• 歴史・時代小説の名作にみる知将・真田一族の横顔 (文・末國善己/文芸評論家)―後編

    2015年12月12日
    楽しむ
    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
    Pocket

    〈NHK大河ドラマ「真田丸」の放送に先駆け、文芸評論家の末國善己さんに幸村が活躍する歴史・時代小説の名作を紹介していただきました〉


    幸村には、猿飛佐助、霧隠才蔵、三好清海入道ら10人の忍者や豪傑(いわゆる真田十勇士)が仕えていたとされる。ここからは十勇士ものを始め、幸村と忍者の関係に着目した作品を見ていきたい。

    ※現在ご覧の記事は〈後編〉です。(前編はこちら


    村山知義 『忍びの者』(全5巻)

    忍びの者 5
    著者:村山知義
    発売日:2003年03月
    発行所:岩波書店
    価格:1,080円(税込)
    ISBNコード:9784006020651

    村山知義の全5巻からなる大作『忍びの者』は、十勇士が真田家の隠密組織ヤメヌ組に属する第4巻『忍びの陣』、大坂の陣を活写した第5巻『忍び砦のたたかい』に、幸村と十勇士が登場する。忍者社会には、上忍、中忍、下忍という厳格な身分制度があり、上忍は下忍の命を使い捨てにしていたが、真田家にはこうした階級がなかったとされている。当然ながら、幸村も十勇士に慕われる名将であり、辛酸を舐めてきた忍者たちが、幸村のために命をかける『忍び砦のたたかい』には、深い感動がある。


    柴田錬三郎『真田幸村』『猿飛佐助』

    真田幸村 新装版
    著者:柴田錬三郎
    発売日:2014年01月
    発行所:文藝春秋
    価格:605円(税込)
    ISBNコード:9784167900106

    猿飛佐助 新装版
    著者:柴田錬三郎
    発売日:2014年04月
    発行所:文藝春秋
    価格:670円(税込)
    ISBNコード:9784167900748

    柴田錬三郎の連作集『真田幸村』と『猿飛佐助』は、明治末から大正初期の少年たちを熱狂させ、真田十勇士を世に広めたともいわれている講談速記本・立川文庫の世界を現代風にアレンジした〈柴錬立川文庫〉シリーズの一編。この作品は、武田勝頼の遺児とされる猿飛佐助、外国人の霧隠才蔵、大泥棒・石川五右衛門の息子で美男子の三好清海入道など、十勇士の人物像にひねりが加えられ、癖のある十勇士を束ねる幸村は沈着冷静な策士とされている。これらの設定は、1975年から1977年まで放映された柴錬原作のNHK人形劇「真田十勇士」の中でも使われていたので、現在40代半ばの世代なら、懐かしく感じられるかもしれない。〈柴錬立川文庫〉は、アクロバティックなアクションとエロティシズムを前面に出しながら、宝の争奪戦もあれば、敵を欺く謀略戦もあれば、謎解き重視のミステリーもあるので、娯楽時代小説のあらゆる要素が楽しめる。


    村上元三『真田十勇士』

    真田十勇士
    著者:村上元三
    発売日:2010年10月
    発行所:学陽書房
    価格:842円(税込)
    ISBNコード:9784313752658

    村上元三『真田十勇士』は、幸村の人柄に惹かれ、武田家の家臣だった穴山梅雪ゆかりの穴山小助、百地三太夫から伊賀の忍術を仕込まれた猿飛佐助、伊賀とはライバルの甲賀忍者の霧隠才蔵、海賊を率いる根津甚八、怪力の三好清海、伊三兄弟ら十勇士が、一人また一人と集まってくるところを描く連作集。一話完結ながら、通して読むと歴史の流れが分かるようになっている構成は、村上が発表した股旅ものの名作『次郎長三国志』を思わせるものがある。


    東郷隆『おれは清海入道』

    おれは清海入道
    著者:東郷隆
    発売日:2003年07月
    発行所:集英社
    価格:967円(税込)
    ISBNコード:9784087476019

    東郷隆『おれは清海入道』は、十勇士の中では脇役の三好清海入道を主人公にしている。京で傍若無人に振る舞う福島正則に制裁を加えた清海が、面目を潰された正則が送り込む刺客と戦い、伝心月叟(幸村)と出会うまでが描かれる。弱者の味方をする十勇士もののテイストを残しながらも、時代考証に定評のある著者は、虚構や伝説が作り上げた人物像が定着した岩見重太郎、宮本武蔵たちの意外なエピソードを掘り起こす。それを再び物語の中に導入しているので、虚実の被膜を操る手並みに圧倒される。特に宮本武蔵の逸話は面白く、吉川英治『宮本武蔵』のファンは唖然とするはずだ。


    津本陽『真田忍俠記』(上・下)

    真田忍侠記 上
    著者:津本陽
    発売日:2015年05月
    発行所:PHP研究所
    価格:842円(税込)
    ISBNコード:9784569763743

    津本陽は、デビュー当初は剣道の経験を活かした剣豪小説を書いていたが、次第に歴史小説へとシフトしていった。真田の忍者を主人公にした『真田忍俠記』は、津本が発表した久々の伝奇小説である。物語は、真田家が徳川の大軍に攻められた2回の上田合戦と、大坂冬の陣と夏の陣の4回の合戦を軸に、幸村の命を受け、超能力に近い忍術とゲリラ戦で敵を翻弄する猿飛佐助、霧隠才蔵と、徳川方の忍者・服部半蔵の死闘を描くことで進んでいく。作中で描かれる迫力のアクションは、初期の剣豪小説を思わせるテイストだ。


    山田風太郎『くノ一忍法帖』

    くノ一忍法帖
    著者:山田風太郎
    発売日:1999年03月
    発行所:講談社
    価格:617円(税込)
    ISBNコード:9784062645591

    くノ一忍法帖
    著者:山田風太郎
    発売日:2012年09月
    発行所:角川書店
    価格:637円(税込)
    ISBNコード:9784041004654

    最後は、大坂の陣の後日談となっている山田風太郎『くノ一忍法帖』で締めたい。幸村の命令で豊臣秀頼の子供を宿したくノ一が、家康の孫で秀頼の正室だった千姫の侍女として江戸へ入った。それを知った家康は、服部半蔵に密かにくノ一を処分するよう命じる。エロスとバイオレンスに満ちた忍者の暗闘もさることながら、弱者の怨念が歴史を作ったとするラストには、戦慄を覚えるだろう。

    末國善己編『小説集 真田幸村』

    真田幸村
    著者:末國善己
    発売日:2015年10月
    発行所:作品社
    価格:1,944円(税込)
    ISBNコード:9784861825569

    南原幹雄「太陽を斬る」、海音寺潮五郎「執念谷の物語」、山田風太郎「刑部忍法陣」、柴田錬三郎「曾呂利新左衛門」、菊池寛「真田幸村」、五味康祐「猿飛佐助の死」、井上靖「真田影武者」、池波正太郎「角兵衛狂乱図」収録。真田家の祖・幸隆、その智謀を秀吉に讃えられた昌幸、大坂の陣に“真田丸”を死守して家康の心胆寒からしめた幸村。真田三代と彼らに仕えた異能の者たちの戦いを、超豪華作家陣の傑作歴史小説で描き出す。


    (「新刊展望」2016年1月号より転載)
    common_banner_tenbo

    タグ
    Pocket

  • GoogleAd:SP記事下




  • GoogleAd:007



  • 関連記事

    ページの先頭に戻る