「牡蠣フライについて語る、故に僕はここにある」――珠玉の文章が詰まった福袋のような『村上春樹雑文集』

2015年12月25日
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「創作は牡蠣フライ」

2015年11月末、作家・村上春樹さんが福島県の文芸イベントで語ったこの一言が、ニュースになりました。

『村上さんのところ』『職業としての小説家』そして『ラオスにいったい何があるというんですか?』と、今年に入って続々と新刊が発売され、目が離せなかった村上春樹さん。12月には『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の文庫版もついに発売されました。

さて、冒頭でご紹介した「牡蠣フライ」についてですが、実は以前から言及していたのをご存知でしょうか?



 

「牡蠣フライについて語る、故に僕はここにある」

村上春樹雑文集
著者:村上春樹
発売日:2015年11月
発行所:新潮社
価格:810円(税込)
ISBNコード:9784101001678

『村上春樹雑文集』は、ある本の「解説みたいなもの」として書かれたものです。

第1章は「自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)」。章のタイトルにもあるように、村上春樹さんはここでも「牡蠣フライ」について語っています。

冒頭を見てみましょう。

小説家とは何か、と質問されたとき、僕はだいたいいつもこう答えることにしている。「小説家とは、多くを観察し、わずかしか判断を下さないことを生業とする人間です」と。

本書に綴った文章の中で、読者からの質問に対する村上春樹さん。その答えに牡蠣フライは登場します。

質問は「就職試験で原稿用紙4枚以内で自分自身を説明しなさいと言われました。プロの作家にはこんなこともできるのでしょうか?」というものでした。

こんにちは。原稿用紙四枚以内で自分自身を説明するのはほとんど不可能に近いですね。おっしゃる通りです。それはどちらかというと意味のない設問のように僕には思えます。ただ、自分自身について書くのは不可能であっても、たとえば牡蠣フライについて原稿用紙四枚以内で書くことは可能ですよね。だったら牡蠣フライについて書かれてみてはいかがでしょう。

書くことは牡蠣フライでなくても、メンチカツでも海老コロッケでも、何でもいい。

「何かについて語ることで、自分とそのものの間の相関関係や距離感が表現される」
「それはあなた自身について書くことでもある」

村上春樹さんの答えた内容は、つまりこういうことです。

「ふむふむ」と思いつつも、頭の上には「?」マークが浮かんでいかもしれませんね。

「実際にそのことを書いたらどんな文章になるんだろう?」と思った方、ご安心ください。この章は、村上春樹さん自身による「牡蠣フライの話」という文章(しかもばっちり原稿用紙4枚以内!)で締めくくられています。

寒い冬の夕暮れに僕はなじみのレストランに入って、ビール(サッポロ中瓶)と牡蠣フライを注文する。この店には五個の牡蠣フライと八個の牡蠣フライというふたつの選択肢がある。とても親切だ。

情景が思い浮かび、アツアツの牡蠣フライが食べたくなる文章です。

さてこの後村上さんは、どんなふうに自分を語っていくのでしょうか? 続きはぜひ本書で。

村上春樹雑文集
著者:村上春樹
発売日:2015年11月
発行所:新潮社
価格:810円(税込)
ISBNコード:9784101001678

デビュー小説『風の歌を聴け』新人賞受賞の言葉、伝説のエルサレム賞スピーチ「壁と卵」(日本語全文)、人物論や小説論、心にしみる音楽や人生の話……多岐にわたる文章のすべてに著者書下ろしの序文を付したファン必読の69編! お蔵入りの超短篇小説や結婚式のメッセージはじめ、未収録・未発表の文章が満載。素顔の村上春樹を語る安西水丸・和田誠の愉しい解説対談と挿画付。

スピーチ、エッセイ、解説など珠玉の文章が詰まった『村上春樹雑文集』。すべての文章に書き下ろしの序文が付いています。

1月から『わたしを離さないで』がドラマ化される、カズオ・イシグロさんについての文章もあります。カズオ・イシグロさんは、村上春樹さんが最も愛好する同時代作家のお一人だそうです。

『村上春樹雑文集』。「次はどんな文章だろう?」とページをめくるのがワクワクする、福袋のような一冊です。

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