• 夢眠書店開店日記 第4話:本を売るための宣伝とは?②

    2015年10月10日
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    前回のお話では、「夢眠書店」企画のきっかけとなったあるイベントの背景から、出版社の「宣伝」という仕事の一面を教えてもらいました。お相手の東山さんは「宣伝」と「営業」を兼任していらっしゃるということで、今回は「宣伝」「営業」の仕事について詳しくお伺いします。

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    今回の対談相手
    05.01東山 健 中央公論新社 営業局 宣伝部副部長 兼 第一販売部

     PROFILE 
    出版販売会社を経て、30歳で中央公論新社に入社。新聞、SNS、交通広告、映像化イベントの主催など、書店でより売れるためのプロモーションをと、日々頭をフル回転させています。

     

    「営業」と「宣伝」出版の世界だとどう違うの?

    夢眠ねむ(以下、夢眠)東山さんは、もともと中央公論新社で営業をされていたんですか?

    東山 健(以下、東山)そうですね。営業で、書店様の窓口や店舗をまわる仕事をしていました。

    夢眠:企画やイベントをするのも営業のお仕事なんですか?

    東山:今は営業部と宣伝部を兼務しているので、一部の書店様を営業しつつ、イベントや新聞広告を担当しています。

    夢眠:本を宣伝するけど、本の周りにある、原作になった映画も宣伝するし、イベントもするし、新聞広告も打つと?

    東山:Twitterなどもやっていますし、うちの本を売るためにテレビや雑誌に取り上げてもらったり、映画化するために動いたりもします。

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    夢眠:営業と宣伝の違いは何ですか?

    東山:営業は、日販やトーハンなどの販売会社と、その先の書店様に本を売り込むのがメインの仕事です。また、例えば「これは映画化する作品なので多めに仕入れたほうがいいですよ」と勧めたり、「スポット商品が入るので必ず売れますよ」と情報を伝えたりするのも重要な役目です。

    東山:一方で宣伝は、その本が書店でたくさん買っていただけるように、新聞広告や電車の中吊りなどあらゆる宣伝をするのが仕事。発売当初の宣伝だけでなく、1か月後の宣伝を考えたり、インターネットの検索に引っかかるように広告を掲載したり、若い人にも認知が広がるようなアイディアを練ったりしています。

    夢眠:中央公論新社さんは歴史があるので、「伝統を守る」というちょっとお堅そうなイメージがあるんですが、私を起用してくださったり、インターネットを活用したり、新しいものもたくさん取り入れていますよね。それをきちんと上に訴えかけないといけないのが、すごく大変そうです。

    東山:「新しいことをどんどんやっていかないとダメだ」というのは分かっているので、新しい試みは必須ですね。

    夢眠:本というメディアと、他の、例えばテレビや新聞、ラジオ、映画といったメディアで、相性がいいなと思うものはありますか?「夢眠書店開店日記」はWEBサイトで連載しているんですけれど、私、ネット記事を読む人は本も読む可能性があるなと思っているんです。谷崎の『春琴抄』を朗読した時は朗読CDを聞いたんですが、その時に、本は色んなものの「元」だなという気がしたんです。

    東山:(本が)売れる・売れないの相性でいうと、まだ圧倒的にテレビの力が強いですね。

    夢眠:やっぱりテレビはすごいんだ!作家さんが出て喋ったりすると売れるんですね。

    東山:そうですね。あとはニュースなどのテレビ番組内で紹介されて話題になると、非常に売れます。WEBだったら、「読書メーター」などの、いわゆる本好きが集まるサイトでのレビューも非常に相性がいいと思います。

    夢眠:意見がダイレクトに次々届く方が、営業さんや宣伝さんとしては次の動きが取りやすいんでしょうか?

    東山:そうですね。

    夢眠:テレビの反響って、売れたことは分かるけど、なぜ売れたのかまでは分からないですもんね。

    東山:WEBやSNSだと、誰が何分前に谷崎についてつぶやいたのかも分かりますし、売れ始めると1人から2人、2人から4人……とだんだん盛り上がっていくのも分かります。そういうものを見て、広告出稿の判断材料にしています。

     

    戦略次第で本は売れる

    夢眠:ここまでお話を伺ってきましたけれど、営業も宣伝もすごく難しそう……。頭めちゃくちゃ使うし、大変ですね……。そんな中でもうまくいった仕掛けはありますか?

    東山:マクニールの『世界史』という本ですかね。ウィリアム・H・ マクニールという歴史家が40年以上前に論文として出版したものを、10年くらい前に文庫化して出版したんです。ただ、世界史という硬いテーマなうえに上下巻に分かれていて、さらに定価が1,300円という本なので、ほとんど大学の図書館などがメインの購買層だろうと予想していたんです。

    世界史 上
    著者:ウィリアム・H.マクニール 増田義郎 佐々木昭夫
    発売日:2008年01月
    発行所:中央公論新社
    価格:1,440円(税込)
    ISBNコード:9784122049666

    世界史 下
    著者:ウィリアム・H.マクニール 増田義郎 佐々木昭夫
    発売日:2008年01月
    発行所:中央公論新社
    価格:1,440円(税込)
    ISBNコード:9784122049673

    夢眠:文庫で1,300円はなかなか高いですね!

    東山:そうなんです。だから初版も6,000部と少なめで、重版になっても2,000部ずつしか刷らないつもりでした。地道な売り方をする予定の作品だったんですよ。

    夢眠:じわじわと売るタイプですね。がっつり勉強する方しか読まなそうですもん。

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    東山:そんな中たまたま、大学生協を担当している営業マンが「今、東大の生協がやっている『世界の中の日本』というフェアで、マクニールの『世界史』が売れているんですよ」って言ってきたんです。「どのくらい売れているの?」と聞いたら、月に40冊くらいだと。「これはいいな」と思ったんですが、当時他の作品の宣伝に力を入れていたので、その時は「ちょっと待ってろ」と言ったんです。でも、やめろと言っているのに、その担当者がこっそり浜松町の文教堂さんで仕掛けをし始めて(笑)。

    夢眠:ダメって言ったのに(笑)。どれくらい売れたんですか?

    東山:それが、ひと月で上下合計で約300冊も売れたんです!

    夢眠:えっ!すごーい!

    東山:そこで、東大・早稲田・慶応の大学生協と、ビジネス街である浜松町の文教堂さんで仕掛けようという話になりました。大きく展開してみたら結構好調に動いたんです。

    夢眠:「勉強する方」とサラリーマンの方に刺さったということですね。

    東山:「そうなると、あとは女性か若い人が狙い目だな」と思って、渋谷のTSUTAYAさんに持って行きました。初めは「こんな高いもの、売れるわけがない」と言われて地味に展開したんですが、しばらくして「単価が高くて毎週ぽつぽつ売れるから、もう少し広げたい」とお店から連絡をいただいて、あんなに若者の多い場所でも売れるんだと分かりました。女性客が多い横浜の有隣堂さんでもきちんと売れて。

    夢眠:すごい、ターゲット別に!ちょっとずつ広がっていますね。

    東山:「こうなったら全国的にきちんとした販売戦略を立てて実施しよう!」と決めた時、東大・早稲田・慶応が持つブランドの力を使って何かキャッチコピーを作れないかと考えました。調べてみると、4月からじわじわ展開をしていたのが功を奏して、大学生協の中だと、その年の上半期、文庫の歴史ジャンルでは売り上げ第1位を獲っていたことが分かったんです。

    夢眠:やりましたね!「いっこ見っけ!」みたいな。

    東山:すぐに担当者から、大学生協にキャッチの確認をしてもらいました。無事OKをもらって、「あとは、40年以上前から世界各国で出版されているという安心感と、上下2冊で世界史が網羅できてしまうというお得感を打ち出そう」と決めたんです。

    夢眠:そうか!1冊1,300円と聞くと高いけれど、2,600円で全部網羅できると思うと安いですもんね!

    東山:この3本柱を本の帯にしたら、また売上がぐんと伸びました。当時は日本史ブームだったんですが「不人気の世界史、なぜ今?」という感じの切り口で新聞の記事にしてもらったら、テレビの取材にも繋がって。その時は特に大きく売り伸ばせましたね。

    夢眠:すごーい!最初からいきなりガツンといくんじゃなくて、じわじわ溜めて育てたんですね。まさに努力の結晶。

    東山:これだけ単価の高い文庫が50万部売れたので、それはそれは快感でしたね。

    夢眠:救出といったら大げさかもしれませんが、そういうふうに、いい本なのに売れていないものを、何か手がかりを見つけて売っていくんですね。本って、やっぱり知られなかったら売れないじゃないですか。本屋さんもそういう役割を一緒にしてくれていると思うんですけれど、東山さんも仕掛け人の役割をずっとやっていらっしゃるんですね。


    「営業」は本をたくさん仕入れてもらうための仕事で、「宣伝」はたくさんの人に本を買ってもらうための仕事。値段が高くて難しそうな本も、ヒントを見つけて書店や読者に訴えかけることでベストセラーになるという好事例も教えてもらいました。次回は「“売れる本”ってどういう基準で見分けるの?」から、夢眠書店でやりたいことを考えていきます。お楽しみに!

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