• すべての「幸せ」な大人たちへ。直木賞作家・島本理生が“すれ違う大人の恋愛”を描く短篇集『あなたの愛人の名前は』

    2018年12月13日
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    父親殺しの女子大生の心理に迫る『ファーストラヴ』で、第159回直木賞を受賞した島本理生さん。本作品は文芸誌「ダ・ヴィンチ」が選ぶ「BOOK OF THE YEAR 2018」の小説ランキングで第2位に選ばれました。

    映画化された『ナラタージュ』をはじめ“恋愛小説の名手”と呼ばれる島本さんの、直木賞受賞後第一作『あなたの愛人の名前は』は、すれ違う大人の恋愛を描いた短編集です。

    あなたの愛人の名前は
    著者:島本理生
    発売日:2018年12月
    発行所:集英社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784087711714

     

    わたしからみれば恋だったものが、あなたからみればそうじゃなかった

    「旦那さん以外に抱かれたいと思ったことはないの?」こんな衝撃的な問いかけから始まる一篇「足跡」は、同じ団地の幼馴染と結婚した女性が主人公。

    あるとき友人に、既婚者しか行くことができないとある“治療院”を紹介され、ちょっとした興味で足を運んでしまいます。旦那以外の男性との触れあいに、自分の中の満たされない思いに気づきますが……。

    また「あなたは知らない」「俺だけが知らない」の2篇は、割り切った関係を続ける男女の胸の裡を描いた、一対の作品。

    「あなたは知らない」は、結婚目前の婚約者がいるにも関わらず、遊び相手と恋に落ちてしまった女性の目線で語られます。“遊び”から始まった関係だからこそ、本当に伝えたいことは口に出せない。いつかくる終わりを見ないふりをして会い続けた後に待っている結末は……。

    一方、「俺だけが知らない」では、その相手の男性の心情が綴られ、同じ時を過ごしながらも絶望的にすれ違う2人が克明に描かれています。

    そのほか、母親になることへの恐怖心を持ちながら出産した女性を、飼い猫の視点から描いた「蛇猫奇譚」、奥手なバーの店主と男性に苦手意識がある女性客が惹かれ合う「氷の夜に」、父親の不倫が原因で離婚した両親を持つ子供を主人公とした表題作「あなたの愛人の名前は」の全6篇を収録。ドキッとするタイトルとは裏腹に、読後は希望が持てる作品となっています。

     

    婚約したら、結婚したら、子供を産んだら、本当に幸せ……?

    この作品の主人公たちは誰もが幸せそうです。結婚を控えた相手がいる、仲の良い旦那がいる、子供を授かる……。

    ところが現実には、旦那さんがいても寂しいかもしれないし、子供がいても不安かもしれないし、婚約者がいても満たされないかもしれない。表面的な幸せの裏にある感情は見落とされがちです。

    「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」(『風の歌を聴け』より)これは、村上春樹さんの作品の中の有名な台詞ですが、彼の言葉を借りるなら「完璧な幸せ」もまた存在しないのではないでしょうか。

    人によって大小はあるかもしれないですが、悩みが全くない人なんていません。本書に収められた6篇は、気付かないようにしていた自分の本当の感情と向き合わせてくれる、そんな作品たちです。

    あなたの愛人の名前は
    著者:島本理生
    発売日:2018年12月
    発行所:集英社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784087711714

     

    あわせて読みたい

    島本理生さんの既刊でおすすめの作品をピックアップ! まずは島清恋愛文学賞を受賞した『Red』を紹介します。

    Red
    著者:島本理生
    発売日:2017年09月
    発行所:中央公論新社
    価格:842円(税込)
    ISBNコード:9784122064508

    主人公の塔子は、外面上は何不自由ない生活を送っていますが、淡白な夫とはセックスレスが続いていました。そんな時、友人の結婚式でかつての愛人・鞍田と再会します。

    妻、母として生きる女性が一線を越えた時、そこには何が待っているのか……。一人の女性でありながら、妻、母、会社員と何重もの役割を背負う女性の心情描写が胸を突く作品です。

    続いて紹介するのは、直木賞受賞作品『ファーストラヴ』。

    ファーストラヴ
    著者:島本理生
    発売日:2018年05月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784163908410

    ある夏の夕方、女子大生が父親を刺し殺す事件が起きます。彼女に動機を聞いても「分からない」と答えるばかり。女性臨床心理士・由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼されます。

    カウンセリングを重ねるうちに、彼女の複雑な生い立ちや、本人すらも気づいていなかった事実が明らかになっていき……。なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか。家族という迷宮を描く著者の代表作の一つです。

     

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