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  • 読み手と作り手の「本の意味」をつなぎたい 大学生協有志が共同でフェアを開催

    2021年03月25日
    本屋を歩く
    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」猪越
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    「コロナ禍」に見舞われた2020年。大学でも対面授業の開始が見送られ、学内への立ち入りが禁止されるなどさまざまな影響がありました。そんないまだからこそと、大学生協のスタッフ有志によって開催されたのが「2020年コロナ禍における出版、あるいは本の意味~わたしたちはこの1年、何を考えていたのか」ブックフェアです。

    学生に薦めたい本を出版社30社から1冊ずつ募り、店頭とSNSの両輪で展開された本企画。実施にいたるまでの道のりと、フェアに込められた思いについて、主催の【何を考えていたフェア参加店舗】のみなさんにお話を聞きました。

    【何を考えていたフェア参加店舗】
    法政大学生協多摩店、一橋大学生協西ショップ、千葉大学生協ブックセンター、横浜国立大学生協、松山大学生協、東京薬科大学生協、電気通信大学生協コープショップ、茨城大学生協水戸店 有志一同(敬称略・順不同)

     

    「本」を巡って「考えていた」ことをかたちで残したい

    ――2020年12月から2か月にわたって開催されたとのことですが、どのようなきっかけでフェアを企画されたのですか?

    2020年、年間を通して各店舗が満足に営業できなかった間に出た新刊で、見落としているものがあるような気がする。そういったものを集めたフェアができないか、というような話からスタートしていたかと思います。

    実施店舗も、当初は多摩近隣の2~3店舗くらいを想定していました。
    企画を始めた段階では、8店舗で開催という(われわれにとっては)大きい規模になるとは考えていませんでした。

    ――「2020年コロナ禍における出版、あるいは本の意味~わたしたちはこの1年、何を考えていたのか」ブックフェアというタイトルに込められた思いについてお聞かせください。

    2020年ほど、大学生協職員が「大学生協」の存在する「意味」を考えた1年はなかったように思います。

    大学に学生のみなさんが来なくなるという状況で、わたしたちは何ができるのか。

    休店期間中も、「教科書はもちろんのこと、ネットショップで手に入らなかった学術書、専門書は生協で手に入らないのか」「お店のあの棚にあったあの本がほしい」、そんな問合せを少なからず受けていた職員のたどり着いたこたえのひとつが「本」でした。

    コロナに覆われてしまった今、「本」を読む「意味」。そして「本」を作る側から見た、今「本」を作る「意味」とは。読み手と作り手の「意味」をつなげる役目はだれが担うのか。

    タイトル前半の「2020年コロナ禍における出版、あるいは本の意味」は、そういった思いから付けています。

    フェアの趣旨を出版社のみなさんにお伝えしたところ、多くのご賛同や励ましのお言葉をいただきました。そういった中に、「本」を作るみなさんがこの1年どんなことを考えていたのかが見えてくるような思いがしました。

    学生のみなさん、先生方、出版社や取引先のみなさん、そして生協職員が、多くのことを「考えていた」この1年。「本」を巡って「考えていた」ことの集積を何がしかのかたちで残したい。タイトル後半の「わたしたちはこの1年、何を考えていたのか」にはそういった思いを込めています。

     

    有志が集まり、初の店舗横断企画を実施

    ――大学生協有志が集っての企画だそうですが、日ごろから横のつながりはあるのですか?

    横のつながりは普段からあります。

    通常時ですと、地区ごとの各店舗書籍担当者が集まる会議が月1回(教科書販売時期は除く)、全国の書籍担当者が一堂に会す全国書籍担当者セミナーが年1回行われ、各店舗の取り組みの学び合いが行われています。もちろんそれは書籍分野だけでなく、他分野も同様です。

    企画については、普段は全国の共同仕入れ事務局が企画した出版社フェアなどを各店舗で取り組む、ということはありますが、今回のような店舗発信での店舗横断企画は、これまで知る限りはなかったように思います。

    ――実施にあたり、有志の皆さまでどのように企画立案、進行をされましたか? 実際にされた作業、苦労された点について教えてください。

    主にはメールや、業務用のグループチャットでやり取りをして進行していました。

    分担は全体の進行を見る者、出版社さんへの声かけ班、宣伝物作成班にわかれてそれぞれの仕事を進めました。

    全体の進行を見た者からすると、苦労した点は……ありません(笑)。

    手前味噌で大変恐縮ですが、優秀な担当者が集まってくれたおかげで、スムーズに事が運びました(各担当者は全体進行からの無茶ぶりに苦労したかもしれません(笑))。

    宣伝物も実は4~5人が関わっているのですが、みな何も言わずとも近いテイストのものを持ち寄ってくれました。これまた手前味噌ながらPOP、ポスター、リーフレット、どれも良いものができたと思っています。▲複数の店舗が集まっていることもあり、打ち合わせもオンライン中心に実施

    ――出版社からの寄稿も幅広く募られていますが、どのように選定、依頼されたのですか?

    出版社さんへの声かけ班が、日ごろから教科書・専門書販売でお世話になっている出版社さんにお声がけをさせていただき、30社ほどの出版社さんにご参加いただきました。

    もちろん、お声がけしたかった出版社さんは他にもたくさんあったのですが、企画のキャパ的に30社くらいまでにしておこうという判断もあり、このラインアップに落ち着きました。

    おっしゃる通り、幅広い出版社さんにご協力をいただくことができましたし、日頃親しくしている学生さんや先生からも文章をお寄せいただきました。

    20年末ビッグフェアリーフレット(版元コメント集)▲フェア開催にあたりリーフレットを作成。出版社だけでなく、大学の先生や学生からの寄稿も掲載

    これまた自画自賛ですが、声かけ班がとてもがんばってくれました。日頃から出版社さんたちと良い関係を築いてくれていたおかげです。当初の想定よりも大規模なフェアとなりまして、みな「書目リストを見るだけでこんなにワクワクできる企画もないな」と思っていました(笑)。

     

    コロナの影響がある中、店舗とWEBの双方でフェアを実施

    ――WEBでもnoteやTwitter、書籍注文サイトなどで展開されたとのことですが、反応はいかがでしたか?

    Twitter上でも版元さんのご協力をいただき、たくさんのリツイートをいただきました。おかげさまでnoteの期間中の閲覧数は3,500を超えました。

    書籍注文サイトでの期間中のフェア銘柄のご注文は、80点前後と聞いております。

    ――実績についてはいかがでしたか?

    リアル開催した店舗の期間中の合計で、87冊のご購入をいただきました。

    地域によって状況は異なりますが、現在大学生協では関東近辺の多くの店舗は休店、もしくは11:00頃~13:00頃までの超短縮営業を行っています。このように短い時間の営業しかできない中では、健闘した数字ではないかと思っています。

    ――今回のフェアでもっとも成功したと思われたこと、また課題と感じられたことはどのような点ですか?

    課題としては「開催時期が適当だったか」ということです。年末のあわただしい中、早い店舗は次の新学期の準備も始まっており「フェアに集中しきれなかった」という声もありました。

    このくらいの規模のフェアであれば、教科書販売が落ち着いた5~6月頃のほうがよかったという意見もありました。

    成功した点は、手探りで始めた中で、一定数のご利用をいただけたことでしょうか。

    内部的には、前例のない店舗発信による店舗横断企画で少なからずの人数が関わっており、「収集がつかなくなったらどうしよう」とも思いました。しかしそのような不安をよそに、みなが(自然と)同じ方向を向いて仕事ができていたのは良かったと思います。

    むしろ多くの担当者が関わってくれたことで企画に厚みが出たこと、また才ある若手が力を発揮してくれたことは内部的に大きな収穫でした。

    展開事例
    ▲フェア展開のようす(左上・一橋大学生協西ショップ、右上・電気通信大学生協コープショップ、下・茨城大学生協水戸店)

     

    大学生協なりのやり方で学生たちに本を届けていきたい

    ――大学生協という店舗ならではの、本や学生への思いについてお聞かせください。

    大学生協の書店は、「読み手」と「書き手」が一番密接に交わる書店だと思っており、そういった場で職員として働くことに責任とやりがいを感じていました。

    しかし、コロナ禍においてはある種の機能不全に陥ってしまいました。一方で、街の書店が緊急事態宣言下でも賑わいを見せているというニュースを見て、何ともやるせない気分にもなりました。

    かつては一人の組合員として大学生協の書籍部を利用していたメンバーもおり、そこで出会った本がなければ、自分の人生がまったく違ったものになっていたと感じています。学生時代に「大学内に書店があって良かった」と心から思っていましたし、そのような場を、この厳しい時代を生きる学生へも提供していきたいです。

    ――そのためにも、一日も早い新型コロナの収束が待たれますね。

    やはり、第一には、以前のような活気あるキャンパスが戻ってきてほしい、というのがみなの願いです。ただ、この春にすぐ元に戻るとは思えませんし、戻るのに数年かかるのか、果たして以前のような状況に戻ることはあるのだろうかとも思います。

    それでもやはり学生のみなさんは本を読む。であれば、わたしたちは学生さんへ本を届けなくてはいけない。もちろん本を入手する方法は数多ありますが、わたしたち大学生協も、わたしたちが長年教科書や学術書を販売してきたノウハウを活かして、これからも学ぶ、本を読む学生さんたちの力になれるよう努力していきたいと思います。

    棚の前で、本を眺めて、選んでいる学生さんや先生を目にするのが大好きです。どんな本を探しているんだろう!と、いつもそわそわします。

    2020年、誰もいない静かな店内は、言葉にならない哀しみでした。またキャンパスに戻って来られる日が来たら、ぜひとも生協に足を運んでいただければと思います。

    皆さんをお迎えできるよう、わたしたちも励んでいきます!

    ――今後もこのようなフェアを企画されるご予定はありますか?

    今回のような規模の企画は、今後の各店舗の状況次第ではありますが、可能であればまたチャレンジしたいなと思っています。

    少なくともフェアで使っていたnote、Twitterのアカウントは引き続き使用し、大学、生協店舗に来られない学生さんへの本の情報発信の場としたいと思っています。

    〉大学生協何を考えていた部
    https://note.com/ucbookfair
    https://twitter.com/ucbookfair

    (「日販通信note」より転載)




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