• 「無職は本当に黙ってて」騙されたと思って読んでほしい!山川藍デビュー歌集『いらっしゃい』

    2018年10月31日
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    ユーモア溢れる短歌たち

    皆さんは、短歌に対してどのようなイメージを持っているでしょうか。

    難しい? 退屈? とっつきにくい?

    おそらく多くの人が、そのように感じているのではないかと思います。

    俳句なら、ペットボトルのラベルにある「お~いお茶新俳句大賞」や、バラエティ番組「プレバト!!」(MBS制作)など日常的な接点があるものの、短歌に触れる機会はほとんど皆無。まともに短歌に向き合ったのは、国語の授業が最後(やは肌の あつき血汐に~)……なんて方も少なくないはず。

    かく言う筆者もその一人ですが、今回は、だからこそ見つけた「超わかる」「愉快な」短歌集を紹介します。

    著者は山川藍さん。この本は彼女のデビュー歌集です。

    いらっしゃい
    著者:山川藍
    発売日:2018年03月
    発行所:角川文化振興財団
    価格:2,484円(税込)
    ISBNコード:9784048841474

     

    「あのキャラムカつく」「でもすぐ死ぬんだろうし、見逃してやるか……」

    こればかりは、あれこれ説明するよりも、実際の歌を見ていただくのが一番早そうです。

    さっそく4首ご紹介します。

    なんだあのカップル十五分もおる「あーん」じゃないよ あとで真似しよ

    一時間待たずにゾンビに食べられるキャラだろうからかんべんしたる

    イヤリング母からもらうなんだこれ中華のたれか何かついてる

    きょう食べたものを報告し合う友「あずきバーならいいよね」「いいよ」

    いかがでしょうか。

    ひとつひとつ丁寧に解説を入れてしまっては野暮……というより、解説の必要がないほど場面を思い浮かべやすく、それでいて得も言われぬおかしみに満ちています。

    あえて説明するなら2番目の歌。

    一時間待たずにゾンビに食べられるキャラだろうからかんべんしたる

    これはゾンビものの映画を鑑賞しているときの、心の動きを歌った一首です。

    この手の映画には「お約束」のパターンがあり、自己中心的で他人を顧みないような性格の悪いキャラクターは、ほとんど100%の確率で早々にゾンビに殺されてしまいます。

    著者の山川藍さんはおそらく、そんなキャラクターの言動に怒りを覚えながらも、「どうせすぐ無残に食い殺されるんだから」と怒りを鎮めようとしているのですね。

     

    著者を取り巻く「環境と心の移ろい」を描いた連作

    とっつきやすいだけでなく、もちろん作品のクオリティも高いです。

    『いらっしゃい』は緩やかな連作の形をとっており、読み進めると、著者を取り巻く環境の変化が浮かび上がってくるのが特徴のひとつです。

    百貨店かどこかで販売員として働く著者は、父・母・無職の兄・猫2匹と実家暮らし。新しい猫がやってきたり、古株の猫を看取ったり、祖母が亡くなったりといった出来事を経て、やがて著者は仕事を辞め、非正規労働者として再スタートを切ります。

    「天国に行くよ」と兄が猫に言う 無職は本当に黙ってて

    ねんごろにブーツを磨く玄関で猫の軀を朝まで冷やす

    老衰の猫を包んだネコ柄の膝かけ燃える跡形もなく

    うちにはもう猫は一匹しかいない撫ですぎないですり減るからね

    引用した一連の歌は、愛猫を亡くしたことを歌ったもの。

    無職の兄に怒りを向けるあたりに著者らしいユーモアを感じますが、それが哀愁をより際立たせ、読者の心に訴えかけてきます。

    飾らない語り口で日常を切り取る鮮やかな手腕は、見事というほかありません。

     

    「誰かが実感を言葉にするだけで我々は生きていける」

    山川さんの短歌は、誰かが実感を言葉にするだけで我々は生きていけるということを、すごい速さで再確認させてくれる。

    本書の帯にこんな推薦コメントを寄せたのは、『ポトスライムの舟』『この世にたやすい仕事はない』などで知られる芥川賞作家の津村記久子さん。ここまであれこれ書いてきましたが、『いらっしゃい』の魅力は、この一文に凝縮されているように思います。

    そして山川藍さんと津村さんは、「仕事における不条理や憂鬱をコミカルに表現している」という点で共通しています。

    津村さんがまともに動かないコピー機との悪戦苦闘を『アレグリアとは仕事はできない』で書いたのに対し、山川さんは次の歌を残しています。

    紙づまり何度も起こすコピー機に生まれかわれと電源を切る

    津村さんの小説が好きな方も、この記事を読んで「短歌、面白いかも」と思った方も、ぜひ『いらっしゃい』を手に取ってみてください。

    きっと皆さんの前に、新たな地平がひらかれることと思います。

    いらっしゃい
    著者:山川藍
    発売日:2018年03月
    発行所:角川文化振興財団
    価格:2,484円(税込)
    ISBNコード:9784048841474
    アレグリアとは仕事はできない
    著者:津村記久子
    発売日:2013年06月
    発行所:筑摩書房
    価格:626円(税込)
    ISBNコード:9784480430755




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