「文庫X」は、HONZでおなじみのあの一冊!正体を隠すことで、どれだけ読者層が変わったのか?

2016年12月19日
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古幡瑞穂(日販 販売企画部)
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殺人犯はそこにいる
著者:清水潔
発売日:2016年06月
発行所:新潮社
価格:810円(税込)
ISBNコード:9784101492223

今年、注目を集めた本ランキングというものがあったら、間違いなく上位に入ってくるだろう1冊があります。それが「文庫X」。盛岡のさわや書店フェザン店さんが、本1冊を熱いコメントで覆い覆面本としてタイトルを隠して売り続けた作品です。夏から今まで、長い期間正体不明の本とされてきた作品が12月9日にヴェールを脱ぎました。

文庫Xの正体はHONZ読者にはおなじみの、『殺人犯はそこにいる』です。すでに何度もレビューにも登場している作品ですが、この作品が「文庫X」としてどう売れていたのかを改めて見てみたいと思います。

『殺人犯はそこにいる』の文庫版の発売は、今年の5月末。単行本でも売上が上がっていたこともあり、発売から堅調な売上を見せていました。とはいえ、ノンフィクションの文庫はそこから大ベストセラー……というわけにはなかなかいかないのが現実です。さて、発売から12月までの日別売上グラフを見てみましょう(日販 オープンネットWIN調べ)

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発売から、日が経つにつれて下火になっていた売上が8月から上向きに転じます。

Webメディアや新聞などが注目し、記事になるにつれ、「文庫X」は全国に広がりました。その内容、取り組みに賛同した書店さんたちの手によって、続々「○○書店の文庫X(本は同一)」が作られ展開されていきました。「文庫X」公式取り扱い店は、11月末段階では、47都道府県で600店を超える規模にまで拡大したそうです。

さて、正体を隠すことで売り続けた「文庫X」はどういった方に購入されたのでしょうか? 2016年8月1日以降の購入者のクラスタがこちら(日販 WIN+調べ)。

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以前、このコーナーで調査した時の『殺人犯はそこにいる』の単行本版のクラスタと比較してみると、その違いは明らかです。

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この単行本版の読者の併読本上位には、いわゆる実録ものや事件ノンフィクションなどが多く並んでいましたが、「文庫X」の購入者はいつもどういった本を読んでいる方だったのでしょうか?

RANK 文庫  書名 著者 出版社
1 『火花』 又吉直樹 文藝春秋
2 『小説 君の名は。』 新海誠 KADOKAWA
3 『64(上・下)』 横山秀夫 文藝春秋
4 『夢幻花』 東野圭吾 PHP研究所
5 『その女アレックス』 ピエール・ルメートル 文藝春秋
6 『怒り(上・下)』 吉田修一 中央公論社
7 『仮面病棟』 知念実希人 実業之日本社
8 『祈りの幕が下りる時』 東野圭吾 講談社
9 『羊と鋼の森』 宮下奈都 文藝春秋
10 『コンビニ人間』 村田沙耶香 文藝春秋

こちらが併読本の上位タイトル。文庫のベストセラー、それも小説のベストセラーが並んでいます。ずらっとラインナップを眺めていても、新書やノンフィクションはほとんど出てきません。

こうやって見ると、本当に「文庫X」の取り組みは「いつもノンフィクションを手に取らない読者」を『殺人犯はそこにいる』に近づけたのだなということがわかります。

さて、『殺人犯はそこにいる』を単行本で読んでいた読者の併読本に、1冊注目すべき本があります。それが『慈雨』という小説です。

慈雨
著者:柚月裕子
発売日:2016年10月
発行所:集英社
価格:1,728円(税込)
ISBNコード:9784087716702

この小説の設定は、まさにこの『殺人犯はそこにいる』そのもの。16年前自らが捜査に加わって、犯人逮捕に至った事件と酷似した事件が起こります。主人公はすでに警察を定年退職した立場ですが、この事件の発生を聞いて、真相を求める正義と、警察組織との狭間で揺れ動くという見事な社会派小説です。『殺人犯はそこにいる』を読んで心揺さぶられた方にはぜひ読んでいただきたい1冊でした。

「文庫X」は『殺人犯はそこにいる』に姿をもどして、新たな幕開けを迎えました。これがベストセラーになることで、社会はどう動いていくのか…これからの動きから目が離せません。


(「HONZ」で2016年12月11日に公開された記事に、一部編集を加えています)

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