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深見真さんの語る「本」と「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズ 一番気に入っている引用は槙島聖護&チェ・グソンの「あの」シーン

人間の心理状態を数値化し管理する近未来社会を舞台に、正義を問われる警察機構を描くオリジナルアニメーション「PSYCHO-PASS サイコパス」のシリーズ最新作『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』が、5月12日(金)に全国で公開されました。

「ほんのひきだし」では、この劇場版の公開に合わせて、本シリーズの脚本家である深見真さんにインタビューを実施しました。

作中、「紙の本を買いなよ。電子書籍は味気ない」といった台詞や、さまざまなSFや哲学書の引用など、本に関わる内容が多い「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズ。深見さんには、「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界を構成する本について伺いました。

深見真(ふかみ まこと)
熊本県出身。2000年に「戦う少女と残酷な少年」で第1回富士見ヤングミステリー大賞を受賞し作家デビュー。『魔法少女特殊戦あすか』や、現在『チャンピオンRED』(秋田書店)にて連載中の『サキュバス&ヒットマン』(漫画:刻夜セイゴ)などの漫画原作を担当するほか、『バイオハザード:ヴェンデッタ』(脚本)やTVアニメ『天国大魔境』(シリーズ構成)など映画・アニメの脚本家としても活動中。

アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズには、脚本家の一人として参加している。

 

第一期のあのシーンが「一番うまくハマった!」引用だった

――第一期の放送開始から10周年を迎え、5月12日(金)に『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』が公開されました。「PSYCHO-PASS サイコパス」がシリーズを通して変わっていったこと、逆に変わらない軸などがありましたらお聞かせください。

「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズそのものよりも現実世界の動きが激しくて、結果的に10年前の第一期を見直しても新しいおもしろさが発見できる……、それがこのシリーズの軸ではないかなと思います。第一期から最新の劇場版まで、変わっていったのは未来の犯罪を描くことの難しさ。シリーズを重ねるごとに脚本の難易度があがっていきました。

――これまでの「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズで思い出に残っているエピソードがありましたらお聞かせください。

長時間の脚本会議のあと、塩谷直義さん(シリーズ監督)や冲方丁さん(シリーズ構成)、吉上亮さん(作家、TVシリーズ第3期の脚本を担当)と居酒屋で飲んだことですね。とてもきつい脚本会議だったんですが、あの飲み会のおかげでいい思い出になりました。

――「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズの脚本執筆にあたって影響を受けた本はあったのでしょうか。

シリーズ原案を担当している虚淵玄さんとは、よくフィリップ・K・ディックの話をしていました。『マイノリティ・リポート』や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の著者ですね。あと虚淵さんとは大藪春彦作品や昔の刑事ドラマ(『太陽にほえろ!』や『あぶない刑事』)の話でも盛り上がったので、そういった作品群の影響はあると思います。

個人的には、ディストピアを描写する際にフーコーの『監獄の誕生』を読み直したり、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』で自分の頭の中で雰囲気づくりをしたりしていました。

監獄の誕生
著者:ミシェル・フーコー、訳:田村俶
発売日:2020年4月
発行所:新潮社
価格:5,390円(税込)
ISBN:9784105067090

 

ニューロマンサー
著者:ウィリアム・ギブソン、訳:黒丸尚
発売日:1986年7月
発行所:早川書房
価格:1,122円(税込)
ISBN:9784150106720

 

――「PSYCHO-PASS」シリーズでは、登場キャラクターが本を読んでいたり、本の内容を引用したりするシーンが多く出てきます。作品内で読んでいる本や引用元となる本は、どのように決められているのですか。

劇中で引用するタイミングは……脚本を書いているとき、過去に読んだことのある本のフレーズが「ぴったりハマるな」と思ったときですね。

――脚本を書きながら、場面やキャラクターに合わせて深見さんの頭の中で探しているということですね。

そうですね。最初にキャラクターの設定をもらったときに「こいつはこういう本は読んでいるだろうな」となんとなく想像していたので、そのキャラクターの個性にふさわしい引用を心がけました。

――以前別媒体のインタビューで、「引用はかっこいい」と発言されていました。深見さんが「これが一番うまくハマった!」と思う引用を教えてください。

自分で書くのは恥ずかしいのですが、一番気に入っているのは「PSYCHO-PASS サイコパス」TVシリーズ第一期で、槙島聖護とチェ・グソンが会話するシーンです。槙島が「ハッカーがギブスン好きなのはできすぎだね」と会話をシメる場面。作家名や作品名だけで、2人の思考方法や個性を表現できたのではないかなあと思っています。

 

「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界における本

――「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界では、旧時代の本は、その内容によっては、思想などにより犯罪係数(※1)を高めるとして忌避される傾向にありますね。この世界において規制されていないのはどのような本になるのでしょうか。

この質問は作品の世界観に関わるので、あくまでも僕の個人的な想像として答えさせていただきます。

シビュラシステム管理下の社会で一般的に読まれている本は、色相(※2)に影響がない(あるいは色相を良化する)と判断されたものです。そのため美しい風景の写真集や詩集、エンターテインメントの雑誌などは普通に流通しているのかな、と思いますね。また小説でも、反社会的ではなく、刑事や公務員や真面目な会社員が努力して成功する……みたいなものは検閲を突破できそうな気がします。シビュラシステムの管理社会を肯定するための理論武装の道具として、新しい社会学や哲学の本も出版されているはずです。

――なるほど。たとえば、深見さんがメインキャラクターである、常守朱・狡噛慎也・宜野座伸元の3人に贈りたい“旧時代の本”はどのようなものでしょうか。

常守朱には、『誰のために法は生まれた』をおすすめしたいです。法律や人権やデモクラシーはそもそもなんのためにあるのか?という問いに、さまざまな作品や例え話を通して答えていく本です。

狡噛には、スティーブン・キングとオーウェン・キングの共著『眠れる美女たち』を読んでもらって、感想を語り合いたいです。宜野座にはミステリーを読んで柔軟な思考や謎解きの楽しさを味わってほしいですね。アンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』とか。

誰のために法は生まれた
著者:木庭顕
発売日:2018年7月
発行所:朝日出版社
価格:2,035円(税込)
ISBN:9784255010779

 

眠れる美女たち(上)
著者:スティーブン・キング、オーウェン・キング、訳:白石朗
発売日:2023年1月
発行所:文藝春秋
価格:1,749円(税込)
ISBN:9784167919924

 

カササギ殺人事件(上)
著者:アンソニー・ホロヴィッツ、訳:山田蘭
発売日:2018年9月
発行所:東京創元社
価格:1,100円(税込)
ISBN:9784488265076

 

※1 犯罪係数:作中に登場する、シビュラシステムによって数値化された、個々人が犯罪者となる危険性の尺度。一定の基準を超えた者は、たとえ罪を犯す前でも「潜在犯」とみなされ、社会からの排除対象となる。

※2 色相:作中に登場する、生体反応の計測値が、「色」として視覚化されているバロメーター。心理状態が健全だと澄んでいる色だが、ストレス過多や悲観的な思考によって悪化すると濁っていく。大衆の多くが、日常的なメンタルケアの指標としている。

――今後の現実世界でも「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界と同じように本の価値、立ち位置が変わると思われますか? また、紙の本はどういった存在になっていくと思われますか?

「表現の自由」という概念は、もう日本などの先進国では完全に一般化したので、近い未来に急激に悪化することはないと思います……と言いたいところなのですが、とんでもない独裁者が出てきて情報統制を厳しくして戦争まで始める……そんな可能性もゼロではないのが怖いですね。

どんなにスマホが高性能・小型化しても、結局それを使って読むのは「文章(テキスト)」なので、本そのものの価値はあまり変わらないかもしれないけど、紙の本を読む人は減っていくのかな。紙の本は「読書マニア」の収集品に将来的にはなっていく可能性が高いけど、それは嫌だなあ、寂しいな……というのが率直な気持ちです。

――深見さんがもし「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界に生まれていたら、犯罪係数はどのくらいだと思いますか。理由も含めてお聞かせください。

絶対に犯罪をしないと思うので低いと思います! ただ、仕事のストレスで色相はあまりきれいではないと思うので、シビュラシステム社会では上手くいかない気がします。

――深見さんが「これを読んだら犯罪係数が上がるな……」と思う本はありますか?

いくつか浮かんだのですが答えにくいです(笑)。個人的には、読書傾向と犯罪は結びつかないと信じたいですね。

――最新作『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』を観られたファンの方々に、「この本を読めばもっと楽しめる!」という本がありましたらお聞かせください。

この話の中でも色々な本をおすすめしたので、その中から選んでいただければうれしいです!

――最後に、最新作『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』を観るファンの方に、メンタルケアとして鑑賞前日の心構えをお聞かせください。

『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパスPROVIDENCE』を観たら、「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズの『Sinners of the System』やTVシリーズ第三期を見返したくなる可能性が高いので、その準備をしてから映画館に行くのをおすすめしておきます……!

――ありがとうございました!

 

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