• 地球は「人間を作る工場」、恋は繁殖のためのシステム――『コンビニ人間』村田沙耶香の新たな問題作『地球星人』

    2018年09月19日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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    2016年に芥川賞を受賞し、大きな話題となった『コンビニ人間』から2年。村田沙耶香さんの最新長編小説『地球星人』が、8月31日(金)に新潮社より発売されました。

    小学3年生の奈月が、祖父母の住む長野の秋級(あきしな)という集落を訪れるところから始まる本作。社会や家族というシステムになじめない奈月は、自分を魔法少女だと信じることで日々をやり過ごし、同じような思いを抱くいとこの由宇と「なにがあってもいきのびること。」を誓い合います。

    大人になるにしたがって、社会が人間を生産するための「工場」であり、恋愛はその繁殖を支えるための「システム」であるという見方を強くしていく奈月。彼女は、“便宜上の夫”である智臣と由宇とともに世間から逃れ、秋級で暮らすようになりますが……。

    これまでテーマにしてきた“性”や“生殖”に加え、“性的虐待”についても描き、社会通念を「異星人」の立場から見つめることで読者を強く揺さぶる『地球星人』。村田さんの覚悟と葛藤を、文章で寄せていただきました。

    地球星人
    著者:村田沙耶香
    発売日:2018年08月
    発行所:新潮社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784103100737

     

    子供の眼差し

    いつか、長野を舞台にした小説を書きたい、とずっと思っていた。

    子供の頃、私はいつもお盆を長野の祖母の家で過ごしていた。それは、いつも私が暮らしているニュータウンとは全く違う世界だった。迎え火をして提灯に火をつけ、ご先祖様にお供え物を並べた。たくさんのいとことはしゃいで遊び、冷えたスイカをみんなで食べて、縁側で花火をした。とても当たり前の日本の夏の光景だが、私には尊い想い出だった。

    小学5年生のころには小説を書き始めていたので、お盆を過ごしながら、実際に長野を舞台にした物語を作ったこともある。けれど、うまくいかなかった。大人になったらいつか書きたい。それが、こうした形で叶うとは、思ってもみなかった。

    この小説を書くために、父に頼んで、実際に祖母の家のある集落まで連れて行ってもらった。最後に祖母の家に行ったのは、15年以上前だったので、書き始める前は記憶もおぼろげだった。最初は編集さんの車で行くことも考えたが、「あの山道は、到底無理。それにまだ雪が残ってるから、相当山に慣れた人間じゃないとだめだよ」と父に言われ、そういえば子供のころ、いつもカーブで酔っていたことを思い出した。

    父の車で集落へ行くと、「懐かしい」という気持ちと、「こんなふうだったっけ……?」という不思議な感覚が、同時に湧きあがった。いとこと泳いだはずの川は記憶よりずっと細くて浅く、家からかなり離れたところにあると感じていた生協の跡地は、すぐそばだった。空に繋がっているように見えた山道を車で上がってもらうと、神社があり、家があり、違う集落が広がっていた。子供の足で歩き回っていたのはこんなに狭い世界だったのか、と驚いた。

    子供の頃は、「おばあちゃんち」は無限に広がる空間だった。いとこと手を繋いでいくら走っても、「おばあちゃんち」は途切れることなく拡張していった。それは、大人の目には見えない世界だった。この場所を、子供の目と大人の目、両方で小説にしたい、とこのとき思った。

    もう一つ、少女を主人公にするなら、私にはどうしても書きたいことがあった。女の子の性的被害だった。これは私にとって、ずっと抱えていた、いつか書かなくてはいけないと感じているテーマだった。だがそれをこの長野という舞台と組み合わせていいのかは、かなり悩んだ。削って、次の機会に改めてテーマにすることも、何度も考えた。

    書くからには、覚悟を決めて、現実の残酷さに少しでも追いつかなければいけないと思った。今も、現実はもっと残酷だ、と思っている。書いている最中も書き終えた後も、ずっと葛藤に苦しめられた。そういうことは、15年の作家人生の中で、初めてのことだった。

    この作品の事を、いろいろなインタビュアーの方が「問題作」という。私自身も、作家としての自分を問われているようだった。せめて真摯に、誠実でありたいと、自分を必死に戒めて、願いながら作品を書いた。そんな自分を、祖母の家の中から、小学5年生の自分が、じっと見つめている気がした。

    村田沙耶香 Sayaka Murata
    1979年千葉県生まれ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。2003年「授乳」で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年『コンビニ人間』で芥川賞受賞。著書に『マウス』『星が吸う水』『ハコブネ』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』などがある。

    地球星人
    著者:村田沙耶香
    発売日:2018年08月
    発行所:新潮社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784103100737
    コンビニ人間
    著者:村田沙耶香
    発売日:2018年09月
    発行所:文藝春秋
    価格:626円(税込)
    ISBNコード:9784167911300

     

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