• 〈出版業界〉2017年総括と2018年の展望:雑誌市場縮小・出版物輸送危機の中で、書店の将来を考えるときに必要なこと

    2018年01月09日
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    文化通信社 常務取締役編集長  星野 渉
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    書籍で食べられるアメリカの書店

    これまで見てきた3社に共通しているのは、書籍の取引条件(書店マージン率)を改善しようとしていることと、それを返品しないことで実現しようとしている点である。

    アマゾンは基本的に利用者からの発注に基づいて商品を調達しているため、もともと返品が発生しにくい。そして、紀伊國屋書店は出版社との直接取引で買切を約束し、取次経由で仕入れているTSUTAYAは返品ペナルティーという方法を提案している。

    これらの動きは、それほど大きくなっているわけではないが、ネットも含めた日本を代表する書店が、長年、多くの書店が望んできた粗利改善、しかも40%程度の高率を実現しつつあるという点に注目すべきである。「とても無理だ」と思われていたことが、現実のことになっているのである。

    冒頭の物流問題で指摘した、今後避けられないであろう価格の上昇と、書店の粗利益率拡大によって、どのような展望が描けるのか。もともと書籍で経営を成り立たせてきたアメリカの書店を例に見てみたい。

    2017年6月に文化通信社が実施した「第7回海外視察ツアー」で、ニューヨークの書店「グリーンライト・ブックストア」を再度訪問した。2009年に創業した約50坪の書店だが、今回、初めて客単価と購入客数を聞くことができた。

    客単価は28ドル(約3,000円)、客数は平日が170人程度、土日が300人程度。週7日営業だというので計算してみると、年商は2億2,000万円ほどになる。50坪の書店としてはかなり繁盛しているといえるだろうか。

    ▼ニューヨークのブルックリン地区にある「グリーンライト・ブックストア」。2009年開店、売場面積は約50坪。

    しかし注目すべきは粗利益である。同店のマージンは、直接取引の場合(仕入れに占める取次のシェアは約9%)、大手出版社で52%、中小出版社でも40%程度。平均45%と仮定しても、年間の粗利益額は1億円近くになる。粗利益率20%程度の日本で考えれば、年商5億円に相当する。

    同書店は創業から6年で初期の借り入れを返済し、2016年11月に新規店を出店した。従業員はマネージャー9人と常勤10人、パートタイム12人の31人。30~40代に見える女性経営者、レベッカ・フィティングさんに独立系書店の展望を尋ねると、「とても楽観しています」という答えが返ってきた。

    ▼グリーンライト・ブックストアの経営者、レベッカ・フィティングさん。

    日本にも現れる「書籍店」

    日本でも最近創業した個人書店が、新聞や雑誌でよく取り上げられている。それぞれ出自も、ビジネスモデルも違うが、意外と定着しつつある店がある。

    こうした店の一つ、東京都杉並区荻窪で創業した「Title」は、2018年1月で開店から2年を迎えるが、今のところ当初想定通りに、少ないながらも利益を計上しているという。

    ▼東京・荻窪にある「Title」

    Titleはほとんどの商品を日本出版販売から仕入れているが、配本は受けていない。すべて選んで仕入れている。

    JR荻窪駅からは結構距離がある街道沿いで、一見の客が多く入ってくるような立地ではない。経営者の辻山良雄さんによると、当初想定したよりも客数は少なく、客単価が高いため、売上は見込み通りだという。

    前を通行する人は思ったより入ってこないが、わざわざ遠くから来店する人が多く、そういう人は辻山さんが作る店の雰囲気や、品揃えに共感しているので、客単価は高くなるというわけだ。

    結果として、しっかりと書籍を揃えてお客を呼び寄せているという点で、Titleは、日本に従来多かった雑誌やコミックスなど高回転率の商材で経営を維持する中小書店というより、粗利益に違いはあるが、グリーンライト・ブックストアに近いモデルだといえるだろう。

    もし、日本でアメリカ並みの書籍価格と書店の粗利益率があれば、たぶんベテラン書店人の辻山さんも、将来を「とても楽観しています」といえるのではないかと思わされる。

    そういう意味で、大手書店が書籍の粗利益率の改善を実現し始めたことは、多くの書店にとってチャンスだといえる。

    そのために必要なことは「返品しないこと」である。さらに、出版社と交渉して好条件を引き出すために、共同仕入れや協業化といった工夫も必要になるだろう。

    ちなみに、前記のアメリカや、やはり元気な小規模書店が多いドイツでは、それぞれ取次会社が中小書店の共同仕入れをサポートしたり、直接取引の物流を受託するなど大きな役割を果たしている。

    雑誌市場が急激に縮小し、いままでの仕組みの限界が物流問題として顕在化している日本の出版業界で書店の将来を考えるためには、それぐらい大きな方向転換が必要な時期に来ているといえるだろう。


    星野渉 Wataru Hoshino
    1964年東京都生まれ。文化通信社常務取締役編集長。日本出版学会副会長、NPO法人本の学校理事長、東洋大学および早稲田大学非常勤講師。1989年から「文化通信」(出版業界・新聞業界・広告業界の総合専門紙)記者として、出版流通、再販制度問題、電子出版など出版産業の変化を取材。著書に『出版産業の変貌を追う』、共著に『本屋がなくなったら、困るじゃないか』『出版メディア入門』『読書と図書館』『電子書籍と出版』ほかがある。


    (「日販通信」2018年1月号 特集「2017-2018 出版業界 総括と展望」より転載)


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