• 「パラダイスは続く」 森沢明夫さんにとって、書店はいつも“パラダイス”!

    2016年01月05日
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    日販 商品情報センター「日販通信」編集部
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    吉永小百合さん主演で映画化された『虹の岬の喫茶店』(映画タイトル「ふしぎな岬の物語」)、有村架純さん主演で映画化が決定した『夏美のホタル』(2016年初夏公開)、読むと卵かけご飯が絶対食べたくなる『ヒカルの卵』……森沢明夫さんの作品は、著者のやさしいまなざしが感じられるハートウォーミングな物語ばかりです。最新刊『きらきら眼鏡』も大好評発売中!

    そんな森沢明夫さんに「書店との出合い」を綴っていただきました。人生のさまざまなシーンに寄り添っていた、いくつもの書店が登場します。

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    森沢明夫
    もりさわ・あきお。1969年、千葉県生まれ。早稲田大学卒業。日韓でベストセラーとなった『虹の岬の喫茶店』は、吉永小百合主演で「ふしぎな岬の物語」として映画化。『ライアの祈り』『あなたへ』『津軽百年食堂』も、それぞれ映画で話題になった。近著に『癒し屋キリコの約束』『ヒカルの卵』『ミーコの宝箱』『大事なことほど小声でささやく』など。

     

    パラダイスは続く  森沢明夫

    幼少期のぼくは、夜が大好きな子でした。ベッドに入り、部屋の電気を消し、代わりに枕元の黄色い読書灯を点け、そしてはじまる約一時間ほどの読書タイムが至福だったからです。毎晩、布団の中で絵本や児童書を読み耽っては、物語の余韻に浸りつつ、あれこれ好き勝手に妄想を展開し、そのまますうっと夢の世界へと入っていく。それが何とも心地よかったのです。

    読書家の両親は、当時、ぼくが望むだけの本を買ってくれました。もちろん、お菓子やおもちゃなどには制限がありましたが、本だけは「好きなものをいくらでも買っていい」という教育方針だったのです。だから子供時代のぼくにとって、書店という空間は「いくらでもお金を使えるパラダイス」なのでした。

    ぼくの記憶の中にある、いちばん古い時代の書店は、駅前になぜか二軒並んであった小さな平屋建ての書店でした。手前の店の店員さんは、いつもいかめしい顔をしていたので、ぼくは奥の書店をメインに利用していた気がします。母からもらった小遣いを半ズボンのポケットに詰め込んで、自分の身長の三倍はあろうかという高い本棚を見上げたりしながら、胸をときめかせていたのをよく覚えています。

    小学校の高学年になると、駅前のビルの二階に三省堂書店ができました。今まで通っていた書店よりも規模の大きな「パラダイス」の誕生に、当時のぼくのテンションは上がりまくりでした。三省堂書店はフロアがきっちりふたつのスペースに分かれていました。エレベーターを出て左側は小説や雑誌などが並ぶ「大人コーナー」で、右側は児童書、絵本、漫画、学習参考書などの「子供コーナー」。まだ児童だったぼくは、もちろん「子供コーナー」をホームにしていましたが、ときには小さな冒険心を胸に「大人コーナー」へと突入していきました。わくわく、どきどきのプチ・アドベンチャーです。何しろ自分以外の人間はすべて見知らぬ大人で、完全アウェーですから。

    でも、そんなアウェーのなか、書棚で作られた夢のような迷路を探検して回り、自分の読めそうな小説を見つけ出すという行為は、ほとんど宝探しでした。しかも、発見した宝物をレジへと持っていき、大人用の渋いブックカバーをかけてもらうときの誇らしさときたら、もう言葉にならない優越感&高揚感です。あの頃は赤川次郎さんや宗田理さんなどの作品を好んで読んでいました。赤川さんの『マリオネットの罠』や、宗田さんの『ぼくらの七日間戦争』は、大人になったいまでも忘れられないタイトルです。

    時は流れ、ぼくが大学生になった頃には、三省堂も、平屋のふたつの書店も閉店してしまいました。それは非常に哀しかったのですが、当時のぼくは暇さえあればバイクにまたがり全国を野宿放浪していたので、北海道から沖縄まで、まさに日本中の書店を巡って歩くという、新たな楽しみを味わっていました。

    大学を卒業すると、出版社に就職し、本を作る側の人間になりました。編集者になったのです。当時、ぼくが仕事で人と会うときは、たいてい書店を待ち合わせ場所にしました。なぜなら、相手が遅刻をしても、立ち読みをしていれば、ちっとも気にならないからです。しかし、相手が遅れれば遅れるほどに、ぼくの鞄の中には新たな本が詰め込まれていき、ズッシリと重くなってしまいましたが。

    そしていま、小説家になったぼくにとって、書店は拙著と読者をつないでもらえる感謝の場となりました。拙著がPOP付きで平積みされている棚を見かけると、思わずその辺にいる書店員さんをつかまえて握手をしたくなります。しかも、その本を買ってくれる人が現れないかと、しばらく見張っていたりもしています。でも、どういうわけか、まだその瞬間に出会えたことがないのです! いつか、その瞬間と出会えることを願いつつ、ぼくはこれからも大好きなパラダイスをうろつき回ります。

     

     著者の新刊 

    きらきら眼鏡
    著者:森沢明夫
    発売日:2015年11月
    発行所:双葉社
    価格:1,836円(税込)
    ISBNコード:9784575239270

    (「日販通信」2016年1月号「書店との出合い」より転載)

    ●あわせて読みたい:山奥に卵かけごはん専門店をオープンした男の話。ほっこり感動作『ヒカルの卵』森沢明夫さんの仕事場訪問

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