〈書評〉残菊なれど  文・郷原宏

2015年12月19日
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日販 商品情報センター「新刊展望」編集部
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陰暦9月9日の重陽の節句に間に合わなかった花を「十日の菊」という。とすれば、年末恒例のベストテン選出に遅れたミステリーは「残菊」ということになりそうだが、今年もまた、この「残菊」に秀作が多く、フライング気味の回答者をくやしがらせた。

清水杜氏彦『うそつき、うそつき』は、第5回アガサ・クリスティー賞を受賞した近未来(?)青春ミステリーである(受賞時の記事はこちら)。国民を一元管理するために首輪型嘘発見器の装着が義務づけられたディストピアの話。非合法の首輪除去技術を持つ少年フラノは、強盗、詐欺師、不倫妻など、さまざまな事情をかかえた人々の依頼に応じて生活費を稼いでいる。彼には密かな目的があった。大切な人のために特殊な首輪を探し出し、それを外すこと。そのために彼はしばしば窮地に陥るが、持ち前の知恵と勇気で克服し、衝撃の真実へとたどりつく。

およそリアリティーのない設定ながら、それを少年の成長物語としてリアルに描き切った構想力と表現力は只者ではない。「世界に通用する新たな才能の発掘と発信」という賞の趣旨にふさわしい新人といえるだろう。

うそつき、うそつき
著者:清水杜氏彦
発売日:2015年11月
発行所:早川書房
価格:1,836円(税込)
ISBNコード:9784152095763

石川智健『60 tとfの境界線』は、『エウレカの確率』で注目を集めた作家による新機軸の法廷ミステリーである。裁判官訴追委員会の下に「誤判対策室」がつくられた。無罪を訴える死刑囚を再調査し、冤罪の可能性を探る組織だ。そこに配属された老刑事、女性検事、若手弁護士が5年前に起きた殺人放火事件の再調査に乗り出す。三人三様の職業意識が絡まり合って、奥ゆきのあるリーガル・サスペンスに仕上がった。

60
著者:石川智健
発売日:2015年10月
発行所:講談社
価格:1,782円(税込)
ISBNコード:9784062197755

柴田哲孝『クズリ』は、大藪春彦賞受賞作家が描く国際ハードサスペンスである。イタチ科の猛獣クズリの異名を持つ殺し屋が十数年ぶりに日本に戻ってきた。東京ではウクライナの工作員が、横浜ではハーブ屋の男が射殺される。警視庁外事情報部の中瀬は麻薬がらみの事件とみてクズリの過去を洗う。同じころ、韓国の仁川空港で覚醒剤の運び屋が摘発され、仲間の1人が金を持って日本に逃亡した。その男を追って香港黒組織の殺し屋2人が日本に入国し、追う者と追われる者の三つ巴の死闘がはじまる。この作家の取材力とストーリーテリングの才が理想的に融合した快作である。

クズリ
著者:柴田哲孝
発売日:2015年11月
発行所:講談社
価格:1,944円(税込)
ISBNコード:9784062198387

古野まほろ『ヒクイドリ』は、警察庁の元キャリア官僚による新形式の警察小説である。山蔵県内で交番を狙った連続放火事件が発生、犯人逮捕の目処が立たないうちに、警察庁のエリート諜報機関「アサヒ」にタレコミが入る。放火犯は警察官で、しかも警察庁が最重要視するスパイ「アプリコット」の手先だという。時を同じくして、長官直属の秘密警察「警察庁図書館」も活動を開始する。元警察大学校主任教授の知見が、この作品を読み応えのあるものにしている。

ヒクイドリ
著者:古野まほろ
発売日:2015年11月
発行所:幻冬舎
価格:1,836円(税込)
ISBNコード:9784344028531

ロバート・ガルブレイス『カイコの紡ぐ噓(上・下)』(池田真紀子訳)は、「ハリー・ポッター」シリーズの作者が別名で書いた私立探偵シリーズの第2弾である。作家のオーウェン・クワインが行方不明になった。残された小説には、周囲の人々を逆上させるような描写が満載されていた。やがて彼の惨殺死体が発見される。容疑者の多すぎるこの事件の謎を身障者探偵ストライクが追及する。

カイコの紡ぐ嘘 上
著者:ロバート・ガルブレイス 池田真紀子
発売日:2015年11月
発行所:講談社
価格:2,268円(税込)
ISBNコード:9784062198363

カイコの紡ぐ嘘 下
著者:ロバート・ガルブレイス 池田真紀子
発売日:2015年11月
発行所:講談社
価格:2,268円(税込)
ISBNコード:9784062198370

小鷹信光編訳『チューリップ』は、ダシール・ハメットの中短篇集である。単行本未収録の遺作「チューリップ」を初め、デビュー掌篇「最後の一矢」など編者特選の11作を収める。ハードボイルドファンなら、これを見逃すわけにはいかないだろう。

チューリップ
著者:ダシール・ハメット 小鷹信光
発売日:2015年11月
発行所:草思社
価格:2,376円(税込)
ISBNコード:9784794221568

以上6冊、いずれもベストテン何する者ぞの気概を感じさせる残菊の名花である。


(「新刊展望」2016年1月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)
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