• 夢眠書店開店日記 第6話:絶版した本を復活させる「復刊ドットコム」の仕事③

    2015年11月28日
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    夢眠書店の開店に向け、出版業界のさまざまな仕事について学んでいるねむちゃん。第6話では「復刊ドットコム」で復刊という仕事の内容や意義について伺っています。復刊ドットコムでは読者からのリクエストや「世の中に残すべきだ」という編集部の判断をもとに本を復刊しているそうですが、それではそもそも絶版になる本は、今どのくらいあるのでしょうか?

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    今回の対談相手
    ねむ・ほんのひきだし-3rd_0653sc2澤田勝弘(左)株式会社復刊ドットコム 編集部 副編集長(昭和のカルチャーが大好きです!)
    印口 崇(右)同 編集部 編集担当(幅広い分野・世代の漫画の復刻を手がけています)

     

    絶版になってしまう本の割合はどのくらい?

    ―ちなみに、絶版になってしまう本というのは多いんですか?

    印口崇(以下、印口)発売から半年経って書店店頭に出ていなければ、ほとんど絶版ですね。出版社にも “在庫の対象になる本” というのがあるんですよ。売れなければ倉庫がいっぱいになってしまうという物理的な話なんですが……。うちは比較的長持ちさせていて何年も在庫を抱えるんですが、一般的には「発売された月に買わなければ、その本はもう買えない」と考えた方がいいでしょうね。

    夢眠ねむ(以下、夢眠)えっ! 絶版というと、すごく古い本のイメージがあったんですが……。

    印口:絶版というのは「流通に残さない」ということなんです。うちも出版社なのであまり大きな声では言えないけれど、今の出版社や出版業界は大変ですよ。今は大きい書店さんも多いので、本を出版しても売り場担当者までたどり着かない場合が多いんです。書店としては仕入れていても、店頭に出されていないとか。

    夢眠:比較的新しい本でも絶版になるんですね。復刊ドットコムにリクエストが届くものの中には、そういう本もありますか?

    印口:ムックやアニメ・ゲーム関連本などはリクエストがありますね。10年とはいかないまでも、絶版から5年くらい経っている本は多いです。

    夢眠:5年前くらい前だと「知っていたけど手に入らなかった」という層がいそうですね。

    篠原京子(以下篠原)絵本も絶版になるのが早いですよ。2000年代後半のものが、今はもう手に入らなかったりします。

    夢眠:前回の対談で絵本の出版社を取材したときにも、「昔からのベストセラーは重版が続くけれど、そのぶん新しい作品はなかなか出ないので、どれだけ生き残れるか、何十年愛されるかが頑張りどころだ」と伺いました。

    印口:僕は書店出身で何十年も働いていたので分かるんですが、好きなものでさえ作品の数が多すぎて追うのが大変なんです。漫画だと月に800くらい出るんですよ。無理でしょう?

    夢眠:どんなオタクでもなかなか追えないですね……。

    印口:ということは、普通の書店では受け止められないんですよ。

    夢眠:そう考えると「理想的な書店なんて作れないな」という結論に達してしまったんですけれど……。

    印口:自分の好きなものを仕入れればいいんですよ。僕がいた専門店もそれに近かったですね。漫画の専門店だったけれど、映画の本も置いていましたし。

    夢眠:やっぱりお客さんには馴染みの方が多くなっていくんですか?

    印口:そうですね。「漫画も好きだけれど映画やアニメも好きだ」という方がよくいらしゃっていました。

    夢眠:「お客さんの顔が見える」というのは、復刊ドットコムに通じるところがありますね。

    印口:自分が好きで選んだ本を100人が買ってくれるか、それとも1,000人が買ってくれるかという話ですよね。「1,000人の同胞がいればなんとかなるじゃない」という。

    夢眠:お客さんではあるけれど、“仲間” という意識も強そうですね。私は中高生のときに「友達に『のらくろ』を勧めて2秒で返された」という苦い経験があるので、長いこと本の趣味を人に言えない時期があったんです。皆はたいていキラキラした少女漫画を読んでいるので、たとえば『少年西遊記』を渡しても全く響かないんですよ(笑)。

    少年西遊記 1
    著者:杉浦茂
    発売日:2003年03月
    発行所:河出書房新社
    価格:626円(税込)
    ISBNコード:9784309406886

    夢眠:だから「復刊ドットコムで働いていると、同じ趣味の人からの声がいっぱい聞けるんだろうな」とのんきな気持ちで来たんですが、実際はものすごく神経をすり減らす大変そうな仕事だったという……!

    ―とはいえ、買った方からの嬉しい声も届くんじゃないですか?

    澤田勝弘(以下、澤田)ありますよ。やっぱりそういう声は励みになりますね。ただ一方で、ファンであるがゆえの厳しい意見を頂戴することもありまして……(苦笑)。

    夢眠:わあ、それはオタクの悪い癖ですよー(笑)!

    澤田:「なんでこのページが抜けているんだ!」とか。

    ―原本をもとに復刊していても、ページが抜けることがあるんですか?

    篠原:すでに紹介した『少年同盟』や『怪獣ウルトラ図鑑』がそうです(第6話「復刊ドットコムの仕事①」を参照)。たとえば『怪獣ウルトラ図鑑』には、掲載できない怪獣があるんですよ。でもファンにとっては、それが掲載されていないと「きちんとした底本ではない」ということになるんです。「載せてはいけない怪獣も載せてこそ復刊じゃないか」とお叱りの声をいただきました。

    夢眠:それはもっともなんですが……。板挟みになっている側からすると……ねぇ……。

    03_ねむ・ほんのひきだし-3rd_0942sc

    印口:始末が悪いことに、その掲載できない怪獣は「ウルトラセブン」に登場するキャラクターなんですよ。

    夢眠:よりによって人気作の怪獣なんですね。「それが見たくて買ったのに!」と思う方も多いでしょうけれど、円谷さんの意向だから汲んでほしいとも思いますね……。

    怪獣ウルトラ図鑑 復刻版
    著者:大伴昌司 円谷プロダクション
    発売日:2012年03月
    発行所:秋田書店
    価格:4,104円(税込)
    ISBNコード:9784835448176

    篠原:手塚治虫さんの作品もそうですよね。

    夢眠:出すたびに内容が違うんですよね?

    篠原:よくご存じですね。たとえば『ブラック・ジャック』には、収録できないエピソードが3話あるんです。復刊ドットコムから刊行している『ブラック・ジャック大全集』にもその3話以外は全て収録されているんですが、この本に関しても「全話載っていないじゃないか」とお叱りをいただきました。やはり復刊にも限界はありますね。

    夢眠:たった3話によく気づきますね。ファンはすごいなあ……。

    ブラック・ジャック大全集 1
    著者:手塚治虫
    発売日:2012年09月
    発行所:復刊ドットコム
    価格:3,780円(税込)
    ISBNコード:9784835448688

     

    夢眠書店では好きな本だけで「どうだ!」と勝負してみてほしい

    ―それでは、夢眠書店の店長であるねむちゃんにおすすめの本を教えていただけますか?

    印口:すでに亡くなっているんですが、三原順さんという「花とゆめ」で活躍されていた作家さんがいるんです。うちが復刊を始めたときに出版社に交渉して、本を作らせてもらったんですよ。今年は没後20年ということでイベントが行われて、このときにも復刊ドットコムでは複製原画集を作らせてもらいました。イベントは神保町で4か月間開催されたんですが、今もファンの方がいて、おそらくねむさんのお母さんくらいの世代の方たちが、イベントの期間中ほとんど毎日来ていらっしゃいました。皆さん、その先生の作品しか見ていないんですよ。

    夢眠:本物のオタクだ!

    印口:『三原順 複製原画集BEST』は、もともと白泉社さんから出していた原画があって評判がよかったので、「今残っている93点のカラー原稿からベスト20を複製原画にしますよ」と投票を募って作ったものです。うちのオリジナル企画ですね。

    夢眠:タイトルが「原画集」だから本だと思っていたんですが、綴じられていない一枚画なんですね! すごい!

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    夢眠:このまま額に入れて飾る方もいるでしょうね。……これはイベントに通うのも分かるなあ。絵がかわいいです。

    三原順複製原画集BEST
    著者:三原順
    発売日:2015年09月
    発行所:復刊ドットコム
    価格:6,264円(税込)
    ISBNコード:9784835452111

    夢眠:ほかにはどんな本があるかなあ……。……あっ、これ、絵がかわいいですね! ちゃんと「あげ」を油抜きしている。超かわいい。

    日曜日の朝ごはん
    著者:碧海酉癸 五味恭子 松田直子 落合稜子 田中恒子
    発売日:2012年08月
    発行所:復刊ドットコム
    価格:2,160円(税込)
    ISBNコード:9784835448428

    篠原:絵がレトロでかわいいですよね。お話は全くなくて、突然レシピが始まるんです。これは雑貨屋さんなど、書店以外からもたくさん注文をいただいています。

    夢眠:これは好きそうな層がよく分かります。にんじんの感じもいいなぁ。

    ―POPはどの作品で書きましょうか?

    夢眠:どうしよう……。でもお話を聞いて「復刊ドットコム」のPOPを書きたくなりました。「この本にする」という感じではない気がしていて。

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    復刊ドットコムメンバー:それは嬉しいです! 全てにつけられる!

    夢眠:それがいいと思います!

    澤田:いご提案をいただけて嬉しいです!

    ―最後に、夢眠書店へのアドバイスをねむ店長にお願いします。

    夢眠:すでにいろいろとアドバイスをいただいていますが……よろしくお願いします!

    澤田:今は世の中が平準化しているというか、「個性を出すのはいけないことだ」というような傾向にあると思うんです。学校もそういう感じがありますし。だからこそ、書店をやろうという志があるのなら、ねむさんの個性を少しでも出してほしいですね。

    夢眠:頑張ります!

    印口:書店で働いた経験がある者としては、自分が好きなものをどれだけ人が好いてくれるか、むしろ「私の好きなものに皆も興味を持ってよ!」というスタンスでいいと思います。あまり人に言われたことにとらわれず、自分の好きなものを並べて「どうだ!」と勝負してください。

    夢眠:さきほど好きなものを勧めてくじけてしまった経験をお話ししたので、よけいに背中を押してもらっている気持ちになりました!なんだか自信が湧いてきました。今日はありがとうございました!

    ▼各話最終回で恒例となった直筆POPはこちら!「あのときの あのほんを あのままに」のキャッチコピーに復刊ドットコムの仕事が表れていますね。

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     感想 
    昔読んだ本をまた読みたい。でも、もう手に入らない……。それは本好きにとっては大問題で、大事件で、絶望の淵に立たされるような出来事です。その救世主が復刊ドットコムさん! あくまでも復刊なので、あのとき・あのままであることを大切にされていますが、筆者探しのための探偵業や表現の制限との戦いなど、読者に代わって復刊のために身も心も削っているお姿には、胃薬と栄養ドリンクを差し入れたくなりました……(笑)。私にはすごく特殊な編集者さんに感じられたのですが、「集めて編むことには変わりないです」という力強いお言葉が印象的でした。皆にとっての「あの本」をまた読ませてくれて、本当にありがとうございます!


    絶版になってしまった理由はさまざまでも、世の中やファンからの期待に応えて「あのときの あのほんを あのままに」をできるかぎり実現する復刊ドットコムの仕事。私たちが何十年も前の本に出会えるのは、復刊に携わる人々が著者探しから交渉、資料探しまで、文字通り身を粉にして働いてくださっているからでもあるんですね。今回で澤田さん、印口さんたちとの対談はおしまい。次回はPOP王として名高い三省堂書店の内田さんに、POP作りの極意を教わります。お楽しみに!

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