• ホモサピエンスが生き残った理由は「頭が良かったから」ではない!?『絶滅の人類史』著者に聞く

    2018年07月15日
    知る・学ぶ
    ほんのひきだし編集部
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    700万年に及ぶ人類史。私たちホモ・サピエンスは現在も存続していますが、その700年の歴史は、ホモ・サピエンス以外の人類に視点を移せば、“絶滅の歴史”ということもできます。

    『サピエンス全史』のヒットにより、多くの人の関心を集めるところとなった〈人類の歴史〉と〈私たちのこれから〉。今回は、著書『絶滅の人類史』で「ホモ・サピエンスはネアンデルタール人よりも頭が良かったから生き残った」という従来の常識を覆した分子古生物学者の更科功さんに、その真意をお聞きしました。

    絶滅の人類史
    著者:更科功
    発売日:2018年01月
    発行所:NHK出版
    価格:886円(税込)
    ISBNコード:9784140885413

     

    運命は種の優劣では決まらない

    ――ホモ・サピエンスの台頭とともに、ネアンデルタール人などの人類は絶滅していきました。ホモ・サピエンスがほかの人類を滅ぼした、ということでしょうか。

    ホモ・サピエンスがネアンデルタール人を殺した、という説は従来から唱えられてきました。しかし、これは誤りであると私は考えています。

    たしかにホモ・サピエンスの骨と、石器による傷がついたネアンデルタール人の子供の骨がフランスの同じ遺跡から発見されており、ネアンデルタール人の子供が殺されて食べられたことが推測されます。

    ところが、じつはこれら以外に、殺害の証拠資料はほとんど見つかっていない。両者が時に争ったことは間違いありませんが、集団同士の大規模な衝突はなかった、と見るべきでしょう。

    人類史には明確な史料が存在しないため、このような誤った通説が少なくありません。典型的な例が「ホモ・サピエンスはネアンデルタール人よりも頭が良かったから生き残った」という説です。

    ――私も、本書を読むまではそう信じ込んでいました。

    そのような「常識」に対するアンチテーゼを示したい、というのが執筆中も意識していた点です。ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の脳を比べると、むしろネアンデルタール人のほうが大きく、前頭葉の面積はほぼ同じです。

    にもかかわらず、ホモ・サピエンスのほうが知能が高かった、とするのは論拠に乏しい。あくまでも前者が「生き残った」という結果から逆算して推測しているにすぎず、純粋な比較ではない。

    そもそも、脳の大きさは知能を決定付けるものではありません。つまり、少なくとも現時点において、どちらの頭脳が優れていたかを断定できるはずがないのです。

    ――ホモ・サピエンスがネアンデルタール人を殺したわけではなく、しかも頭が良かったわけでもない。それでは、ネアンデルタール人が滅亡してホモ・サピエンスが生き残ったのはなぜでしょうか。

    私は大きな理由として、ホモ・サピエンスが他の人類よりも痩せていたことが挙げられる、と考えています。

    ホモ・サピエンスの体格は華奢で、そのために小食でもエネルギーが足ります。言い換えれば燃費がよい。

    折しも、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が共に生きた時代は氷河期でした。つまり温暖なときよりも食糧が少ない時代で、獲物を捕まえるために動き回らざるをえない。

    すると有利なのは燃費の悪いネアンデルタール人よりも、食糧が少なくても生きることができ、動き回るのが得意な小さな身体のホモ・サピエンスでした。だからこそ、生き残ることができたわけです。

    しかし、重ねて申し上げるとこれは「ホモ・サピエンスが優れていた」ことを意味するものではありません。もし氷河期が訪れず、温暖で食糧事情が豊かな時代が続いたとしたら、生き残ったのはネアンデルタール人だと考えられるからです。

    つまり、両者の運命を分けたのは種の優劣ではなく、どちらが当時の環境に適していたか、という点にすぎないのです。

    ※本記事は、PHP研究所発行の雑誌「Voice」2018年8月号(7月10日(火)発売)に掲載されたインタビュー「著者に聞く 更科功氏の『絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたのか』」を一部抜粋したものです。全文は同誌8月号をご覧ください。

    Voice (ボイス) 2018年 08月号
    著者:
    発売日:2018年07月10日
    発行所:PHP研究所
    価格:780円(税込)
    JANコード:4910080590888

    更科功(さらしな・いさお)
    分子古生物学者。1961(昭和36)年、東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。民間企業勤務を経て大学に戻り、現在東京大学総合研究博物館研究事業協力者。著書に『化石の分子生物学』(講談社現代新書、講談社科学出版賞受賞)、『宇宙からいかにヒトは生まれたか』(新潮選書)、『爆発的進化論』(新潮新書)など。




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