• ひとりぼっちの旅人だったわたしを迎えてくれた、本屋さんの灯り―『桜風堂ものがたり』の村山早紀さんが綴る本屋さんへの想い

    2018年08月05日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    田舎町の書店で起こる優しい奇跡を描いた、村山早紀さんの『桜風堂ものがたり』。同作は全国の書店員から共感を集め、2017年本屋大賞にもノミネートされました。

    8月2日(木)、待望の続編『星をつなぐ手―桜風堂ものがたり―』が発売。これに寄せて、物語の舞台でもある“書店”への想いを村山さんに綴っていただきました。

    桜風堂ファンのみなさん、そして全国の書店員さん、ぜひご覧ください!

    村山早紀
    むらやま・さき。1963年長崎県生まれ。『ちいさいえりちゃん』で第15回毎日童話新人賞最優秀賞、第4回椋鳩十児童文学賞を受賞。著書に『シェーラひめのぼうけん』シリーズ、『アカネヒメ物語』シリーズ、『コンビニたそがれ堂』シリーズ、『カフェかもめ亭』シリーズ、『桜風堂ものがたり』シリーズ、『ルリユール』『百貨の魔法』『春の旅人』ほか多数。

    星をつなぐ手
    著者:村山早紀
    発売日:2018年08月
    発行所:PHP研究所
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784569840741

    郊外の桜野町にある桜風堂書店を託され、昔の仲間たちとともに『四月の魚』をヒット作に導いた月原一整。しかし地方の小さな書店であるだけに、人気作の配本がない、出版の営業も相手にしてくれない、という困難を抱えることになる。そんな折、昔在籍していた銀河堂書店のオーナーから呼び出される。そのオーナーが持ちかけた意外な提案とは。一整がその誠実な仕事によって築き上げてきた人と人とのつながりが新たな展開を呼び、桜野町に住む桜風堂書店を愛する人たちが集い、冬の「星祭り」の日に、ふたたび優しい奇跡を巻き起こす。

    PHP研究所公式サイト『星をつなぐ手ー桜風堂ものがたりー』より)

     

    いまはないお店の、その扉を  村山早紀

    親が転勤族で、全国のいろんな町を転々としながら育ちました。数ヶ月から一年ほどで、次の町への引っ越しになるので、友達はできても、どうせすぐにお別れになります。気持ちの上ではいつもひとりでした。

    そんな子どもにはありがちなことだと思うのですが、本だけが友達でした。新しい学校に行くと図書館を探し、そこにある本を端から端まで読んだものです。

    学校にも町にもいろんなところがあって、どうしたって好きになれないところもありました。子どもなりに生きていくのもいやだと思うことがあっても、読みかけの本の続きを読みたくて、生きてきたのでした。

    気持ちはいつも転校生、どこにいてもよそものであり、町はいつも未知の世界、探索と冒険の対象でした。知らない町へひとりで足を踏み出す、その不安と少しばかりの怖さと、子どもには大きく果てしがないように見える商店街の中で、「本」と書かれた看板を見つけたときの、ほっとすると同時にときめく感じは、いまも忘れられません。

    砂漠でオアシスを見つけたときのような、獣や魔物が跋扈する旅路の果てに町を見つけたときの気持ちというのか。友がいて、味方がいて、心が安らげる場所にたどりついたような気持ちになったものです。

    お店の扉を開けて、本の匂いに包まれながら、ゆっくりと棚を見て回るときのあの気持ちは、なんて素敵だったんだろうと思います。ぎっしりと本が並んだ本棚は、宝の山であり、一冊一冊が知らない世界や時の彼方に導いてくれる扉、魔法書のようなものでした。

    子どもの頃は、自分のお小遣いでは高い本は買えず、単行本や児童書は誕生日やクリスマスに買ってもらうようなそんな時代でしたが、そんな高い本もいつかは自分で買って読むのだと、子ども心に思っていたものです。書店も、そこに並ぶ幾多の本棚もそのままにそこにあってくれるものだと信じていました。

    中学生の頃、千葉の市川に二年間も暮らしたことがありました。本八幡に青春書店という本屋さんがあって、そのお店の木のシルエットが書かれたブックカバーや、店内に小鳥のさえずり(いま思うと有線だったのでしょう)が流れている感じがとても好きでした。駅のそばにある、明るくて大きな本屋さんでした。

    千葉を離れるとき、いつかきっとあの本屋さんに行こうと思いました。その頃すでに作家志望でしたので、自分の本を買いに行こうとも夢見ていたものです。

    結局、おとなになって、それこそ作家になるまで、本八幡を訪れる機会はありませんでした。そして久しぶりに訪れたその書店は、名前が変わっていました。

    お店の名前は変わっていても、小鳥のさえずりはもう聞こえなくても、店内の空気や広がりや、階段を降りるときの足の感触をからだが覚えていました。

    最後に青春書店を訪れた日から、もう何十年も経つのに、いまもその名を思うとき、耳の底に小鳥のさえずりは聞こえてきます。青春書店だけでなく、これまでに訪れてきた幾多の本屋さん――いまはもうないあのお店も改装して小さくなったあのお店も、その頃通ったときの姿のままでずっと覚えています。病に倒れた店長さんの笑顔も優しいまなざしも。

    今のわたしはどこへでも自由に行くことができます。いろんな町の本屋さんの扉を開くことができます。気持ちだけは、子どもの頃のそれと変わらずに。

    あの頃、ひとりぼっちの旅人だったわたしを迎えてくれた本屋さんの灯りを思いだすとき――もう二度と訪れることのできないお店の代わりに、わたしはいろんなお店を訪れ、言いそびれたお礼の言葉を伝えようとしているのかも知れない、と思うのです。

    (「日販通信」2018年8月号「書店との出合い」より転載)




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