• 千年の向こう側へと会いにいく。――百人一首の“現代詩訳”に挑んだ、最果タヒが見つめる「歌」と「詩」

    2019年01月10日
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    ほんのひきだし編集部
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    「詩の言葉で、百人一首を現代語訳してほしい」

    そんな途方もないように思われる試みに『死んでしまう系のぼくらに』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』で知られる最果タヒさんが挑み、清川あさみさんが糸や布、ビーズを使って、従来とはまったく異なる“絵札”を表現した『千年後の百人一首』

    その刊行から1年後、清川さんの作品を実際の絵札にした百人一首かるたと、『百人一首という感情』と題された最果タヒさんによるエッセイが発売されました。

    それまでは私たちと同じように、「百人一首は古典として知っていたくらい」だったという最果さん。あらためて百人一首に向かい合ったとき、彼女は「歌」そして自らの本職である「詩」を、どのように捉えたのでしょうか?

    今回は最果タヒさんご本人に、そのときのことを綴っていただきました。

     

    千年の向こう側へと会いにいく。

    わかりやすく伝えることが、なによりもよいことだとされている。それはいいんだ、わかりやすいからこそ安心する人もいるのだし。けれど、自分の気持ちや考えを、わかってもらうために取捨選択して、余計だと思う部分を切り捨てていったとしたら、そこに残ったものは本当に「私の気持ち」なんだろうか? そんなことはないと思う。思うからこそ、私は詩人をやっている。詩を書いて、読んだ人が、言葉にするために捨ててきてしまった部分を、すこしでも掬い取ることができればと思っている。

    一昨年、清川あさみさんと『千年後の百人一首』という本を出した。詩の言葉で百人一首を現代訳してほしいと依頼されて、最初、それがどういうことなのか、理解するのに時間がかかった。百人一首は昔の言葉だ。だから、学校では歌を分解して、現代の言葉を当てはめていくようにして「理解」する。わかりやすくすることが「現代語訳」であり、詩とはどうも馴染まない気がしていた。

    けれど、歌だって詩なのだ、とも思う。当時は、会ったことのない人と歌をやりとりすることで愛を育むことさえあった。好きだという気持ちを、わかりやすく伝えるなら、別の方法があるだろう。けれど彼らは、川の流れに例えたり、月の光に例えたり、決して「わかりやすく」など願わなかった。それよりも、この伝えきれない思いをどうやって、その人にまるごと届けることができるのか。すべての人になど伝わらなくてもいい、ただ、あなたに。あなたならきっとわかってくれる、と祈るように、言葉を捧げる。だから言葉で、愛が育つのだ。

    だからこそ訳す際、私が見つめるべきなのは、歌だけではなかった。歌を、作者が詠みたいと思ったそのときの「感情」にたどり着かなくてはいけなかった。そうして見つめていくとふしぎです、千年前などとは思えない、まるで目の前にその人がいて、悩みや愚痴や惚気を聞いているような心地がしてくるのです。たとえば、恋人に約束をすっぽかされた女性が、夜遅くまで律儀に待ってしまって、それを非難する歌を彼に送るのですが、「待ってしまった自分もどうなんだろう」とどこかで呆れてしまっていて、怒るにもうまく怒りきれない。だから「私、ずっと待っちゃって、西に傾く月が見えましたよ」なんて、穏やかさすらある歌が詠まれている。こうした感情の機微を見つめると、現代に生きる自分でも、その人と向き合うことができたようで嬉しくなります。このとき、見つけていった千年前の人々の姿、そうして感情は、エッセイ集『百人一首という感情』に一つ一つ書いていきました。

    千年前の人に「共感」すると言うこともできる。けれど、「わかる」よりも深く、そこに確かにその人がいたのだというそのことを、強く実感できる本になっていればと願っています。千年前のその人と、向き合って話をするような感覚になってくれていたら。私にとって、そんな幸福なことはありません。

    百人一首という感情
    著者:最果タヒ
    発売日:2018年11月
    発行所:リトル・モア
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784898154878

    記憶が歴史に変わっていく中で消されていった「感性のまたたき」―― 100の「エモい」を大解剖。
    映画、展覧会、WEB、広告、音楽…あらゆる場所へことばを届け、新しい詩の運動を生み出し続ける詩人・最果タヒ。
    清川あさみとの共著『千年後の百人一首』で挑んだ現代語訳では、千年前から届いた百の思いにどう向き合い、胸に刺さる詩のような新訳が生まれたのか?
    百首を扉にして読む、恋愛談義、春夏秋冬、生き生きとしたキャラ、人生論。
    そして、「最果タヒ」の創作の秘密。

    いちばん身近な「百人一首」案内エッセイ、誕生!

    千年後の百人一首
    著者:清川あさみ 最果タヒ
    発売日:2017年12月
    発行所:リトル・モア
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784898154700

    言葉と絵――。
    ふたりが1000年の時の砂をはらうと、たった1つの変わらない「思い」が、切なる100の音楽を奏ではじめた。

    日本古典文学の最高峰に挑む。
    これが、この世限りの、決定版「百人一首」!

    清川あさみ百人一首かるた<ピンク>
    著者:清川あさみ
    発売日:2018年11月
    発行所:リトル・モア
    価格:4,320円(税込)
    ISBNコード:9784898154946

    かつてない美しさ。現代版「百人一首かるた」誕生。
    糸や布、ビーズを用いて、百首すべてを、大胆に瑞々しくビジュアル化。
    200枚のアートコレクションで遊ぼう。

    最果タヒとの共著『千年後の百人一首』で、和歌の一首一首を、今のものとして情感豊かに描き出した清川あさみ。
    本商品は、絵札すべてに清川の絵を使用、スッキリと洗練された文字組みや色、ケースに施されたホログラム箔など、細部にまでこだわり、まるで芸術作品のような「百人一首かるた」が完成しました。

    [読み札・取り札 各100枚/解説付] ※ピンク・ブルーの2種発売中。

    ※商品紹介はいずれもリトルモア・ブックスより引用。

     

    著者プロフィール

    最果タヒ(さいはて・たひ)
    1986年生まれ。詩人・小説家。2004年よりインターネット上で詩作をはじめ、翌年より「現代詩手帖」の新人作品欄に投稿をはじめる。2006年、現代詩手帖賞を受賞。2007年『グッドモーニング』で中原中也賞、2015年『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞。2016年の詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は、翌年映画化され話題を呼んだ。
    小説家としては『星か獣になる季節』『少女ABCDEFGHIJKLMN』『十代に共感する奴はみんな嘘つき』など。対談集に『ことばの恐竜』、エッセイ集に『きみの言い訳は最高の芸術』『もぐ∞』。
    最新詩集は、2018年『天国と、とてつもない暇』。

    天国と、とてつもない暇
    著者:最果タヒ
    発売日:2018年10月
    発行所:小学館
    価格:1,296円(税込)
    ISBNコード:9784093886444

     

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