「読みたい雑誌は自分で作ればいい」 調整しないことで生まれた「This!」の魅力

2016年02月20日
楽しむ
SDJ(日販 広報)
Pocket

小学館の女性向け雑誌といえば「CanCam」「Oggi」などのいわゆる”赤文字系”が有名です。しかし今回ご紹介する「This!(ディス!)」は、そういった可愛い・キレイの王道をいく雑誌とはかなりテイストが異なります。正直、初めて見たときに他の出版社の雑誌かと思ったくらい。

なぜ出版社のもつイメージを超えて、このような雑誌(ムック)が創刊されたのでしょうか。「This!」の制作秘話を、編集長の小林由佳さんに伺ってきました。

小林由佳さん(株式会社小学館 児童・学習編集局「図鑑百科編集室」)

DSC03317

普段は植物図鑑などの編集をしているが、小学館では所属部署の業務とは別に単行本なども手がけられることから、『あたらしいみかんのむきかた』や『おじさん図鑑』といった個性的なベストセラーを生み出す。
自身の持つ“面白アンテナ”を一番に信じて本を作っていく中で「本当に読みたい雑誌のかたち」を考え、実現することを決意。2015年11月に“ファッションだけでは満足できない、好奇心旺盛な女子が本当に知りたいこと”をぎゅっと詰め込んだ、新しいファッション&カルチャームック「This!(ディス!)」を創刊した。

〈「This!」以外に小林さんが編集を担当した本〉

おじさん図鑑
著者:なかむらるみ
発売日:2011年12月
発行所:小学館
価格:1,080円(税込)
ISBNコード:9784093881395
あたらしいみかんのむきかた
著者:岡田好弘 神谷圭介
発売日:2010年11月
発行所:小学館
価格:1,080円(税込)
ISBNコード:9784092271463
著者:多田多恵子 大作晃一
発売日:2014年06月
発行所:小学館
価格:2,160円(税込)
ISBNコード:9784092172197

 

広告のためだけの雑誌なんて作りたくない。

―これまでの小学館の雑誌は「王道」のイメージが強かったので、「This!」を拝見して、まず「小学館っぽくないな」と思いました。社内での理解はすぐに得られたんですか?

小林:全然。すぐに納得してもらえたわけじゃないですよ! 企画会議で一度NGも出ましたし、「This!」の表紙に出てくれた「水曜日のカンパネラ」もほとんどの人は知らなかったりして、なかなか理解してもらえませんでした。でも私のほうも表紙ができあがったのが校了日という具合で、見せる暇もなかったんですけど(笑)。

This! volume 001
発売日:2015年11月
発行所:小学館
価格:810円(税込)
ISBNコード:9784091037718

(「水曜日のカンパネラ」のコムアイさんについて)「『ヤフオク!』のCMで見たことがあるなあ」くらいの認識ですかね。

小林:いえ、私に言われて見てみたら「出ていたな」くらいの認識ですよ。「売れるの?」と聞かれたので「多分めちゃくちゃ売れます」って言いました(笑)。

―「This!」は、「好きな人は好き」というニッチなテイストの雑誌ですよね。その理由を教えていただけますか?

小林:昔はファッションも音楽もその他のカルチャーも、全部入っている雑誌が普通にあったと思うんです。マガジンハウスの「relux」や「olive」、90年代半ば頃の「CUTiE」(宝島社)なんかがそうですよね。そういう作り方をしている雑誌って、どうしてもニッチになるんです。でも最近、そんな雑誌が少なくなったなぁと。今は雑誌が売れなくなってきているので、広告を取りやすくするために話題のアイドルを起用したりしがちなんですよね。でもそれだと、他のメディアに負けちゃうと思って。

 

「帰りたくなる」コンテンツを作りたい

小林:私はテレビが大好きなんですが、今は「テレビは面白くなくなった」とよく言われますよね。大物を連れて来て、視聴率を取りやすいクイズをやって……という番組も多いですけど、そのクイズ番組を観るために「家に早く帰ろう!」と思うだろうかと考えると、そうではないんじゃないかなと。その中で「M-1グランプリ」や「IPPONグランプリ」、「下町ロケット」や大河ドラマを観るためなら、都合をつけて帰る方が多いじゃないですか。せっかく出版社に入ったからには「帰りたくなる」ものを作りたいなと思ったんです。

―どうすれば「帰りたくなる」コンテンツになると思いますか?

小林:大コケすることもあるとは思いますが、まずはすべてを妥協せずに作ることだと思っています。ドラマ「下町ロケット」とかも、主題歌にタイアップでレコード会社の売りたいバンドを使ったりせずに、作品の世界観を優先しているじゃないですか。私もそういうものを作りたかったんです。

―なるほど。ただ雑誌って、多くの要素を含んでいるじゃないですか。その分妥協というか、調整が多いメディアなんじゃないかなと思うんです。「This!」ではどうですか?

小林:そういう意味だと、「調整しない」と決めて作りました。タイアップのページはありますが、「タイアップっぽくない」を目指しています。読んでいてちゃんと記事として面白いとか、よく読むと実は商品のことをあまり褒めていないとか(笑)。
雑誌はテレビやWEBに比べると、購読者が限られる「小さなメディア」です。その分他ではできない切り口や、他の層には拾えないやり方で勝負したほうがいいなと思っています。また、そういう期待に答えられるメディアにもなりたいですね。実際に「This!」への広告出稿をお願いしに行ったとき、ある企業の担当者さんが「わくわくする雑誌には広告を出したいと思っていたんですよ」と言っていただいて、予想以上の広告が入ることになって、やっぱり雑誌が好きな方も多いんだなと嬉しかったです。

 

均一化されないところから生まれる「その人らしさ」

―「This!」に「大人なんてたいしたことなくない?」という特集がありますよね。タイトルは煽情的ですけど、納得感が非常にあったんです。今って就職活動中に“自分探し”というか「何がしたいのか」を深掘りさせられすぎていて、いざ入社するとがっかり……みたいなことも多いと思うんです。でもこの記事を読んで、皆が憧れるような職業に就いてる人たちでさえ、思いのほか「流れのままに生きている」みたいな感じがあって(笑)。

小林:そう。そうなんですよ! 希望の会社に入ったからといって、やりたい仕事ができるとは限らないですしね。そういうことがちゃんと腑に落ちている大人の方や、自分と同じ世代の人からは非常に共感してもらえました。

―憧れの仕事に就いた人たちのコメントにも人柄が表れていて、読んでいて面白いです。

DSC03323

小林:職業のイメージと本人とのギャップが面白いですよね。スタイリストの梶雄太さんは、すごくおしゃれな芸能人やモデルなどのスタイリングをしてるんですけど、青春時代の思い出は「給食おかわりしまくり」ですからね。「スタイリストさん」のイメージとは違いますが、本人を知っているとものすごく「その人っぽいなあ」と感じるんです。

―直接お会いしたことはないですが、平野紗季子さんやtofubeatsさんも「その人っぽさ」が感じられていいなと思いました。

小林:「青春時代の思い出に残るエピソード」を見比べてみると、特に人柄が分かりやすいですね。いかにも会社員っぽいとか、フリーランスっぽいとか。

〈tofubeatsさんの 青春時代の思い出に残るエピソード〉
中高一貫の男子校だったから受験がなく、1月から高校入学まで3ヶ月間くらい授業がなかった。この期間、友達が「彼女がもうできないから、脳を騙してしまえばいいんじゃないか」っていう結論に至って、みんなで心理学の本を読んで勉強する事に。空気を握った時に、握り返してくる、みたいに脳を騙せれば、彼女とかそもそも作らんでいいだろう、とみんなで自己催眠がかけられるのか試した結果、かけられなかった。でもあの時の事は忘れられない。(「This!」25ページより引用)

小林:本当tofubeatsさん、エモいですねぇ(笑)。

―こういうコメントも、普通の雑誌だと長さや言葉のニュアンスが調整されて、均一化されると思うんです。でも「This!」では長文もあれば一言だけのコメントもあって、「きっとアンケートのまま持ってきたんだろうな」と思っていました。全体的にこの雑誌は、無駄を愛しているんだなと……(笑)。でもそのほうが「その人っぽさ」が出るんですよね。

小林:確かに「普通の人と同じやり方をしていたら負けるから別のやり方をしてるんですが、何か?」みたいなところはあるかもしれないですね(笑)。「This!」ぜひ読んでみてください!


「This!」創刊号(特集:進路)は現在絶賛発売中! 4人の編集者によって作られているこの雑誌(ムック)は、個人経営のレストランのように作り手の個性が出ています。「こんな雑誌を待っていた!」という方も多いのではないでしょうか?

次号のテーマは「れんあい」の予定とのこと。どんな内容になるのか、今から楽しみです。

Pocket

タグ
  • ほんのひきだし公式Instagram

    ほんのひきだし公式Instagram
  • 関連記事

    ページの先頭に戻る