『永遠の仔』『悼む人』の天童荒太さんが、3.11後の福島を舞台に描く、生への祈りの物語

2016年02月27日
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日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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ムーンナイト・ダイバー
著者:天童荒太
発売日:2016年01月
発行所:文藝春秋
価格:1,620円(税込)
ISBNコード:9784163903927

天童荒太さんの最新長編『ムーンナイト・ダイバー』は、3・11から5年となる福島を舞台に、「生」の痛みと尊さを深く静かに見つめる物語だ。

元漁師で、いまはダイビングのインストラクターとして働く瀬奈舟作は、月明かりの下、亡父の親友である松浦文平と立入禁止区域の海に船を出し、海底に沈んだ品物の採集を行っていた。その非合法の仕事を依頼してきたのは、津波で大切な人を亡くした人々が集う秘密の会。ある日、会員の1人である眞部透子という美しい女性が舟作の前に現れる。彼女は舟作に、いまも行方知れずの夫がしていた指輪を「探さないでほしい」と告げるのだった―。

舟作は、なぜ危険を冒して、海に潜るのか。彼が探し求める“答え”とは。喪失の痛みを越えて辿り着く、成熟とは、愛とは。天童さんが本作に込めた思いを聞いた。

 

再び悲しみに向き合うために

「震災を書こう」という思いを、以前から抱いていたわけではない。その天童さんを『ムーンナイト・ダイバー』の執筆に向かわせたのは、あのつらい出来事を「なかったこと」にするかのような社会のありようだった。

「当時3・11を、社会や人々の心のあり方にNOを突き付けられたのでは、とシンボル的に受け止めた人が日本全体にいました。その結果、絆という言葉や、共に生きる感覚を見直そうという機運が生まれたにもかかわらず、それは1年ほどしかもたなくて。むしろ復興の名のもとに、より一層経済を優先し、競争を激化させる方向に舵が切られている。その中で、人々がもう一度、ともに生きる豊かな社会を取り戻すには、あの時からいまも何も変わっていないのだと受け止めて、悲しみにくれている人々としっかり向き合うことが大事なのではないか。それを伝えられるのは、おそらく小説だけだろうと思いました」

多くのノンフィクションが先行作品としてある中で、物語としてできることは何なのか。天童さんが選んだのは、報道のカメラも入れない立入禁止区域の海の中から、そこにいまなお眠る人々の暮らしと悲しみを映し出し、命や愛の尊さを描くこと。小説の力を確信した上で、ダイビングを体験したり、被災地に足を運びながら、物語を温めてきた。

「福島の浪江町の辺りから取材に入って、まだ何も復興していない、破壊されたままの町をいわきへ南下する形で見ていきました。ものを書くのは不遜なことだというためらいが常にあるので、原子力発電所を間近に見る海に手をつけて、誠実に向き合って書かせていただきますとお約束をして。帰ってきて書き始めたら、短編の予定だったはずがそれではとても収まらない。最後は1冊になることがわかったので、5年目となる3月までに出さなければ海での約束が果たせないし、あの約束があったから背中を押されるように書かせてもらえている気がして、これまでにないペースで書き進めることができました」

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