• コミックの定価アップは売上に影響を与えたか? “価格改定”を通して考える出版業界の課題

    2018年10月29日
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    古幡瑞穂(日販 マーケティング部)
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    ここ数か月、コミックジャンルが好調です。

    要因のひとつとして考えられるのが、定価アップ。業界の課題の一つでもあった定価アップの動きは、今どうなっているのか?

    出版社におけるコミック定価改定の動向、購買動向の変化を通して、“価格改定”に関する出版業界内の動きを見ていきます。

     

    2年以上続いた低迷からの復活

    まずは店頭POSの前年比から見ていきましょう。

    コミックジャンルは2014年度以降、3年連続で売上が前年を下回り、長く低迷が続いていました。

    漫画村をはじめとした海賊版サイトの台頭、大型タイトルの連載完結など、さまざまな影響が重なったためと見られていますが、今年2月に漫画村のサイトブロッキングが行なわれてからも、しばらくこのカーブを大きく変えるには至りませんでした。

    しかし今年6月、このグラフの波形が大きく変化します。

    この月は『ONE PIECE』第89巻の発売、『SLAM DUNK』新装再編版の刊行が始まったタイミング。これらが売上を牽引し、コミックジャンルでは、月間の売上前年比が2016年5月以来、2年1か月ぶりに前年を上回りました。

    もう少し細かく動向を見てみましょう。

    下の図は、今年4月以降の月別の売上前年比を「少年漫画」「少女漫画」などのジャンル別に集計したものです。

    7月に一度前年を割ったものの、8月はコミック全体で100%超え、9月には110%となっています。9月についても、売上を牽引したのは『ONE PIECE』と『SLAM DUNK』新装再編版。しかし、それに加えて「定価改定」という要素が見えてきました。

     

    大手出版社のコミック価格改定

    6月に集英社が定価改定を行なったのを皮切りに、コミックの大手出版社で定価の見直しが順次始まりました。

    8月には講談社、小学館も主要レーベルを値上げ。値上げ幅は2~10%とレーベルごとに異なりますが、たとえば集英社ジャンプコミックスでいうと、8月3日(金)発売分より、それまで400円だった本体価格が440円になりました。

    各社・各レーベルの値上げが進んだことで、8月以降、店頭POS売上にも影響があらわれています。

    日販調べでは、雑誌扱いコミックの9月期前年比(103%)のうち2%程度を、定価改定による押し上げ効果と見ています。

     

    定価改定は購買動向に影響なし

    一方で気になるのが、定価アップによって買い控えが起こっていないかという点です。

    そこで、6月以降に値上げが行なわれたタイトルについて、売上冊数の比較を出してみました。

    下の表は、定価が改定された主要タイトルの動向をまとめたもの。たとえば『ONE PIECE』は第90巻から440円に定価が改定されたので、第88巻→第89巻→第90巻の売上冊数比と、第89巻と第90巻の売上比をそれぞれ算出しています。

    売上が下がったものも一部ありますが、それも誤差の範囲といって差し支えないレベルです。全体では、前々巻→前巻で冊数比98.6%、前巻→今巻で冊数比99.9%、前巻と今巻の売上金額比は107.5%となりました。巻数が増えるにつれ売上冊数はある程度逓減しますが、それを金額の伸びが上回っているのがわかります。

    まだ断言できる段階にはありませんが、今回の定価改定が読者の購買動向に与えた影響は、ほぼないと見てよいでしょう。

     

    コミック以外のジャンルは……

    ほかのジャンルの平均定価は、どう推移しているのでしょうか。

    今年8月期の実績では、雑誌が平均554.9円、書籍が平均1,061.6円(日販調べの出回り平均金額)。各ジャンルの現在の平均金額は、下の表のようになっています。

    続いて、2008年当時の価格を基準としたときの、平均定価の推移をグラフにしてみました。

    先ほどジャンル別で見た2018年8月期の平均定価は、雑誌全体が前年比115%、書籍全体が101%。しかしジャンルごとの推移を見てみると、実にさまざまだということがわかります。

    特に書籍については、売れ行き好調ジャンルの児童書がずっと値を下げてきているなど(出物影響もありますが)、まだ課題が多く残っているようです。

     

    価格見直しは出版業界全体の課題

    出版輸送は、単価は安いものの物量が多く、重量もある「雑誌」をベースに成り立ってきました。

    その構造が崩れはじめた今、書籍でこの流通網を支える必要性が出てきています。運賃値上げや下請費の値上がりが課題となっているなか、対策は急務です。

    書籍の価格見直しは、出版業界にとって長年の課題でした。

    8月期、9月期のコミックの売上実績は、業界のこれからにおいて歴史的なものになるのかもしれません。

    (文化通信BB 2018年10月29日増刊より転載 ※一部編集)

     

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