• 「普通」という呪いに苦しむ女性を描く『夫のちんぽが入らない』が漫画化!

    2018年10月07日
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    ほんのひきだし編集部
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    夫のちんぽが入らない 1
    著者:こだま ゴトウユキコ
    発売日:2018年09月
    発行所:講談社
    価格:680円(税込)
    ISBNコード:9784065128206

    そのタイトルからも、内容や世界観からも、超話題作となった私小説の漫画化だ。漫画化の話を聞いたときは、生々しい画風になるか、逆に現実感を感じさせないシュールなファンタジー調になるか、どちらかだろうと想像していたが、前者だった。体温や汗・血液の匂いや空気のよどみも、目の前のできごとのように伝わってくる。

     

    「ちんぽが入らない」ことを軸にして回り続ける人生

    まるで回転ブランコのような人生。「夫のちんぽが入らない」という事象を常に中心にして、すべてが回っている。永遠に回る、止まることはない。

    食べるときも、眠るときも、仕事のときも、ずっとずっとちんぽが入らないことを軸にして世界が動いている。

    同じ回るものでも観覧車のような良いものではない。高いところから美しい景色が見えるわけでもない。地面の低いところをぐるぐる不毛に回っているだけだ。

    あるいはサランラップかもしれない、トイレットペーパーかもしれない。

    ちんぽが入らないという芯から離れることができず、それに巻き付き、もがき、溺れる人生。

    大学進学のために……いやそれは表向きな理由。閉塞的な田舎と家庭を出るために、大学に進学をし一人暮らしを始めた鳥居さち子。どんな場所でも、どんなボロ部屋でもよかった。「あそこ」から離れられるなら。

    新生活が始まり引っ越しの片づけをしカーテンを取り付けていたら、勝手に部屋に入り込んできた男性。

    とまどうさち子をよそに、教科書のおさがりを持ってきて、冷蔵庫のペットボトルを勝手に飲んで、テレビをつけて寝転がって野球を見る。この同じ下宿に住む1学年先輩の倉本慎こそ、将来のさち子の夫となる人だった。

    出会って2日目の夜には「今日こっちの部屋で寝ていいかな。別に何もしないから」と言ってさち子の布団で一緒に寝る。

    こんなに濃い人間関係は、さち子にとって初めてだった。そして「何もしない」と言って本当に何もしない関係が存在することも知った。

    振り回されながらも、さち子の心は完全に慎に奪われていた。

    その翌日。慎からの告白。

    人生で初めて、好いている人に好いてもらえた。住民票を移すより先に、恋人ができた。

    だが初めての夜を迎え、それは発覚した。彼のちんぽが入らないのだ。

    慎は、さち子が初体験だからだろうと考えた。でもさち子は1年前、高校3年のとき、祭りで声をかけてきた見知らぬ「ちょうどいい」人と、1度だけ経験があった。血にまみれた股を押さえながら逃げるように帰った。1度きりだが、確かにちんぽは入っている。

     

    「普通」という呪縛、残酷さ

    さち子の人生が私と重なった。

    さち子より1年だけ早い1997年、人口1万人の小さな小さな町から逃げるように大学に進学した。誰かのうわさが1日で町中に広まるような狭くて恐ろしい閉塞された世界だった。母は精神的に私を縛りつける人だった。「あの友達とはつきあっちゃだめ」人間関係に口出しをし、いつも人の悪口を言っていた。

    とにかくあの世界から逃げたい、家族がなかなか来られないような遠いところへ行きたいという一心だった。

    大学生になり、初めて彼氏ができた。付き合い始めてすぐに家族のようになったところまでさち子と一緒だった。

    さち子の「不自由」は、慎と肉体的に繋がれないところだった。

    愛する人を受け入れることのできないこと、精神的には受け入れたいのに、一体なのに、肉体がそれを拒んでいること。

    それはどんなに悲しいことだろうか。

    「自分の肉体に欠陥があるのだろうか」「相性が悪いと神様から言われているのだろうか」「彼から嫌われないだろうか」「彼の性欲をどうしてあげたらいいのだろうか」

    たかが「セックスできない」ではない。
    普通の人が普通にできる肉体的な交わりができないことが、こんなに辛く悲しいことなんて想像したことがなかった。

    作中でときどき入らないことがギャグとして表現されるのは、笑い話にでもしないとやっていられないから。
    つらすぎると思わず笑ってしまう、そんなことあるでしょう?

    「普通のこと」
    それはとても残酷だ。

    私は精神的ショックやストレスやトラウマが重なって、「食べる」ということができなくなった時期が何年もあった。食べると激しい吐き気に襲われる。でも嘔吐恐怖症で吐き気が死ぬほど怖い。だから食べられない。

    普通の人が何も考えずに普通にできる「食べる」こと。

    食べると気持ち悪くなって横たわる私を見て、彼氏に「怖い」と言われたことがあった。
    普通の人ができることができないことは「怖いこと」「受け入れられないこと」らしいとわかった。

    悲しかった。

    さち子は「週にどれくらいしてるの?」「純情ぶるんじゃねぇよ」「ヤリまくってるくせに!」とからかうゼミの友人たちに、心の中で叫んだ。

    「私たちは……1年付き合って1度もできていません。ちんぽの入らない純潔な関係なのです。誰もが当たり前にできるなんて思うな。そんな簡単に言ってくれるな」

    ……って、言えたらいいのに。言えたらいいのにね……。でも言えないよ。

    「普通の人たちはこっちを見るな! 簡単に口に出すな! 放っておいてくれ!」

    でもさち子も、当時の私も、わかってはいる。

    他人は自分が思うほどそんなに人のことに興味はない。私なんかどうなったって、明日死んだって、すぐに忘れられる。そんなもんだ。普通のことができない呪縛に囚われているのは、自分自身にほかならないのだ……。

    愛する人と心も体も繋がりたい。ただそれだけなのに。愛がこんなに痛いなんて聞いてなかった。

    さち子たちは繋がることができるのか。呪縛から解き放たれることができるのか。物語はまだ始まったばかり。

    最後までさち子の生と性を見てあげてください。心をぎゅっと掴(つか)まれて、涙やいろんな感情でめちゃくちゃになるおはなしです。

    (レビュアー:野本紗紀恵)

    夫のちんぽが入らない 1
    著者:こだま ゴトウユキコ
    発売日:2018年09月
    発行所:講談社
    価格:680円(税込)
    ISBNコード:9784065128206

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    ※本記事は、講談社コミックプラスに2018年9月26日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。

     




     

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