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前作『驚きの介護民俗学』(医学書院)が大評判となり、新しい「聞き書き」の方法によって介護に別の視点を持ち込んだ六車由実。お年寄りの身体の中には、生きた民俗学が眠っていた。
『介護民俗学へようこそ! 「すまいるほーむ」の物語』では勤務先を小規模デイサービス施設に変え、さらに濃密な人間関係を作り、その中で得た発見と驚きを綴っていく。
年齢も病歴も家族関係も、要介護度も様々な利用者たちに対して、スタッフが心がけるのは「すまいるほーむは楽しい」と思ってもらうこと。女性の多いこの施設で、まず話題に挙がるのは食べることだ。思い出の味を語りだすときりがない。そこで月に1回、その味を再現するイベントを企画した。
この時ばかりは介護する側とされる側が逆転し、スタッフが「教えを受ける立場」になる。八丁味噌の豚汁、いなり寿司、しらや(白和え)、すいとん、ニンニクたっぷり餃子、ほうとうなど、作り方を尋ねるうちに話は青年時代の思い出へと移る。
終戦を迎えたときのこと、挺身隊での経験、風船爆弾を作ったこと。ときには下ネタも飛び出すが、この年齢の口から出れば笑い話で済んでしまう。そうやって一日が穏やかに過ぎていく。
年を取ったら自分も行きたい、そう思える施設を作るのだという施設の社長以下著者たちスタッフの気概にあふれた一冊であった。
人生で最後の楽しみは何だろう。苦しみが無く安らかに過ごして美味しいものを食べ、眠るようにその時を迎える。そんな希望を実現してくれるホスピスがある。
『人生最後のご馳走』が紹介しているのは、大阪の淀川キリスト教病院。理事長で精神科医の柏木哲夫はホスピスを早くから導入したひとりである。成人病棟の平均在院期間は約3週間。毎週土曜日はリクエスト食に応えている。
リクエスト食とは、前もって管理栄養士が患者さんの食べたいものを、味付けの好みや食べたい量、盛り付け方まで詳しく聞き、家族と一緒に味わうことができるのだ。この病院に来るまでは抗がん剤治療のための食事制限や、食欲がなかった人も、目で楽しみ味わううちに食べる意欲が湧いてくる。
メニューも驚くほどバラエティに富んでいる。天ぷら、洋食、鮨、お好み焼き、ステーキ、鰻、ピザ、すき焼き。料理人も超一流で、腕によりをかけたご馳走が並ぶ。掲載されている写真を見ると美しい食器に盛り付けされて一流の料亭か三ツ星レストランのようだ。
美味しい食事の記憶は幸せな生活と結びついている。私もこうして最期を迎えたい。
これから晩年を迎える中高年にとって考えなければいけないのは、パソコンや携帯電話などに蓄積されたデータをどうするか、という問題である。
今までも遺品の中から世間には知られたくないものや、処分できないものなどが発見されることはあった。でもそれは壊したり焼いたりして、家族や身内が隠すことができたのだ。
だが、いまの私のようにパソコンのなかに膨大なデータと個人情報をため込んだまま急死したらどうなるのだろう。
『「デジタル遺品」が危ない』ではプライバシーが詰まったブラックボックスであるデジタル遺品をどう処分するか、生前に準備することはできるのかなど具体的なトラブルの例を挙げながら指南してくれる。
特に第3章の「遺族になったときにすべきこと」は必読。ネットオークションやSNSの管理、メールアドレスをどうするか、など方法をいくつか提案してくれるので選ぶことができるのだ。
いまやパソコンや携帯電話は日々の生活の必需品になっている。死後、家族の迷惑にならないためにもエンディングノートの準備が必要だと実感させられた。