• 歴史・時代小説の名作にみる知将・真田一族の横顔 (文・末國善己/文芸評論家)―前編

    2015年12月12日
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    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    大坂冬の陣では、真田丸を築いて徳川の大軍を翻弄し、夏の陣では敵の本陣に突撃して徳川家康をあと一歩のところまで追い詰めた真田幸村は、江戸の昔から戦国を代表する知将として有名だった。現在も高い人気を誇る幸村だけに、2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」の主人公に選ばれたのは、必然だったといえる。そこで、幸村が活躍する歴史・時代小説の名作を紹介していきたい。


    海音寺潮五郎『真田幸村』(上・下)

    真田幸村 上
    著者:海音寺潮五郎
    発売日:2005年11月
    発行所:学陽書房
    価格:907円(税込)
    ISBNコード:9784313752054

    海音寺潮五郎『真田幸村』は、幸村を正面から描いている。武田家の重臣・真田昌幸は、信玄が没し、勝頼が継いだ武田家が周囲を強大な敵に囲まれたことを知り、真田家が生き残るための知略を幸村に授けていく。海音寺は、昌幸と幸村の父子関係に着目しながら幸村の生涯を描いている。幸村の兄・信幸が徳川家に仕え、昌幸と幸村が豊臣家に仕えたのは、徳川、豊臣のどちらが勝利しても、真田家が残るための昌幸の計略だったともいわれるが、海音寺は、この説にも独自の解釈をしていて興味深かった。なお海音寺は、日本の歴史に名を残す名将を紹介する連作集『武将列伝』でも幸村を取り上げており、こちらはスタンダードな幸村を知ることができる。


    司馬遼太郎『城塞』(上・中・下)

    城塞 上巻 改版
    著者:司馬遼太郎
    発売日:2002年04月
    発行所:新潮社
    価格:907円(税込)
    ISBNコード:9784101152202

    司馬遼太郎『城塞』は、徳川方の間者として大坂城に入った小幡勘兵衛の視点で、大坂の陣を描いている。武田家の旧臣ながら、主家の滅亡後、家康に仕えた勘兵衛に対し、幸村は家康と戦うことを選んだので、二人の人生は対照的。幸村が初めて大坂城で勘兵衛と顔をあわせた時、間者と見抜く場面もある。それだけに、読者も自分ならどちらの武将に共感するかを考えることになるのではないか。幸村の智謀は名将だった父・昌幸に匹敵するが、実戦経験が少ないため作戦案が認められないことも多い。無能な上官に苦渋を飲まされる幸村はせつなく感じられるが、それでも最後まで豊臣家のために戦う姿は清々しい。


    司馬遼太郎「軍師二人」

    軍師二人 新装版
    著者:司馬遼太郎
    発売日:2006年03月
    発行所:講談社
    価格:810円(税込)
    ISBNコード:9784062753456

    司馬の短編「軍師二人」(『軍師二人』所収)は、大坂城での幸村の悲哀をクローズアップしている。軍略に優れた幸村と後藤又兵衛は城を出ての一戦を主張するが、文官は籠城を主張。そこで重臣の大野治房が折衷案を示す展開を読むと、対立する意見を二で割る玉虫色の決着が、日本では昔から変わらなかったことがよく分かる。


    高橋直樹『真田幸村と後藤又兵衛』

    真田幸村と後藤又兵衛
    著者:高橋直樹
    発売日:2014年12月
    発行所:PHP研究所
    価格:799円(税込)
    ISBNコード:9784569762517

    高橋直樹『真田幸村と後藤又兵衛』も、二人の智将に着目した作品となっている。隠棲していた幸村と、京の遊女屋で用心棒をしていた又兵衛が大坂城に入った。その直後から大坂城では、又兵衛が幸村の家臣を警戒したり、幸村の父・昌幸にそっくりな老人が現れたりと不可解な事件が相次ぐ。こうした謎を通して、今までにない幸村の人物像と、ほかの歴史小説とは異なる大坂の陣が描かれていくので、歴史に詳しい人ほど驚きが大きいように思える。


    池波正太郎『真田太平記』(全12巻)

    真田太平記 第1巻 改版
    著者:池波正太郎
    発売日:2005年01月
    発行所:新潮社
    価格:810円(税込)
    ISBNコード:9784101156347

    真田一族を描くことをライフワークにしていた池波正太郎の大作『真田太平記』にも、幸村が重要な役割で登場する。壺谷又五郎が率いる隠密組織「草の者」を使って情報を集め、乱世をしたたかに渡る真田昌幸の次男として生まれた幸村は、幼い頃から「草の者」のメンバーと親しく交わり、その頭になりたいと父にせがんで叱責されたこともある。幸村と「草の者」のお江の(恋愛といえるか微妙な)関係は、物語を牽引する鍵にもなっている。幸村は、兄の信幸が敵の徳川方についた後も敬愛し、人質として送られた上杉景勝、羽柴秀吉からは愛される真っ直ぐな青年として描かれていた。それだけに、悲劇的な最期は涙なくして読めない。


    火坂雅志『真田三代』(上・下)

    真田三代 上
    著者:火坂雅志
    発売日:2014年11月
    発行所:文藝春秋
    価格:950円(税込)
    ISBNコード:9784167902278

    火坂雅志『真田三代』は、武田信玄に仕え、真田家の基礎を固めた幸隆、武田家の滅亡という危機を乗り越え、真田家の独立を守った昌幸、そして幸村に至る真田家三代の系譜をたどっている。火坂は、幼い頃に上杉家へ人質に出された幸村が、上杉家が受け継ぐ「義」の精神に感銘を受けたとする。それ以降、幸村は、過酷な乱世を生き抜くため、「義」など愚民を騙すための方便に過ぎないと断じ、平然と詐術を用いる父とは違った人生を歩むことになる。幸村が、甘酸っぱい初恋や、自分探しを経験しながら、「義」とは何かを模索する場面は、青春小説としても楽しめるはずだ。


    木下昌輝「日ノ本一の兵」

    決戦!大坂城
    著者:葉室麟 木下昌輝 富樫倫太郎 乾緑郎 天野純希 冲方丁 伊東潤
    発売日:2015年05月
    発行所:講談社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784062195034

    木下昌輝「日ノ本一の兵」(『決戦!大坂城』所収)は、最期まで自分を認めてくれなかった父を見返すため、日本一の武将=家康の首を取ることに執念を燃やす男として真田信繁(幸村)を描いている。戦場での華々しい活躍より、信繁の情念ばかりが印象に残るダークな物語となっていて、信繁がなぜ歴史書には記述のない幸村と呼ばれるようになったのか、の斬新な解釈にも驚かされる。

    末國善己さんにご紹介いただいた本は全部で14作品あります。今回〈前編〉でご紹介したのは7作。残る7作は〈後編〉にてご紹介しています。

    後編を読む


    (「新刊展望」2016年1月号より転載)
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