• 文芸復興プロジェクト担当匿名座談会「2015年に読んで面白かった一冊」

    2016年01月06日
    楽しむ
    仕入窓口のさっかー小僧(日販 仕入部)
    Pocket

    2015年、日販は「文芸復興プロジェクト」という取り組みを始めました。これはランキングの順位や著者のネームバリューにとらわれない、とにかく「読んで面白い一冊」を世間に広めようというもので、「小説太鼓判」もその一つ。「小説太鼓判」に関しては、すでに「ほんのひきだし」でも第1弾・第2弾をご紹介しています(記事はこちら)。

    そんな一年を振り返り、この度プロジェクト担当者4名が「今年読んで面白かった本」を数冊ずつ持ち寄って、それぞれ「今年の一冊」を決めるべく座談会を開催しました。さて、担当者は何を選ぶのでしょうか?

    〈今回座談会に参加したメンバー〉
    A:仕入部所属で、担当は文芸書。プライベートでは走ったりボールを蹴ったりしている。
    B:元仕入部で、現在は販売企画グループに所属。仕入部時代は文庫本を担当していた。プライベートでは一児のパパ。
    C:仕入部のプリンス。ひたすらに王子様だが、麻雀もする。
    D:40代独身貴族にして、文芸書・文庫仕入の総元締め。4人の中でも圧倒的な読書量を誇る。

    ***

    A:普段のプロジェクトでは「発掘」という観点で作品を選んでいますが、今回は個人的な「今年の一冊」を決めるということで、一人3冊を目安に紹介していきましょう。ではまず私から。

    A:まずは三浦しをんさんの『あの家に暮らす四人の女』。

    あの家に暮らす四人の女
    著者:三浦しをん
    発売日:2015年07月
    発行所:中央公論新社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784120047398

    D:何冊持ってきたの?

    A:プルーフ含めて6冊ですね。

    B:3冊って言ってたのに(笑)。

    A:選べないなと思って(笑)。『あの家に暮らす四人の女』は、谷崎潤一郎の没後50年にちなんで中央公論新社から出版された作品です。いろんな作家さんが谷崎潤一郎作品をオマージュして書いてるんですけど、こちらはいわば現代版『細雪』ですね。年代の違う4人の女性が同じ家に暮らしていて、このままでいいのかと悩みながらもやっぱり毎日楽しいよねっていう。読んでいると前向きになれる感じです。

    C:映像化しやすそうな設定だよね。配役を当てやすそう(笑)。

    A:『細雪』も映画とかテレビドラマ、舞台になってますしね。

    B:個性のある女性4人が一緒に暮らしている話といえば、小説じゃないけど今年は『海街diary』が映画化されたよね。

    A:そうですね。ちなみに『あの家に暮らす四人の女』は、同じ部署の本読みの人も「これは面白かった!」って言ってましたよ。

    C:へえ~。

    A:続いて2冊目は、北康利さんの『佐治敬三と開高健 最強のふたり』です。佐治敬三さんはサントリーの2代目社長で、開高健さんは作家。これはノンフィクションなんですが、佐治敬三さんと開高健さんのやりとりが熱くて「仕事に情熱を持つってすばらしいな」「こんなふうに仕事したいな」って改めて思いましたね。ものすごく影響を受けてしまって、読了して以来お酒の席ではよくトリスハイボールを飲んでいます(笑)。

    佐治敬三と開高健
    著者:北康利
    発売日:2015年07月
    発行所:講談社
    価格:1,944円(税込)
    ISBNコード:9784062186124

    B:値段ってどれくらいなの?

    A:1,800円。

    B:この厚さなら意外と安いね。

    A:そうそう、お薦めですよ。

    A:最後の1冊は完全に個人的な趣味なんですが、マルコ・トマシュさんの『オシム ゲームという名の人生』です。

    オシム
    著者:マルコ・トマシュ 千田善
    発売日:2015年03月
    発行所:筑摩書房
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784480837189

    A:こちらは3月に筑摩書房から出た本で、元サッカー日本代表監督のイヴィツァ・オシムの激動の人生を綴った一冊ですね。特にボスニア紛争の描写は生々しくて、号泣しながら読みました。当時オシムさんは家族とバラバラになって2年間くらい会えなかったそうなんですよね。その辺りは木村元彦さんをはじめいろいろな人が書いているんですが、新しい視点というか、島国に生まれた我々にとっては民族紛争とかもなかなか現実味が湧かなかったりするので、一読の価値ありです。

    B:なるほど。そしてさすがというべきなのか、ミステリーが1冊もないね(笑)。

    C:じゃあ私が紹介しますね。私は1冊なんですが。

    B:珠玉の一冊だね(笑)。

    C:僕が今年読んで面白かったのは、本城雅人さんの『トリダシ』です。

    トリダシ
    著者:本城雅人
    発売日:2015年07月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,890円(税込)
    ISBNコード:9784163902937

    D:そうきたか!

    C:6月頃に講談社さんとの間で「文芸復興プロジェクトで本城雅人さんを推そう」って話が出たのがきっかけで、本城さんの既刊をいろいろと読んだんだけど、その中で一番面白かったのが『トリダシ』なんです。

    C:どんな話かというと、主人公は女性のスポーツ記者なんだけど、その人自体は普通の人なのね。同じ部署に素行の悪いおじさんがいて、その人が「トリダシ」って呼ばれていると。「トリダシ」は露骨で下品だから社内外で嫌われてるんだけど、有能でスクープをばんばん取ってくるの。それで主人公が、なぜそんなにスクープを取ってこれるのかを探っていくっていう話なんだよね。本城さんはもともとスポーツ新聞記者だったこともあって、リアリティがあって面白かった。

    C:あ、さっき1冊って言ったけどもう一つありました。幸田泉さんの『小説 新聞社販売局』。

    新聞社販売局
    著者:幸田泉
    発売日:2015年09月
    発行所:講談社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784062197090

    A:新聞好きだねえ(笑)。

    C:新聞を題材にした本は今年結構読んだね(笑)。これはタイトルのとおり新聞の販売局が舞台で、販売部数を水増しする「押し紙」という行為を描いた作品。たとえば池井戸潤さんの「半沢直樹」シリーズでも、実際は銀行に勤めていなくても裏事情が見えて面白かったり、自分の身の回りに通ずるところがあって胸にズシンときたりするじゃない? そういう面白さがありましたね。

    B:なるほど。じゃあ次は私いきますね。黒いに闇で『黒闇(くろやみ)』というタイトルの単行本がありまして。

    D:著者は誰なの?

    B:草凪優さんです。官能小説界のトップランナーですね。

    黒闇
    著者:草凪優
    発売日:2015年09月
    発行所:実業之日本社
    価格:1,944円(税込)
    ISBNコード:9784408536736

    B:そんな草凪優さんが官能小説ではなく本気の恋愛小説に挑戦したっていうのが、この『黒闇』です。どんな話かっていうと、底辺まで堕ちてしまった男性が真実の愛にたどり着くまでの話……というとありきたりに聞こえるんですけど、『黒闇』の一番の面白さは、愛と性を何にも包まずにむき出しにストレートに表現しているところなんです。そこが他の作品とは全然違う。さすが官能作家というか、群を抜いてますね。表紙は結構ダークというか官能的なんですけど、出版業界の本読み書店員さんが帯に推薦コメントを寄せていたりして、本好きからはなかなか高い評価を得ています。

    B:2冊目は田中経一さんの『歪んだ蝸牛』。これはページをめくる手が止まらなくなる痛快な一冊ですよ。テレビ業界の暗部を抉りつつ、そこで活躍する人たちの泥臭い人間関係とか勧善懲悪の痛快さとかがあって、非常に面白かったです。あと田中経一さんって、まだ2作しか本を出してないんですよ。もともとはテレビ業界で働いていたプロデューサーなんですが、現在は制作会社を経営しつつ、本を書いていると。

    歪んだ蝸牛
    著者:田中経一
    発売日:2015年04月
    発行所:幻冬舎
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784344027558

    A:1作目の『麒麟の舌を持つ男』は、「天皇の料理番」みたいな話なんだよね?

    B:そうそう。人生の最期に食べたいものを再現する“最期の料理人”のミステリーですね。

    麒麟の舌を持つ男
    著者:田中経一
    発売日:2014年06月
    発行所:幻冬舎
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784344025981

    A:料理もおいしそうだし、ストーリーも面白かったけど、まだ人気に火がついてる感じじゃないね。「王様のブランチ」でも特集されていたけど……。

    C:料理がおいしそう(笑)。

    B:文庫化の際にまた仕掛けられたらいいなと思ってます。

    B:最後の3冊目は、普段から何度もお薦めしてるんだけど、薬丸岳さんの『Aではない君と』。薬丸岳さんはこれまでにも少年犯罪がテーマのものを執筆されてますが、『Aではない君と』は「息子が殺人を犯したときに人はどうするか」というテーマを書いた集大成です。面白い・面白くないというより“突き刺さる”一冊なので、ぜひ読んでもらいたいですね。

    Aではない君と
    著者:薬丸岳
    発売日:2015年09月
    発行所:講談社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784062195584

    C:俺も読んだけど、子どもがいるB君と俺とでは感じ方が違うかもな。

    B:(読後は)鉛を飲んだようだったね。

    C:つらかったね……。

    A:『Aではない君と』、相当評価が高いよね。

    C:本屋大賞の候補になるかもしれないね。

    B:そうなったらその時期にまた盛り上がるだろうから楽しみだね。大賞を取るかどうかは置いといて、候補になってほしい。

    D:なるほどねぇ。じゃあ、最後は私から。1冊目は逢坂剛さんの『墓標なき街』。「MOZU」シリーズの最新刊です。

    一同:おぉー。

    墓標なき街
    著者:逢坂剛
    発売日:2015年11月
    発行所:集英社
    価格:1,944円(税込)
    ISBNコード:9784087716368

    D:「MOZU」シリーズは昔から読んでたんだけど、新作が13年ぶりに出るとあってもう一度最初から読み直したんだよね。そうしたらやっぱりすごく面白くて。13年ぶりに新刊が読めたことに対する満足感も含めて、今回の「今年の一冊」の候補に挙げました。

    C:やっぱり年代が違うと選ぶ作品が違いますね。

    D:2冊目は朝井リョウさんの『世にも奇妙な君物語』。読んだ?

    世にも奇妙な君物語
    著者:朝井リョウ
    発売日:2015年11月
    発行所:講談社
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784062198240

    B:まだ読んでないです。

    D:朝井リョウさんが「世にも奇妙な物語」の大ファンで、勝手に原作を書いてみたっていうコンセプトの短篇集なんだよ。連作短編ではないんだけど、ちょっと仕掛けがあって前後の作品が繋がっていて、「一粒で二度おいしい」という感じで楽しめる。

    D:あとは番外編として、今年出た作品じゃないんだけど福澤徹三さんの『侠飯』も面白かったな。ひょんなことからヤクザが自分の家に住みついちゃって大変な毎日を送るっていう、簡単にいうとそんな話なんだけど。登場人物の生き方も面白いし、さっきの『麒麟の舌を持つ男』じゃないけど、出てくる飯がとにかくうまそうなんだよ。

    一同:(爆笑)

    D:本当に、びっくりするくらいうまそうなんだよ!

    A:落ち着いてください(笑)。

    C:でも秋川滝美さんの『居酒屋ぼったくり』なんかも売れてるし、食がテーマの小説は人気ありますよ。

    A:そうそう。

    C:遠藤彩見さんの『キッチン・ブルー』もそうだしね。

    D:今度出る樋口直哉さんの『キッチン戦争』も面白そうだよ。まぁ、侠飯の話に戻ると、最後もびっくりするような展開があって、最初から最後までまるごと楽しいです。

    C:番外編と言いつつものすごい勢いで推しますね(笑)。

    ***

    C:それでは全員紹介したところで、そろそろ一人ずつ「今年の一冊」を決めましょうか。

    A:そうですね。じゃあ私は『佐治敬三と開高健 最強のふたり』で。

    B:私は『Aではない君と』。

    D:『墓標なき街』にします。

    C:『トリダシ』で。

    ということで、文芸復興プロジェクト担当者が選ぶ2015年の一冊は、以上の4作に決まりました。来年も面白い本をたくさん皆さんにご案内できるよう、努めてまいります。今年もよろしくお願いいたします!

    (※座談会は2015年12月15日に実施しました)


    小説太鼓判の第1弾・第2弾はこちら

    【第1弾】デビュー以降3作品すべてが一級品!乱歩賞作家・下村敦史はミステリー界のディープインパクトだ!
    【第2弾】柚月裕子さん『ウツボカズラの甘い息』小説太鼓判の第2弾が全国の書店で展開中!

    タグ
    Pocket






  • 関連記事

    ページの先頭に戻る