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「無印良品の魅力をもっと伝えるために、本は必要だった」本屋とは違うMUJI BOOKSの“本との向き合い方”

シンプルでありながら温もりを感じる商品やサービスで、「感じ良いくらし」を提案している無印良品。現在の店舗数は全世界で1,000店を超え、そのほかにも環境に配慮した取り組みや、各自治体や地元住民が中心となって、無印良品が巻き込まれるかたちで地域を活性化し、さまざまな分野で「感じ良い暮らしと社会」を目指しています。

そんな無印良品が「MUJI BOOKS」をオープンしたのは2015年3月のこと。キャナルシティ博多に1号店がオープンし、現在54店で「MUJI BOOKS」を展開しています。

無印良品が本を扱うようになった経緯から、本がもたらす効果など、(株)良品計画  営業本部 MUJI BOOKS担当の小野真児さんにうかがいました。

2009年、(株)良品計画入社。無印良品 イオンモール八幡東等で店長を経て、2015年からMUJI BOOKSを担当。




――まずは「MUJI BOOKS」を開始した経緯をお聞かせください。

無印良品は「感じ良いくらし」を提案する7,000以上のアイテムを取り扱う一方、売場にある商品の魅力をお客様に伝えきれていないという課題を抱えていました。

それを解決するために「本で売場を編集していく」という案が出ました。本には先人の知恵だったり、暮らしに役に立つアイデアだったり、さまざまな情報が詰まっています。その中から、暮らしに関することを中心にセレクトして、無印良品の商品の魅力をもっと伝えられないかと考えました。

2015年3月にオープンしたキャナルシティ博多店には、約30,000冊の本を導入しました。当初は「暮らしのさしすせそ」として「冊(さ)、食(し)、素(す)、生活(せ)、装(そ)」というテーマで、無印良品の商品と本を融合させる売場を作っていました。

――たしかに、無印良品のコンセプトに近い、いわゆる「無印っぽい」本が多いように感じます。

いつまでたっても価値の変わらない、普遍的な本を選ぶようにしています。たとえ発売が古いものでも、長く読んでもらえる本を中心に揃えています。

――2020年7月には国内最大級約1,500坪の「無印良品 直江津」がオープンし、「MUJI BOOKS」を展開しています。

直江津店には約35,000冊の本を導入しました。「MUJI BOOKS」では雑誌は基本的に扱っていないのですが、直江津店には100タイトル以上の雑誌を置いています。これは地域の人々の声を反映したもので、近隣に書店がどんどんなくなっている中、お客様が必要としている「雑誌」は置くべきだという考えです。

現在、我々は「感じ良いくらし」だけではなく、地域の方々と一緒に「感じ良い社会」を作ることを目指しています。直江津店は、お客様との距離がとても近く、しっかりと声を聞いて、売場に反映させています。

お客様の声を聞いて雑誌のアイテム数を増やし、雑誌売場は徐々に拡充している。

――そういった「本」は、無印良品の売場にどういう影響を与えていると感じていますか。

本を入れたからといって、「このキッチン用品がすごく売れた」ですとか、「家具の売上が伸びた」という点は測りきれない部分はあります。しかし、本を入れているお店の方がお客様の滞在時間の長さが長く、店内での動き方なども、本を置いていない店とは違う傾向があります。

無印良品に来るお客様は、購入する目的がある方が多いのですが、本があることによってそこに留まって、新たな発見をしてもらえていると感じています。

また、本をよく買っていただくお客様の方が、来店頻度が高く、いろいろな商品を手に取っていただいているというデータもあります。ただの売場ではなく、サービスコンテンツとしての役割を果たしています。

――無印良品の商品は自社製品が基本ですが、「本」はそうではありません。日々の運営で難しい部分もあるのではないでしょうか。

私自身、もともと本は好きでしたが、仕入れて売るとなると難しいところはもちろんありました。本は返品ができるということもあり、「自社製品とは違う」と思えてしまうかもしれません。

ただ実際に運営しているとそんなことはなく、無印良品で仕入れて売る以上、自社製品と同じ「無印良品の商品」という意識を持ってやっています。

新しいお店が出来る時も、スタッフには「ほかのアイテムと同じなんだよ」ということを伝えています。例えば、「服」に関していえば、スタッフ全員が入社時にたたみ方を学びます。売場で服が乱れていたら、誰でも直すことができます。「本」も一緒で、商品の整品を皆で担当し、全員が「無印良品の商品」という意識を持ってもらっています。

――一方で、本は非常にアイテム数の多い商材です。管理上、煩雑になることはありませんか。

冒頭で「無印良品は7,000以上のアイテムを扱っている」というお話をしましたが、直江津で扱っている本のアイテム数は10,000点を超えています。しかも、自社製品は在庫管理などが仕組化されているのに対し、本はアナログでの管理が中心です。

出版業界はほかの小売業態と商習慣が違います。返品ができることもそうですし、商品の調達や在庫管理について、他業種が参入していくのにはまだまだ難しい部分はあると思います。まずは我々がモデルケースを作って、その事例にならって「小規模でも本屋を始めてみたい」という人が増えればいいなと思っています。

――新規参入の話がありましたが、「出版業界以外の人が本を扱う面白さ」についてお聞かせください。

これは「MUJI BOOKS」としてというより、私個人としての意見になるのですが、本は「情報のかたまり」だと思っています。いまは情報がさまざまなメディアから流れ込んでくる一方、本は「自分が手に取って情報を取りに行く」ものです。

ただ流れ込んでくる情報よりも、書店に足を運んで興味を持って手に取って得た情報は、その人にとってより良いものになります。

自分が客として本屋に行っていたころは、興味のある本ばかり手に取っていました。ただ、本を選んで売る立場になってから、いままで関心がなかったジャンルへも視野が広がり「こんなこともあるんだ」と知見が広がりました。お客様にも「自分で選んで情報を取りに行く」体験を提供できるのが楽しいですね。

また、本を扱うことによって、仕事上の繋がりも広がりました。無印良品で働いていると、その仕事の流れでの繋がりしかできません。一方、本はどんな分野にもあって、人が生きる上で関わる事象のすべてが「本」というかたちで表現されています。

例えば、無印良品で働いているだけでは、「能楽」に携わる方と繋がることはほぼありえません。ただ、我々が「能楽」の本を扱った際に「無印良品と能楽についての繋がり」を考えるきっかけになりました。そこから実際に会って話をすることによって、イベントを開催することができました。初めての方にもわかりやすいよう、能面や所作・謡(うたい)の解説と囃子の実演をしていただきました。

本を販売していることにより、出版社や著者さんに働きかけることができますし、これからもどんどん繋がりを広げていきたいと考えています。

――最後に、小野さんの人生に影響を与えた本があれば教えてください

インドのTara Booksという出版社の本に「Waterlife」というハンドメイドの絵本があって、それをイギリスの本屋で一目ぼれして買ったということがありました。Tara Booksは工芸品のようなハンドメイドの絵本を作っていることで有名ですが、当時の私はそれを知らなくて。

そして「MUJI BOOKS」に携わるようになってから、河出書房新社から日本語版の「水の生きもの」が発売されていることも知り、こんなに丁寧に手作りされた美しい本があるんだと感動しました。

そこからTara Booksと縁ができて、無印良品 銀座で「印度祭」を開催した時に、Tara Booksから職人さんを呼びシルクスクリーンのワークショップも開催できました。

実際の道具を使い、現地での作業を感じれるワークショップはとても好評で、1冊の絵本から大きな出会いとなる思い出のひとつとなりました。