• 〈書評〉テクノロジーが人間をどう変えていくか  文・大倉貴之

    2015年12月23日
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    日販 商品情報センター「新刊展望」編集部
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    2009年に若くしてこの世を去った作家・伊藤計劃が残した『虐殺器官』『ハーモニー』ほか数作の長短篇は、今も若い世代を中心に広く読まれ、書籍だけに留まらず劇場用アニメ・プロジェクトが進行している。『伊藤計劃トリビュート』は気鋭の書き手8人が参加。巻頭に藤井太洋、巻末に長谷敏司と両日本SF大賞受賞作家の作品を配置した構成により、企画先行のトリビュートを越えた厚みが出た。読み応えのある中篇集である。

    ちなみに、今回の表題は、『伊藤計劃トリビュート』を企画したSFマガジン編集長の塩澤快浩氏が作家8人に伊藤計劃氏に捧げる書き下ろし中篇を依頼した時にテーマとして伝えた“「テクノロジーが人間をどう変えていくか」という問いを内包したSFであること”から引きました。

    伊藤計劃トリビュート
    著者:早川書房
    発売日:2015年08月
    発行所:早川書房
    価格:1,231円(税込)
    ISBNコード:9784150312015

    一方、伊藤計劃氏が病床で進めていた19世紀末を舞台にした屍者復活テクノロジーを用いる新作のプロローグを氏の没後、取り込み、書き継いだのが円城塔の長篇『屍者の帝国』である。大森望責任編集『書き下ろし日本SFコレクション NOVA+ 屍者たちの帝国』は、伊藤計劃版「屍者の帝国」と設定や世界観を同一としながら、いや、だからこそか各作家の個性が横溢した傑作短篇集となった。秀作揃いの本書だが、19世紀のアメリカ南部テネシー州の綿花農家ジョーズ家で働く若き黒人奴隷のトムと若主人であるネイサンの交流を描いた藤井太洋「従卒トム」が年間ベスト短篇クラスの傑作。高野史緒「小ねずみと童貞と復活した女」、北原尚彦「屍者狩り大佐」も、作者の持ち味が十二分に発揮された佳作だった。

    NOVA+屍者たちの帝国
    著者:大森望
    発売日:2015年10月
    発行所:河出書房新社
    価格:821円(税込)
    ISBNコード:9784309414072

    ロバート・チャールズ・ウィルスン『楽園炎上』は、地球が丸ごと謎の幕に包まれる大がかりなハードSF『時間封鎖』で知られる作者の最新作。描かれる世界は第一次世界大戦後、小さな紛争はあるものの、国家間の大きな戦争、第二次世界大戦は起こらない平和な社会だ。しかし、この平和が通信を操る集合知性型生物による情報への介入の結果だとしたら……。

    この侵略を知った人々は秘密組織を作り対抗手段を探るうちに、人間と見分けのつかない偽装人間に襲撃され壊滅。その7年後、主人公のキャシーは偽りの平和と繁栄の陰にある恐怖に抗いながら暮らしてきたが、ある夜、偽装人間の襲撃を受け、弟と逃亡の旅に出る。長篇ながら、知らぬ間に侵略されている恐怖、他人を信用できない不安、それらがサスペンスに満ちた筆致で丁寧に描かれていて最後まで飽きさせない。

    楽園炎上
    著者:ロバート・チャールズ・ウィルソン 茂木健
    発売日:2015年08月
    発行所:東京創元社
    価格:1,490円(税込)
    ISBNコード:9784488706098

    スティーヴ・エリクソン『きみを夢みて』は、史実と虚構を巧みに編んだ歴史改変小説の名手エリクソンの最新作。作家のザンと写真家の妻ヴィヴは、12歳の息子とエチオピアから迎えた養女シバと一緒にロサンジェルスの郊外で暮しているが、ヴィヴがシバの母親を探す旅に出たことから、一家はアメリカの現代史やポップ・ミュージックの盛衰や「小説内小説」が交錯する世界に巻き込まれてゆく。

    特に、公民権運動の時代から、ついに黒い肌の男が大統領選挙に当選したアメリカの現代史が、実は神話的変容を経たことなのか否か判然としなくなる語り口に強く惹かれた。しばらく時間を置いてから再読をしたいと思わせる高密度な小説だ。

    きみを夢みて
    著者:スティーヴ・エリクソン 越川芳明
    発売日:2015年10月
    発行所:筑摩書房
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784480432988

    日本SF作家クラブ編、巽孝之監修による『国際SFシンポジウム全記録』は、日本SF作家クラブによって開催された2回の国際会議の全記録である。第一部の1970年に開催された第1回は、いわゆる冷戦時代に小松左京をはじめとした日本人作家とアーサー・C・クラーク等の西欧作家と東欧の作家が日本で遭遇した、そのこと自体が歴史的な事件だったのだ。評者は幸いにも2013年に開催された第2回のシンポジウムの幾つかには同時代の聴衆として参加できたので、そのレポートとしても楽しく読めた。

    国際SFシンポジウム全記録
    著者:日本SF作家クラブ 巽孝之
    発売日:2015年09月
    発行所:彩流社
    価格:2,052円(税込)
    ISBNコード:9784779121708

    早川書房編集部編『ハヤカワ文庫SF総解説2000』は、1970年8月刊のハミルトン『スターウルフ』から本年4月刊のレム『ソラリス』までを評論家・作家・翻訳家が現在の視点から解説し、書影、書誌データを収録。ページをめくる毎に現れる様々な作品を眺めていると改めて人間の想像力に驚かされる。

    ハヤカワ文庫SF総解説2000
    著者:早川書房
    発売日:2015年11月
    発行所:早川書房
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784152095787

    (「新刊展望」2016年1月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)
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