食べることは、生きること!料理をもっとシンプルに 瀬尾幸子さん(料理研究家)×安田登さん(能楽師)対談

2015年10月22日
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日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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「料理レシピ本大賞2015」料理部門で128タイトルの中から大賞に選ばれた『ラクうまごはんのコツ』(新星出版社刊)。著者の料理研究家・瀬尾幸子さんと、瀬尾さんが以前から著書を愛読していて「ぜひお話ししたい」と希望された能楽師・安田登さんとの対談が実現しました。料理研究家と能楽師。異色の顔合わせで見えてくる、本当に豊かな食の姿とは。

〉「料理レシピ本大賞2015」の概要と受賞作はこちらから

 

「狩り場」を探そう

安田:
この対談のお話をいただいたときに思い出したのですが、小学校の5、6年で家庭科の授業があって、5年の最初の成績が、なんと5段階の2だったんです。そこからあとはずっと1。料理と裁縫はもっとも苦手なもののひとつです。裁縫は能楽師になってから半襟を縫ったりはしていますが、極力最低限で済ませるようにしています。

瀬尾:
大丈夫です(笑)。

安田:
はい(笑)。瀬尾さんの『ラクうまごはんのコツ』を拝読して、ちょっと安心しました。

ラクうまごはんのコツ
著者:瀬尾幸子
発売日:2014年04月
発行所:新星出版社
価格:1,458円(税込)
ISBNコード:9784405092600

好評の「ラクうま」シリーズ第3弾。ラクうま料理の基本やコツをギュギュッとまとめた。「肉じゃがは強火・短時間」など、思わずやってみたくなるコツ&レシピ100を紹介。「料理レシピ本大賞 in Japan 2015」受賞。

瀬尾:
卵かけご飯だって立派な料理。なぜみんな料理を大変がっているのかというと、きっと、いきなり立派なものを作ろうとしているのではないかと思うんです。

安田:
『ラクうまごはんのコツ』の「サンマの塩焼きは目が白くなるまで焼く」とか、こういう細かいところが重要ですよね。

瀬尾:
いつまで焼いたらいいのかわからないという人が多くて、目が白くなればおおよそ焼けているよと。

安田:
おもしろかったのは、「失敗してもいい。何回もやっているうちに上手くなる」というところ。これ、いいですね。

瀬尾:
料理も練習しないと上手くはならないです。おむすび一つとってもそう。

安田:
ここに出ている塩むすびも、作ったらうまそうです。

瀬尾:
それ、すごくおいしいんですよ。時代劇では竹の皮に塩むすびが包まれていますよね。ラップがないのにおむすび同士がくっついていない。なぜだろうと思って試してみると、塩をしっかりまぶせばコーティングされるので、隣とくっつかないんです。時代劇のおむすびはこういうことだったのかとわかりました。

安田:
『ラクうまごはんのコツ』はレシピが主で、『これでいいのだ! 瀬尾ごはん』には料理にまつわるいろいろなことが書かれています。

瀬尾:
レシピだと、どうしても作り方だけしか書けないのですが、なぜみんな、そんなに料理を難しく考えているのだろう、その割には上手くいっていない人が多いなと思って。自分で自分の食べるものを何とかできたら楽しいのに。「こんなことでいいんじゃない?」ということを書かせていただきました。

これでいいのだ!瀬尾ごはん
著者:瀬尾幸子
発売日:2015年09月
発行所:筑摩書房
価格:1,058円(税込)
ISBNコード:9784480068330

作るにしても、食べるにしても、がんばらなくてよし。手間の少ない「焼くだけ」「煮るだけ」料理、素材の選び方、保存のコツ、買い物の極意……。失敗を恐れず、果敢に台所に立とう。

安田:
『瀬尾ごはん』に「買い物は狩りである。」という章がありますね。昨日まで僕は隠岐にいたのですが、隠岐のスーパーを“狩り場”として見てみたらおもしろかったです。

瀬尾:
私は仕事柄ほぼ毎日スーパーに行くのですが、同じ店に通うだけではつまらない。スーパーにも特色があって、それは元何屋さんだったかで決まります。元魚屋さんだと魚の仕入が上手いから魚が充実していて、元八百屋さんのスーパーは近隣の農家から朝どりの野菜が入ったりする。自転車で、「今日は海に狩りに行こう」とスーパーの袋を持ってとってくる感じになったら楽しくて、もっといいものをとれる狩り場を探そうと気持ちが変わってきました。自転車で10キロくらいは行けるだろうと探すと、都心部でも農産物直売所があったり、畑の横でとれたてを売っているのを見つけたり。どうせ近所のスーパーじゃおいしいものは売っていないと思っているのはもったいない、みんな探せばあるよと。地方に行ったらお店はなくても畑があるから、直接交渉でいけますよね。

安田:
隠岐でも魚と野菜はくれるらしいです。

瀬尾:
これがまた、とれたてなのでうまいんですよね。

安田:
昔はお母さんの作るおかずはシンプルで、レストランの料理は目指さなかったと本にも書かれていますね。

瀬尾:
バブルの前は、家でチンジャオロースは作らなかったと思うんです。バブルでお金をいっぱい使えるようになった頃から、食卓に全国同じ名前で通っている料理が並ぶようになった。昔は「○○の煮たの」や、「△△の焼いたの」だったのに、料理がよそ行きに変わった気がします。

安田:
その分昔は豆腐屋さんで豆腐を買いましたよね。

瀬尾:
売りにきましたね。小学校の時に、ウサギとニワトリを飼っている小屋に餌を運ぶ当番があったんです。その子は必ず朝、お豆腐屋さんに寄って、おからを買ったり、もらったりして食べさせる。つまりウサギとニワトリと私たちは同じものを食べているんですね。ウサギが好んで食べるオオバコという草も野原でとってくるのですが、これはきっと食べられるなと思って天ぷらにしたら、とてもおいしかった。動物と人間ってそんなに食べるものに差はないんです。歯の作りから見ても。

安田:
いま、おからってあまり見ませんよね。

瀬尾:
袋に入れられてスーパーに売っています。豆腐売場の上のほうに。お豆腐屋さんでおからを買ってきたときは、中華鍋で炒ってから味付けをするのですが、その炒られた状態で売られている。そうやって楽をすると、純粋なおからを手に入れた時に、炒らないと料理できないということを忘れてしまう。野菜にしても、その辺で生えているに近い、畑から手に入れたものを何ともできなくなってしまったら困っちゃうなと。立派な料理でなくていいから、素材を食べられるようにするまでの間を身に付けておかないと、これから先どんな時代になるかわからないのに大丈夫なのかなと思います。

 

古代の料理に思いを馳せる

瀬尾:
安田さんの『日本人の身体』を拝読して、私はへんてこなところに反応してしまい……(笑)。

日本人の身体
著者:安田登(能楽師)
発売日:2014年09月
発行所:筑摩書房
価格:886円(税込)
ISBNコード:9784480067944

本来おおざっぱで曖昧であったがゆえに、他人や自然と共鳴できていた日本人の身体観を、古今東西の文献を検証しつつ振り返り、現代の窮屈な身体観から解き放つ。

安田:
どこですか。

瀬尾:
最初のほうに書かれている、古事記の中のエピソードで「矢がぶすり」のところ(笑)。それで生まれた姫が猛烈な名前だったと。こうして訳されていないと、昔はこういう長い名前をつけるものだったのだなとしか思わなくて、その意味まで考えていなかったんです。意味を知ったら、すごい名前でびっくり。生涯その名で呼ばれ続けるわけですよね。

※初代天皇の神武天皇が正妃を求める際の話。后となる「神の御子と呼ばれる乙女」の誕生のエピソード。

安田:
トラウマどころの話じゃないですよね(笑)。

瀬尾:
私はそのようにして生まれた女の子だということがずっと付いて回るわけですからね。なんておおらかな時代(笑)。古典に通じていないと原文を読んでもちんぷんかんぷんなので、もっと高尚なことが書いてあるのかと思いきや、衝撃的でした。

安田:
ヤマトタケルにしても、彼には兄がいて、本当は父である景行天皇に捧げるべき女性をその兄がとってしまう。顔を見せられなくなって閉じこもってしまった兄を、父親はもう気にしていないから出てくるように「ねぎ(ねんごろに)教え諭せ」とヤマトタケルに命じるんです。しかし、いつまで経っても兄は出てこない。ちゃんと教え諭したのかと聞くと、しましたと。どうやったかというと、兄がトイレから出てきたところを、首をねじ(ぎ)って殺し、手足をもぎって捨てましたと書いてある。「ねぎ」が「ねじる」に替わってしまったんですね。古事記にはそうした衝撃的な話が多いです。

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