• 〈インタビュー〉下村敦史さん『生還者』 乱歩賞作家、注目の第3作はヒマラヤの高峰が舞台の山岳ミステリー!

    2015年10月18日
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    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    昨年、『闇に香る嘘』で第60回江戸川乱歩賞を受賞し、デビューを果たした下村敦史さん。受賞作では全盲の男性を主人公に据え、中国残留孤児の問題を絡めた意表を突く展開で、ストーリーの巧みさと描写力の確かさが話題となった。早くも3作目となる『生還者』は、ヒマラヤの高峰を舞台とした山岳ミステリーだ。

    生還者
    著者:下村敦史
    発売日:2015年07月
    発行所:講談社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784062196116

    ネパールとインドの国境地帯にまたがるカンチェンジュンガで大規模な雪崩が発生。日本人登山者7名が巻き込まれた。その事故で、登山をやめたはずの兄を亡くした増田直志は、遺品のザイルが細工されていることに気付く。その一方、同じ雪崩に遭った2人の男が、相次いで奇跡の生還を果たす。兄が加わった登山隊に「見捨てられた」と告発する単独行の高瀬と、主張が真っ向から対立する隊の一員・東。果たして嘘をついているのはどちらなのか。標高6000メートルを超える雪に閉ざされた空間で、一体何が起こったのか。兄の死に不審を抱く増田は、雑誌記者の恵利奈とともに事故の真相を探り始める。

    執筆のきっかけは、「災害に遭いながらも生き延びた“生還者”」を題材にしたミステリーを出版社から提案されたこと。興味を惹かれた下村さんの頭にパッと閃いたのが「山」だった。とはいえ、毎年スキーをしていた程度で登山経験はなく、デビューからの1年間で3作刊行を目指すハードスケジュール。資料を読み込み、想像を広げることで執筆に取り組んだ。

    1作目は中国残留孤児を家族に持つ盲目の主人公、2作目の『叛徒』では通訳捜査官という警察の中でも特異な職種の人物を取り上げ、変化に富んだ切り口で作品を仕立ててきた。乱歩賞の応募時から「知らない世界」を描くことが多く、「まず資料を読んで知識を身に付けてから、必要とあれば取材をする」執筆スタイル。

    「自分のテリトリーで書こうとしたことはあるのですが、よく知っている世界だとどうしても経験に縛られて、思い切った発想ができない。素人ならではのアイデアがミステリーを書く上では役に立ったかなと」

    「ありきたりでない山を」と探したカンチェンジュンガも、「最後の未踏峰」といわれ、世界第3位の標高と、死亡率の高さで知られる山群。まさに未体験の世界を舞台に提示されるのは、生還者が犠牲者に抱く、拭うことのできない罪悪感と苦しみ。そして、極限状態の中で命を預け合う姿からは、信頼という言葉の重みがストレートに伝わってくる。一瞬の判断が生死を分ける自然の過酷さと、克服したものだけが見ることのできる荘厳な美しさ。伏線が見事に回収されるミステリーとしてのおもしろさはもちろん、自然と対峙する人間たちのドラマも読みどころの一つだ。

    「書いてばかりの濃密な1年」を過ごしたと語る下村さん。質・量ともにもはや新人とはいえない筆力で、次はどんな世界を見せてくれるのか、ますます目が離せない。


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    下村敦史 Atsushi Shimomura
    1981年京都府生まれ。1999年に高校2年生で自主退学し、同年、大学入学資格検定合格。2006年より江戸川乱歩賞に毎年応募し、2014年に9回目の応募となる『闇に香る嘘』で第60回江戸川乱歩賞を受賞。デビュー作からわずか5か月で第2作『叛徒』を刊行した。


    (「新刊展望」2015年11月号「著者とその本」より転載)
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