• いじめられっ子とヤンキーが作家を目指す、久保寺健彦『青少年のための小説入門』刊行記念インタビュー

    2018年08月24日
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    集英社「青春と読書」6月号より転載(一部編集)
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    久保寺健彦さんによる7年ぶりの新刊『青少年のための小説入門』が、8月24日(金)に発売されました。

    本作は、中学2年生のいじめられっ子・一真(かずま)が、ディスレクシア(読字障害)を抱えているヤンキーの登(のぼる)とともに作家を目指す物語。装画は『DEATH NOTE』、『バクマン。』の小畑健さんが担当しています。

    今回は著者の久保寺さんに、アイディアを思いつくまで4年、そこから書き上げるまでには3年をかけたという本作品に込めた思いをうかがいました。

    聞き手・構成=瀧井朝世/撮影=山口真由子

    久保寺健彦(くぼでら・たけひこ)
    1969年東京都生まれ。早稲田大学大学院日本文学研究科修士課程中退。2007年『みなさん、さようなら』でデビュー。同作は第1回パピルス新人賞を受賞し、映画化もされた。『ブラック・ジャック・キッド』で第19回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。その他の作品に『中学んとき』、『ハロワ!』などがある。

    青少年のための小説入門
    著者:久保寺健彦
    発売日:2018年08月
    発行所:集英社
    価格:1,782円(税込)
    ISBNコード:9784087754421

     

    何千枚と書いてはいたんです

    ――新作『青少年のための小説入門』はご自身の著作のなかでもっとも長い作品となりましたね。前作『ハロワ!』の刊行が2011年。ずいぶん間が空きましたが。

    書けなくなっていたんです。まず、前作を出してから『青少年のための小説入門』のアイデアを思いつくまでに4年かかったんですが、それまでがいわゆるイップスの状態で。プロのゴルファーがパターが入らなくなってしまうとか、プロのピッチャーがストライクが入らなくなるといった、ああいう感じに近いです。

    「これならいける」というアイデアを書き出しても100枚くらいで「あ、これはダメだ」ということを繰り返していました。だから400字詰めの原稿用紙に換算すると何千枚と書いてはいたんです。

    ――今回のアイデアを思いついた時は、感触が違いましたか。

    手応えはすごくありましたが、やっぱり100枚ほど書いて行き詰まってしまって。これは書き方がダメだと思いました。

    それより前に、シド・フィールドというハリウッドの脚本家の『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』という脚本術の古典を読んだことがあったんです。ずいぶんシステマティックな書き方を推奨していたので「そんな機械的にできるものじゃないだろう」と反感を持っていましたが、今回のアイデアはなんとか形にしたかったので、彼が勧めていることを愚直にやってみることにしました。

    56枚のカード、つまり場面を作っておく、などといったことです。僕は場面というよりも小説が迷子にならないための56のチェックポイントを作るという意味だと理解して、それを愚直にやっているうちになんとなく書きだすことができたという感じです。そうやってプロットを作り込んで、それも修正して修正して……と、そこからまた時間がかかりました。

    ――公立中学に通う優等生の入江一真(いりえ・かずま)が不良青年の登さんにピンチを助けられたところから物語が動き始めます。登さんは文字の読み書きが困難なディスレクシアですが、小説家になろうとしており、一真に数々の名作の朗読だけでなく小説執筆の共同作業も提案する。このアイデアの発端は……。

    ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』という、少年が年上の女性に本を読み聞かせる話がありますよね。あれを読んで朗読っていいなと思っていたんです。どの本を朗読したのかも作中にたくさん入れたいと思いました。映画では「ニュー・シネマ・パラダイス」が好きなんですが、あれは映画をめぐる映画の話ですよね。ああいうふうに、小説をめぐる小説の話ができないかという気持ちもありました。

    そのためにはどうしたらいいか考えて、読み書きが不自由な人が作家になろうとする、というのはどうだろうかと。自分じゃどうにもならないから誰かを無理やり連れてきてまず読ませて、その後に「俺が頭の中で作った小説を話すから書き留めろ」という設定にしたら、朗読シーンがたくさん盛り込めると思いました。

    最初に「読め」と言われた時に「嫌です」と言える人物だと話が成立しないので、登さんはすごく怖い人でないといけませんでした。この話で何が一番ファンタジーかというと、二人のコンビの結成の部分じゃないかと思いますが、ただ、登さんは本当は真面目なんです。

    二人が出会う時代を80年代にしたのは、まだディスレクシアという学習障害の存在自体がほとんど知られていなかったから。実際に当時学校に通っていた方の本を読むと、学校でも病院でも「怠けているんだろう」と言われて無理解な目に遭って、不良化した方もいたようです。

    今はもう補助的な学習ツールができているので、音声ソフトを使って自分で本を読む方法もあるし、登さんは独立独歩の人だから、もし現代なら人を頼っていないはず。このファンタジックなコンビが成立するためには、ディスレクシアが知られていない時代じゃないとまずいと考えました。でも、最初は朗読だけにフォーカスした話だったんですが。

    ――え、二人で小説を作っていく過程がめちゃくちゃ面白いのに、最初のアイデアではその案はなかったのですか。

    たぶん、尻込みしていたんですよね。後からとことん書いたほうが面白いだろうと思って小説を作る過程も書くことにしましたが、かなり苦労しました。何度も書き直して、キャラクターも展開も、大分変わっているんです。56だったチェックポイントもそれ以上に増えていると思います。

    >>次ページ「新鮮味がなければ『インチキ』だって感じてしまう」




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