• 夢眠書店開店日記 第4話:本を売るための宣伝とは?③

    2015年10月17日
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    「宣伝」や「営業」の仕事について詳しく教わったことで、「どれだけいい本でも、やっぱり知られないと売れないんだ」と感じた夢眠ねむ。今回で、東山さんとの対談は最後。「“売れる本”ってどうやって見分けるの?」をはじめ、夢眠書店でやりたいことについてさらに掘り下げていきます。

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    今回の対談相手
    05.01東山 健 中央公論新社 営業局 宣伝部副部長 兼 第一販売部

     PROFILE 
    出版販売会社を経て、30歳で中央公論新社に入社。新聞、SNS、交通広告、映像化イベントの主催など、書店でより売れるためのプロモーションをと、日々頭をフル回転させています。

     

    売れる本って、どういう基準で見分けるの?

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    東山 健(以下、東山)昔は作ったら本が売れる時代だったので、極端に言えば、編集者が好きなものを作って出していればよかったんです。娯楽としての読書のプライオリティが高かったからでしょうね。でもインターネットやゲームが登場して、だんだん本を読む人や時間が減って売れなくなってきている。

    夢眠ねむ(以下、夢眠)ということは、出せる本が限られてきているんですね。企画の選別も厳しくなりますよね。

    東山:何が売れるのか分からないのが、難しいところです。編集者が「これは流行る!」と確信を持っていても、“本”として成功させるのは難しいんですよ。

    夢眠:「“本”として」って、どういうことですか?以前日販で「ISBNコードがあれば本である」と聞いたのですが、それとは違うんでしょうか。

    東山:形態の話もありますね。単行本ではなく、雑誌で出した方が売れたんじゃないだろうかとか。

    夢眠:そういうこだわり、なんだか分かります!私は美術をやっていたんですけれど、よく「美術じゃない」って言ったり言われたりしていました。本にも、やってきた人にしか分からないニュアンスがあるんですね。

    東山:前回お話ししたマクニールの『世界史』は、「良くて2刷くらいだろう」と踏んでいたのが、ひょんなことから50万部まで伸びたんですよね。何がどれだけ売れるかの推測は、本当に難しいです。もっとも、編集担当者は「売れて当然だ」と思っていたかもしれませんが(笑)。

    夢眠:そうか!でもやっぱり、仕掛けないと見つけてもらえないですもんね……。ちなみに営業マンと編集者って、仲は良いんですか?

    東山:昔はどの出版社も、売る側と作る側とで常に相反する立場だったかなと思います。

    夢眠:編集担当の方から「これ面白いから売ってよ」と言われても、売れなかったり面白くなかったりしたら言い合いになるんでしょうか……?

    東山:面白い・面白くないという評価って、あくまで主観的なものなんですよ。ある人にとっては最高に面白い本でも、もしそう思う人が一握りしかいなかったら、恐らく全国で売っても売れ行きは芳しくないでしょうね。

    夢眠:あまりにニッチだと、そこそこ売れたとしても全国的なブームになるのは難しいということですね。

    東山:とはいえ、どこから火が付くか分からないのも事実です。なので、最初から売れる・売れないを決めつけるのではなく、編集担当からもらった原稿はまず読んでみる。それで「この書店さんなら売れそう」「この書店さんが好きそうだな」と判断して、実際にゲラを読んでもらう。そうやって火種を作っていくんです。

    夢眠:「人と人との仕事」なんですね。

    東山:どの書店に(本を)送ってもまんべんなく読者がいるというのが、楽ではあるんですけれどね……(笑)。

    夢眠:それよりは、難しい子(本)の方が愛着が湧くんじゃないですか?「俺が育てた!」的な。

    東山:愛着、湧きますね。営業チームで「やったな!」と盛り上がったり(笑)。

    夢眠:書店でお客さんが手に取っているのを陰から見たり……。

    東山:「あ!手に取ってる!」「レジまで行ってくれ……」「あっ、行った!」みたいなね。やります。後ろから「面白いですよ」って声をかけたい(笑)。

    夢眠:それ、まさに私が思っている営業さんです(笑)!そういえば私、夢眠書店では営業もやらなきゃいけないんですよ。グイグイいく心得みたいなものを、ぜひ教えていただきたいです。

    東山:やっぱり「面白い」「読んでほしい」ということをいかにアピールするかが大切です。その熱を書店さんを通じて読者に届けてもらうには、こちらが淡々としていてはダメ。本当にその本が面白いなら「これは間違いない」と伝えるべきです。

    夢眠:熱血だ!

    東山:絶対に読めば喜んでもらえるということは、軸になりますね。ねむさんはキャラクターが立っているし、絵も上手で字もかわいらしいので、夢眠書店ではぜひPOPで作品の面白さを伝えてほしいです。POPだけじゃなくて、本の内容を30秒~1分くらいの音声や動画でアピールするのもよさそう。

    夢眠:「読んでねムービー」か!

    東山:サイトにアクセスすると、音声や動画がダウンロードできるとか。

    夢眠:「喋るPOP」ですね、いいなあ。

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    夢眠:それでは、私も書店なので、東山さんがおすすめしたい本の営業をしてもらってもいいですか?

    東山:いっぱいあるんだけどなあ……(笑)。

    夢眠:谷崎潤一郎全集とか、売りたいですよね!?

    東山:ええ。でもこれはお値段が……(全26巻で17万円ほど)。

    夢眠:ですよねー(笑)。「17万あったらこれを買え!」みたいなPOPを作るしかないのかも。本に17万円もかけられる若い子がいたら、めっちゃかっこいいけどね!

    夢眠:それにしても、全集なら何セット売れるんだろう……。谷崎潤一郎全集は、今どこまで出版されているんですか?

    東山:今年の8月に4巻目が出たところですね。谷崎潤一郎全集では「編年編集」というやり方を採っていて、谷崎のデビュー作『刺青』から晩年までの作品を順番に全26巻で編集しているんです。ただ、そうはいっても第2巻や第3巻に収録されるのは比較的マイナーな作品なので、立て続けに出してもピンとくる読者は多くない。だから、最初に第1巻でデビュー作『刺青』を出した後は、第19巻・第20巻の『細雪』、第13巻の『卍(まんじ)』、そしていよいよ第17巻『春琴抄』という風に刊行していきます。

    谷崎潤一郎全集(特設ページ)―中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/special/tanizaki_memorial/zenshu.html

    夢眠:おお、代表作揃いですね!……どうします?全26巻、夢眠書店に入れます?入れましょうよ!私、全集を売ってちょっと箔をつけたいです(笑)。

    東山:いいですね(笑)。

    夢眠:私が書いたのんきなPOPでおしゃれな人が谷崎を買って、書斎に並べていたら素敵だなあ。雑誌の「おしゃれな人の部屋特集」みたいな感じで「本棚にはやっぱり谷崎全集ですよね」って言いたい(笑)。だって、ソファよりは安い!いいソファよりは安い!(笑)

    東山:本当に、そうやって買ってくれたら嬉しいですよね。

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    東山:じゃあ次は、ライトなものを紹介しましょうか。ねむちゃんは食べることがお好きなので、『ひなた弁当』はどうでしょう?

    ひなた弁当
    著者:山本甲士
    発売日:2011年09月
    発行所:中央公論新社
    価格:679円(税込)
    ISBNコード:9784122055353

    夢眠:これはどういう作品ですか?

    東山:中年サラリーマンが主人公の物語なんですが、そんなに仕事ができるほうではないので、ひょんなことからリストラの対象になってしまうんです。それで会社から「再就職先に人材派遣の仕事をあてがう」と言われて書類にサインしたら、実は派遣会社に“登録”されていただけで……。

    夢眠:日雇いみたいな感じですか?

    東山:ええ、そんな感じになってしまって。奥さんに「リストラされたことを周りに悟られないようにしてね」と言われて、会社の代わりに公園に行くようになるんです。いつもと同じようにネクタイを絞めて、いつもと同じ時間に家を出て。

    東山:主人公が公園で「これからの人生どうやって生きていこう」と考えていると、そこにたまたまどんぐりを拾っている子どもたちがいて、「それ食べられるんだよ」というのを聞くんです。食べ方をネットで調べてみると、日本人はどんぐりを米よりもずっと昔から食べていたという情報を見つけた。実際にどんぐりを炒って塩をまぶして食べてみるとおいしくて、彼は「もうこれしかない!」と感激するんです。

    東山:それからは、ネクタイをして家を出るまではそれまでと同じなんだけれど、途中から川魚を釣ったり野草を採集したりして、奥さんが家にいない隙を狙ってキッチンでこそこそ料理して。するとある時、彼が作って冷蔵庫にしまっていたおひたしを、たまたま娘が食べてしまう。娘と奥さんの「これおいしい!」「私、そんなの作ってないよ」という会話を聞いて、主人公は「これはいける」と確信するんです。

    夢眠:あはは(笑)。

    東山:少しずつ、色んなところから人生がだんだん好転していくんですよ。

    夢眠:面白そう!

    東山:最初はリストラで目の前が真っ暗になっていた主人公が、「今日も良かった」「楽しかった」と言っている。誰が読んでもハッピーになれるお話です。お金や会社での成功ではなく人との繋がりや自分の力を再発見してハッピーになれる、いい小説だと思います。

    夢眠:私、これでPOPを書きます!夢眠書店には、『ひなた弁当』と文庫版の『春琴抄』と、谷崎全集の注文書も置きたいなあ。今日はありがとうございました。

    ▼そしてできあがったPOPがこちら!いかがですか?
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    ひなた弁当
    著者:山本甲士
    発売日:2011年09月
    発行所:中央公論新社
    価格:679円(税込)
    ISBNコード:9784122055353

     感想 
    とにかく目が強いんです、東山さんは。「面白い!」「いける!」と確信したら、自信を持ってグイグイ仕掛けていく。誰しもが本を読むわけではない時代、手に取ってもらうまでにはとてつもない努力がされていました。人と人との関係はただの単純作業ではできないし、お仕事には頭をフル回転させてたっぷりと熱意を込めている。営業や宣伝は、そういう風にして“本”の明日を担っているんですね。

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    「面白い」と思ったものには自信を持つこと。それを手に取ってもらうために、努力を惜しまないこと。営業や宣伝のお仕事から、夢眠書店の店長としての心構えも教わりました。さて次回からは、ねむちゃんも子どもの頃から大好きな絵本についてお勉強していきます。お楽しみに!

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