• 10年ぶりの改訂!『広辞苑』を買ったのは、どういう人たちなのか?

    2018年02月06日
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    古幡瑞穂(日販 販売企画部)
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    広辞苑普通版 第七版
    著者:新村出
    発売日:2018年01月
    発行所:岩波書店
    価格:9,720円(税込)
    ISBNコード:9784000801317

    『広辞苑』が10年ぶりに改訂され、出版業界で今年の冒頭を飾るニュースとなりました。発売後すぐにいくつか間違いが指摘され世間を沸かせるのも、「国民的辞書だからこそ」という気がします。

    とはいえ、この電子化の時代。「紙の辞書がどの程度売れるのか」ということに懐疑的な思いもないわけではありませんが、その懸念を吹き飛ばすような売れ方が続いています。

    そんな『広辞苑』、実際にはどんな人が購入しているのでしょうか? まずは読者層から見ていきましょう。

    下のグラフは、『広辞苑 普通版 第7版』の読者層です(日販 WIN+調べ)。

    男性読者が6割弱、世代では60代以上が7割を占めています。このあたりは想定の範囲内ですね。

    すでにデータがなくなっているため10年前の動向は見られませんが、この読者は第7版だけでなく、きっと過去には第6版、第5版といくつかの『広辞苑』を購入していることでしょう。

    それでは続いて、この読者の併読書を見てみましょう。1月以降に購入された本を調べてみると、このようになりました。

    ランキングの集計期間が短いため、顔ぶれはほぼ「1月の売上ランキング」といった感じ。とはいえ、その中でも第5位に『広辞苑』の机上版がランクインしているのが面白いです。

    机上版は、普通版よりひと回り大きいサイズで作られた2分冊+付録1冊(計3冊)の大型版。実はこの机上版を購入した人の約4%は、普通版も購入しています。熱狂的ファンなのか、どのように使い分けているのか、大変気になる動向です。

    最後に、『広辞苑』の読者がどんな本に注目しているのかをご紹介します。

    マルクス資本論の哲学
    著者:熊野純彦
    発売日:2018年01月
    発行所:岩波書店
    価格:950円(税込)
    ISBNコード:9784004316961

    『広辞苑』読者には岩波ファンも多いようで、岩波新書の新刊との併読率がかなり高いことから「岩波新書の赤版を毎月買っている」という方も多そうです。

    そして1月に発売された岩波新書の新刊の中で、最も売れているのがこちら。「今どきマルクスとか売れるんですか?」という質問が出そうですが、これがまた売れているのです。

    マルクスの本格的入門書。今後注目度が上がってくるかもしれません。

    天人
    著者:後藤正治
    発売日:2018年01月
    発行所:講談社
    価格:972円(税込)
    ISBNコード:9784062938297

    「天人」とは天声人語のこと。その天声人語の書き手であり、新聞史上最高のコラムニストといわれたのが本書で取り上げられている深代惇郎です。

    2年9か月という短い執筆期間にもかかわらず読者に深い印象を残し、そして早世した深代。彼を追ったこの本は、「新聞」について考えるための1冊にもなっています。

    単行本発売時にもレビューで紹介されましたが、文庫化されて手に取りやすくなりました。

    岩波書店百年
    発売日:2017年12月
    発行所:岩波書店
    価格:21,600円(税込)
    ISBNコード:9784000612296

    岩波書店の創業は1913年。そこから100年間にわたって発行された全書目を、発行順に並べたという歴史的な1冊です。

    発行された本だけでなく出版界や世界の動きも併記されているので、時代の流れも追えそうです。

    現代用語の基礎知識 2018
    発売日:2017年11月
    発行所:自由国民社
    価格:2,970円(税込)
    ISBNコード:9784426101367

    『広辞苑』の購入者はほかの辞書をあわせて買っているケースが多いのですが、中でもこの『現代用語の基礎知識』との併読は目立ちました。

    『広辞苑』が「日本語として定着したもの」が入るものだとしたら、うまれたばかりの用語が説明されているのが『現代用語の基礎知識』。それぞれの記述を比べてみるのも面白そうです。

    そして併読本の中には見つからなかったのですが、私がどうしても紹介したいのが『舟を編む』という小説です。

    舟を編む
    著者:三浦しをん
    発売日:2015年03月
    発行所:光文社
    価格:670円(税込)
    ISBNコード:9784334768805

    『舟を編む』は三浦しをんさんの小説で、辞書編纂に挑む編集者を主人公に、言葉を定着させていくことの難しさ、つらさ、楽しさを描いた名作です。

    「辞書の裏にある職人芸を堪能する」という点でも非常に読みどころは多いのですが、それ以上に「途方もない時間をかけて私企業が辞書を編纂すること」の意味が胸にささりました。

    国家権力と切り離されたところで、携わる人間が真摯に取り組むべきこと。「こうやって日本語が定義されていくのか」と、読んだ当時も目頭を熱くした思い出があります。

    フィクションではありますが、丹念に取材された辞書作りの細部は、きっとノンフィクション読者も楽しめるはずです。

    言葉に迷ったときは『広辞苑』という人もそうでない人も、ぜひ国民的辞書の動向にご注目ください。


    (「HONZ」で2018年1月30日に公開された記事に、一部編集を加えています)

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