら、僕と話していかれる方が多いです。

    場所柄もあってお客様の絶対数は少ないのですが、近所にこういう本屋を求めている方はいらっしゃるし、需要はちゃんとあるのだなと実感しています。

     

    店主の顔が見える本屋を目指す

    ――開業準備の一環として、同じ掛川市の独立書店である高久書店さんでいろいろと学ばれたそうですね。

    本屋の開業に関する本はたくさん出ていたので参考にしていたのですが、現場の具体的なノウハウまではわからず……。調べていくと、同じ掛川市でチェーン書店から独立開業した個人経営の書店さんがいらっしゃることがわかって。何回かお店に通って様子を見ながら、店主の高木久直さんに話しかけたのがきっかけです。

    ――そのときの高木さんの反応はいかがでしたか。

    本屋は儲からないよ、「酸い」ばかりで「甘い」がない、厳しいよというお話でした。それでも僕は自分のやりたいことに対して本屋が最適だと思ったので、高木さんを質問攻めにして(笑)。自分で集めた情報とあわせて本屋の開業にたどり着けました。

    東京・荻窪のTitleさんにも何度も伺っていますが、すごく勉強になります。店主の顔が見えることは、やはり大きい。高久書店さんも、高木さんに会いに行ったついでに本を買う、高木さんに会いに行くための本屋なのだなと感じることがあって、そこまでの魅力が出せる本屋になれたらいいなと思っています。

    ――庄田さんも店舗の様子やおすすめの本など、日々Twitterで発信し続けていらっしゃいますね。

    すべての本に目を通せているわけではないですが、この本はバイクがその先に見えるなとか、人の気持ちに寄り添える本だなと感じた本はPRしやすいですね。

    ――ホームページでは、本のセット通販にも取り組んでいらっしゃいます。さきほどお話のあったような「自分の『軸』をつくる3冊セット」や「ものづくりを考える3冊セット」など、さまざまなテーマや組み合わせになるほどと思ったり、意外性を感じたり。まさに庄田さんの感性が見えるコーナーとなっていますね。

    楽しみながら、妄想力で選んでいます。テーマに沿って、どの本を組み合わせればより楽しんでいただけるか、自分の中でストーリーを描きながら選書しています。まだ数は少ないですが、僕の選書を楽しみに利用してくださるお客様もいらっしゃるのがうれしいですね。

    ――そういった思いを込めつつ、選書はテーマのみ提示されているのですね。

    説明したい気持ちは山々なのですが、僕はこだわりが強いほうなので、いろいろ説明してしまうとお客様の立ち入る隙がなくなってしまうのではないかと。店内もPOPなどは基本的につけずに、本の並びやたたずまいから、お客様それぞれに感じてもらえたらいいなと思っています。


    ――たたずまいという意味では、お店のつくりも雰囲気がありますね。まずは入り口ののれんが目を引きます。

    のれんをかけようという考えは当初からありました。オープンしているときはのれんがかかっていて、お店を閉めるときは、のれんをしまう。そういう日々の所作は日本的ですし、情緒的な良さがありますよね。のれんありきで、そこから店舗の雰囲気を整えていきました。

    ――お店のロゴも、庄田さんの手書きだそうですね。

    のれんには筆文字でしょうと思い立ち、書道をやっていたこともあって、久々に筆をとりました。デザインが決まるまでは、2mくらいの大きな水墨画用の紙に、横一列の文字を100枚ほど書いた中からベストなものを選んでいます。

    紋ロゴは60×60cmの紙にまず円をひたすら描いて、良く描けた円をいくつか選び、中に文字を書いています。これも何十枚も書きました。パソコン上で上手に書けた文字同士を組み合わせたわけではなく、一発書きでもっとも出来のよいものを選んでいます。

    上手とか下手とかは関係なく、手書き文字には人柄が出ると僕は思っていまして、そのアナログ感と緊張感と嘘偽りのない今の自分をさらけ出す覚悟のあるロゴに仕上げたつもりです。▲のれんのロゴと店名は庄田さんの自筆

    ▲しおりやブックカバーも庄田さんの手づくり。しおりは自ら描いたイラストのスタンプを帆布に押して作製

    ――開店から2か月を経て、今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか?

    ギャラリー展示なども考えていて、お付き合いのある画家さんに、展示販売用にいくつか絵を描いてもらえないかと相談しているところです。地元の作家さんや画家さんの作品を店頭だけでなく通販でも販売しながら、当店のことを「感性が磨ける文化的な場所」という認識をしてもらえたら当店にとってもプラスになっていくのかなと考えています。

    実際に本屋をやってみて、こんなにクリエイティブで楽しい仕事はないなと思う一方、ただでさえ本が売れないなか、さらに的を絞った本屋をやっているので、なかなか厳しいなと率直に感じています。

    今後は、まずは本屋の充実だと思っていて、在庫のボリュームを2,000冊ぐらいまで厚くしたいと思っています。SNSでの本の紹介がダイレクトに販売につながったことはまだないのですが、特殊な本屋なので、当店のラインナップを知っていただく上ではSNSは良いツールだと思っています。知名度アップに向けてコツコツと本の紹介をしている感じです。

    そうやって一冊でも多くの本を販売につなげたいですし、未来のバイク乗りのために種を蒔いている状態ですね。発芽するかわからない未知の花ですが(笑)。

    (2022年1月6日取材)

    本と、珈琲と、ときどきバイク。公式サイト

     

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