夢眠書店開店日記 第9話:校閲者のお仕事とは?④

2016年03月12日
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新潮社校閲部 湯浅さんとの対談も、そろそろ終盤にさしかかってきました。誤字・脱字だけでなく事実に反していないかなどたくさんの視点から原稿をチェックするのが校閲者のお仕事ですが、たくさんの原稿を何度も読んでいると、内容をすっかり覚えてしまうのではないでしょうか? 今回はそんな疑問から始まります。

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今回の対談相手

湯浅美知子 株式会社新潮社 校閲部

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 PROFILE 
1973年生まれ。入社以来、校閲部員として週刊誌から文芸作品までありとあらゆる刊行物を担当し、今年で20年。新潮社の刊行物のクオリティーを保つべく日々努力しておりますが、誤植や疑問点がありましたら、お気軽にお便りくださいませ。

〈こちらのお二人にもご協力いただいています〉
飯島秀一さん:
株式会社新潮社 校閲部部長(書籍部門担当)。本の楽しさ、素晴らしさを夢眠書店でいっぱい発信してください。
田中範央さん:
株式会社新潮社 編集者。入社後、週刊新潮に8年在籍、出版部に異動し単行本を作りつづけて今年で20年(もうそんなになるのか……/本人談)。

 

3回しっかり読んでも、実は内容を覚えてない!?

湯浅美知子(以下、湯浅)私たちは本が出版されるまで何度も原稿を見るわけですけど、実は原稿の内容って、いつまでも覚えていないんですよ。

夢眠ねむ(以下、夢眠)えっ?

湯浅:本を1冊仕上げると、終わった本のことって本当にすぐに忘れちゃうんですよ。忘れないと、次の本のことが入ってこないんです。

夢眠:そっか! 次は山賊の話かもしれないのに、ずっと海賊をひきずっていると……。

湯浅:そうそう!(笑) 次がフランス王朝の話だったりしたら、ねえ。

飯島秀一(以下、飯島)そのたびに全部覚えていたら相当なものです。学者になれます。

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夢眠:「何テラバイトないとダメなんだ?」って話ですもんね。そうじゃなくて女優さんみたいに、「このときはこの役に入り込む」ってことですね。

湯浅:なので、終わったらすぐに忘れます。ところが、帯ってありますよね。帯って、一番最後にくる仕事なんです。全部が出来上がったあとに編集者が本の内容から考えて書くんですけど、その頃にはもう本の細かい内容を覚えていなかったりして。「どうだったっけ?」って(笑)。

夢眠:じゃあ推薦する人が、内容を読まずにトンチンカンなことを書いていたとしたら……、それをOKしちゃったらマズいですね。

湯浅:どんなに面倒でも、分からなかったら読み直さないといけなくて。読んだはずなのに本当に覚えていないということはありますね。

夢眠:私もたまに帯の依頼をいただくんですけど、変な帯は書かないようにします(笑)。

―最近は、何らかのタイミングで帯を変えることも多いですよね。

夢眠:賞を獲ったら新しい帯をつけたり……。

湯浅:そうなんですよ! もう何にも覚えていない(笑)。

田中範央(以下、田中)……今の話、初めて聞きましたけど、けっこうショッキングですね(笑)。

夢眠:あははは!

湯浅:最初は自分だけがそうなのかと思って秘密にしていたんですけど、あるとき先輩にその話をしたら「私もそうだよ!」「私も!」「私も!」って。皆そうなんだなあと。

田中:校閲者って初校・再校・念校と、最低でも3回は必ず読みますよね。3回も読むと、よほどひどい作品でない限り頭に残るんじゃ……。

夢眠:いや、私も残らないです。

田中:あ、残りませんか(笑)。

夢眠:本当に大好きな作品でも、もう1回読んで「わー面白い! こんなこと書いてあったんだ!」とか思いますよ。実際にそうかは別ですけど、男女の恋愛観の違いみたいですよね。男の人って、ずっとストックして引きずるじゃないですか。でも女の人って「あ、よかった」って、すぐ次に行く。で、たまに読んで「そんなこともあった」って。

―飯島さんはどうですか?

飯島:忘れますよ、本当にすぐ。年齢もありますけど(笑)。

夢眠:使う脳の場所とかもあるんじゃないですか?

湯浅:そうですね、仕事用のスペースみたいなものが決まっていて。

田中:校閲だと事実関係や繋がりなどが重要になりますけど、編集は「こういう展開でいいのか」「もっといい台詞があるんじゃないか」っていうことを気にするので、頭にこびりついてしまうというのはありますね。「あの作家は直しがうまいな」とか「あの人は直してくれなかったな」とかも(笑)。

夢眠:人間に関することが頭に残るんですね。

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湯浅:逆に全部覚えている人っていうのは、引きずって辛くなっちゃったりしますね。自分が見落としたことなどもセットで忘れられないので。

夢眠:怒られる記憶をずっと引きずっちゃうことになりますもんね。

湯浅:怒られたことのない人なんていないので、それが重大か、大したことなかったかの違いだけで、みんなミスしているんですね。ただ、それを「私はミスした、ミスした……」って思っていると生きていけないので、「あれはいけなかった」とチャッと反省してすぐ次に行かないと、自分の精神衛生のためにも良くないです。

夢眠:かっこいい! 実は私、そういうところネガティブで、怒られるのが大嫌いなので、ずーっとクヨクヨしちゃうんですよ。だから「ま、いっか」って、思ってなくても言うようにしてます。

湯浅:もちろん仕事なので、同じミスをしないように反省はしないといけないんですけど、考えても、それが勝手に直ってくれるわけではないので。

夢眠:それについてずっと考えているよりは、さらにちゃんと知識を入れて……。

湯浅:同じことをしないようにすればいいのかなって。

夢眠:なんか、ちょっと人生論みたい……。

湯浅:いやいや、そんな話になるとは(笑)。

 

いないことになっているくらいがちょうどいい

夢眠:関わっていた作品の裏話なんかもあるんですか?

湯浅:本当はそういう話もしたいんですけど、基本的には内緒ですね。作家さんにとっても、触れられたくないことがいっぱいあると思いますし。

夢眠:でも、危機はたくさん救われている……。

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湯浅:……はず(笑)。

夢眠:陰のヒーローですね。

湯浅:「いないことになっているくらいがちょうどいい」というか。本当は校閲なんていないかのようにスーッとできていく本のほうが、いいわけですよね。

夢眠:でもやっぱり、色々な作家さんからすごく感謝されていると思います。だって、作家さんが恥ずかしい思いをしなくて済んだというか。私だったら、例えば本にとんでもないことを書いていて「ここ違いますよ」って言われたら、「先に言ってくれてありがとう!」って思います。そのまま出しちゃってたら、詳しい人に叩かれるわけじゃないですか。「こいつ何も分かっていないのに、こんな文章書きやがって」みたいなことを言われなくて済むっていうのは、本当にありがたいです。しかも「私がやりました」みたいなことを全然言わない。「なんていい人!」っていう感じ。

湯浅:あまり目立ちたくないですよね。隠密な存在でいたいというか。

飯島:基本的に我々にとって、誤植が何もないというのが当たり前なんです。

湯浅:そこからの減点法なので。

夢眠:ほめてもらえてます? ちゃんと。

湯浅:……あんまりないですよね。

夢眠:ボンヤリしてる著者とか、気付いてないんじゃないですか? 「俺、すごい」みたいになってません?(笑) お菓子をくれたりするのは、ちゃんと分かってくれてる人ですよね。

飯島:授賞式に呼んでいただいたりすることもありますね。

田中:『村上海賊の娘』は、ぎりぎりまでものすごく赤字を入れて直していて、その量があまりに多かったので、多少誤植が出ても仕方がないかなと覚悟していたんです。誤植って、本が出たあとに我々が気付くこともあれば、読者から「これ違ってませんか」とご指摘いただく場合もあるんですが、この本はそれが一つもなかったんですよ。

夢眠:うわぁー!!

田中:1,000ページ近い本でものすごい直しの量だったのに、誤植がなかったっていうのは、やっぱり校閲者の力ですね。

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夢眠:なんか……泣くー! そういえば以前絵本の出版社さんへ行ったときに聞いたんですが、ちびっ子から「このときの靴の色と次のページの靴の色が違います」っていうお手紙が来たりもするそうですよ。

湯浅:それは校閲者の素質があるので、ぜひ(笑)。

夢眠:そうか! じゃあ絵本に指摘してきた小さい子を集めて、新潮社さんが育てればいいんですよ! それいいですね!!

湯浅:イラストも、たまに間違っていることがあるんですよね。イラストの中に描き文字が入っているときは、それも一応読むんですよ。手の指の数が違ったりしたことがあって。

夢眠:やっぱりデッサンが狂ってたら、間違ったりしますよね。

田中:昔あったのは、コオロギのイラストに、校閲からのチェックで「コオロギの羽はもっと長いです」って(笑)。私が担当していた本で、1コマ漫画みたいなものだったんですけど、校閲は絵も必ずチェックするんですよ。だからコオロギの羽の長さもそうですし、バスの絵に対して「取っ手の場所が違っています」とか、そんな指摘もありました。

飯島:慶応幼稚舎の入試問題みたいな(笑)。

湯浅:写真も、デジカメになる以前は「裏焼きになっていないかチェックする」っていう工程がありまして、後ろに書かれている文字とか、時計の文字盤とかを見るんですよ。

夢眠:校閲の皆さんって、雑学王クイズとかでめっちゃ上位に行けるんじゃないですか?

湯浅:でも終わったら忘れちゃうので(笑)。記憶の在庫は大したことないんですよね。

夢眠:そっか、忘れるんだった!(笑) そこが人間っぽくていいなー。素敵です!

湯浅:知識量としては、在庫は大したことないんですけど、自分の趣味でやっていることに対してはマニアが多いですね。

夢眠:本当に突き詰める方が多いんですね。

湯浅:凝り性な人が多いですね。


いかがでしたか? 「分からないことはきちんと調べる」校閲者らしく、趣味など興味のあることについてはとことん追究する方が多いのは何だか納得です。次回はいよいよ第9話最終回! 夢眠書店に置くおすすめの本も紹介していただきます。お楽しみに!

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