• 『これからの本屋読本』に書かなかった“三軒目のはなし” 内沼晋太郎が綴る、最初の本屋の記憶。

    2018年07月03日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    ビールが飲める「本屋B&B」、日本ではまだ珍しい公営書店の「八戸ブックセンター」、岩波ブックセンター跡地にオープンした複合施設「神保町ブックセンター」……。

    豊富なアイデアをもとに全国でさまざまな本屋をプロデュース・ディレクションしてきた、ブックコーディネーターの内沼晋太郎さん。このほど、『本の逆襲』以来5年ぶりとなる単著『これからの本屋読本』が発売されました。

    本書は、本の仕事をしながら、本屋についてこの15年間にわたってぼくが調べ、考えてきたことを、いま、本と本屋を愛する人たちに伝えておきたいと思って書いた本だ。(本書「はじめに」より)

    内沼さんの集大成ともいうべき『これからの本屋読本』。今回はその原点である「書店との出合い」をテーマに、内沼さんにエッセイをお寄せいただきました。“本屋の記憶”を綴った、『これからの本屋読本』とあわせて読みたいお話です。

    内沼晋太郎
    うちぬま・しんたろう。1980年生まれ。ブック・コーディネーター/クリエイティブ・ディレクター。一橋大学商学部商学科卒(ブランド論)。本にまつわるあらゆるプロジェクトの企画やディレクションを行なう「NUMABOOKS」代表。著書に『本の逆襲』、『本の未来を探す旅 ソウル』(共著)がある。最新刊は『これからの本屋読本』。

     

    三軒目のはなし 内沼晋太郎

    本屋についての最初の記憶。ぼくにとってそれは、埼玉県浦和市、現さいたま市に住んでいた小学生のころの記憶で、二軒ある――というのは最近出たばかりの『これからの本屋読本』の冒頭の段落からの引用だ。まさに「書店との出合い」の話からはじまる本なのだが、実をいうとそこに書かなかった本屋がもう一軒ある。

    山形県の長井市というところに母の実家があって、祖父と祖母が住んでいた。小学校の長い休みには、家族でそこに2週間ほど滞在する。道を挟んで目の前には古い木造の小学校があった。いつも校舎はひっそりとしていて、映画のなかの廃校のようだった。いま思えば休みの時期に来ているのだから静かに決まっているのだが、そう思わせる美しさがあった。母の旧姓はその地域に多い名字だったが、出前を取るときには「小学校前の」といえば通じた。そのくらいの田舎だ。

    その道をまっすぐ、小学生の足で歩いても数分のところに、3階建てくらいの古いスーパーがあった。ヤマコーという名前で、県域の交通会社がやっていた。ここまではWikipediaで確認できたのだが、中に本屋があった気がしていて、しかしそのことはどこでも確かめられない。80年代半ばの話だ。インターネットはインターネット普及以前の情報に弱く、誰も特筆しない事実はGoogleには検索できない。

    ぼくの記憶の中でその本屋は吹き抜けのある建物の2階にあって、文具やおもちゃなども売っていた。そこでよく祖母に何かを買ってもらったように思う。かろうじて記憶に残っているのは、絵本だったかコミックだったか絵のついた本と、歌の入ったカセットテープとがセットになったものだ。そして、そのカセットテープを聞くために、母の実家にあったラジカセごと、埼玉の自宅に持ち帰ったのではなかったか。それは中学生くらいまでの間、自宅で使われていたのではなかったか。こうした個人の記憶も、もちろんGoogleはクロールしてくれない。

    2018年、38歳のぼくがその本のことを思い出したのは、この1~2年でまた少しずつカセットテープを買うようになったからだ。ぼくがいま使っているカセットデッキは中目黒のwaltzという専門店で買ったPioneer CT-5050という70年代半ばのもので、つまりぼくが生まれるより前につくられている。このデッキにカセットを挿すたびに、自宅で愛用したそのラジカセのことを思い出す。そのような曖昧な記憶を呼び起こす現在のカセットデッキが、実際はぼくの人生すべてを追い越した昔から存在している。

    大ヒット中のNetflixドラマ「13の理由」はカセットテープを軸に、自殺した女子高生の謎を解いていく物語なのだけれど、シーズン1の第1話、友人の古い車のカセットデッキで音楽を聴くシーンで主人公が「何でも昔のものがいい」とつぶやく。

    これはノスタルジーではない。テクノロジーが日常に変化をもたらすとき、それ以前のすべてを引き継ぐことはなく、必ず何かがこぼれ落ちる。そのこぼれ落ちたものを、少し後の世代が新鮮さをもって再発見する。何かもわからない「未来」をただ畏れ崇めたて、アプリを更新するように無自覚に変化を受け入れるよりは、「何でも昔のものがいい」と言い切ることのほうが、変化に自覚的なぶんまだマシな気もする。

    いつかぼくの記憶もGoogleかどこかの企業が検索できるようにするのだろう。美しい小学校の校舎、2階の本屋と買ったはずの本、持ち帰ったはずのラジカセ。すべてがはっきりと浮かびあがるなら、それはきっと嬉しい。けれどまた違う何かがこぼれ落ちて、それに自覚的な後の世代が買い漁るのは、またカセットテープであったり、誰かの使い古した日記帳であったり、あるいは紙の本であったりするのかもしれない。

     

    【著者の新刊】

    これからの本屋読本
    著者:内沼晋太郎
    発売日:2018年05月
    発行所:NHK出版
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784140817414

    個性的な本屋が、全国に生まれている。本書は、その最前線にいる著者が、人を引き寄せる本屋を分析し、そのこれからを展望する。本とは何か。本屋とは何か。その魅力の原点に立ち返りながら、本と本屋の概念を一変させ、その継続のためのアイデアを鮮やかに示す。本を愛する人が、本を愛する人のために何ができるのか? 本と人とをつなぐ本屋の可能性を照らす、著者の集大成。「本の仕入れ方大全」も収録。

    NHK出版公式サイト『これからの本屋読本 』より)

    ●あわせて読みたい
    夢眠書店開店日記 第8話:「ブック・コーディネーター」という仕事①
    「本屋が厳しい」といわれる今、本屋の定義を考える(「本屋をリブートするには」vol.1 レポート)


    (「日販通信」2018年7月号「書店との出合い」より転載)




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