• “正義”よりエンターテインメントに徹して小説を書く:『空飛ぶタイヤ』池井戸潤インタビュー【後編】

    2018年06月15日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    6月15日(金)に公開された映画「空飛ぶタイヤ」。原作は「半沢直樹シリーズ」や「下町ロケット」などで知られる池井戸潤さんの同名小説で、意外にも、池井戸さんの小説では初めての映画化作品となっています。

    本作に限らず、リアルに描かれる業界の闇と、それに切り込み正義を貫く主人公の姿で読者の心を捉えている池井戸作品。インタビュー後編では、その創作の秘密に迫ります。

    空飛ぶタイヤ 上
    著者:池井戸潤
    発売日:2009年09月
    発行所:講談社
    価格:745円(税込)
    ISBNコード:9784062764520

    前編はこちら
    長瀬智也は“ある点”を除けば主人公そのもの――原作者・池井戸潤に聞く「空飛ぶタイヤ」

     

    「執筆前に取材をすることはほとんどない」 “人を書く”ことへのこだわり

    ――本作は、大手自動車メーカーによるリコール隠しがモチーフとなっています。池井戸さんの作品は、業界の闇に切り込み、正義を実現する主人公が多く登場しますが、“正義”についてはどのように考えていらっしゃいますか?

    実は、正義について特別に考えたことはないんです。もちろん「こうあるべき」といった一般的な道徳観は念頭に置いていますが、それよりは、はるかにエンターテインメントに徹して書いています。

    この小説は、「こういう事件が起きないようにしよう」「不正はすべきではない」といったことを言いたいのではなくて、純粋にエンターテインメントとして楽しんでもらうことが最大の目的です。そのあと、もし似たような事件が起こってしまったときに、「そういう場合、会社の内部にも問題があるんだよな」とか、「そういえばそんなことが書いてあった小説があったな」と思い出してもらうくらいでいいのではないかなと思います。

    ――本作では、池井戸さんが数多く書かれてきた銀行はもちろん、運送会社や自動車会社など、各業界が非常にリアルに描かれています。取材はどのようにされるのですか?

    小説を書く前に取材をすることはほとんどなくて、だいたい想像で書きます。書き終わったあとに、心配なところについてだけ取材に行くことが多いです。

    本作でいえば、運送業者の友だちがいるので、その人に「こういう話を書きたいんだけれど、こういう事故を起こしたときはどうなるの?」「談合とかはあるの?」と当事者しか知りえない情報を聞いています。

    ▼本作では、リコール隠しを疑うホープ銀行の井崎を高橋一生さん(左)が、ホープ自動車カスタマー戦略課課長の沢田をディーン・フジオカさんが演じます。

    ――取材が書き終わってからだとすると、執筆時は何をもとに書いていかれるのですか?

    本作であれば、出来事に沿って「赤松や沢田ならこんな時はどうするだろう」ということをまず考えます。それがその人物を見つめることになるし、「人を書く」ということになる。

    でもそれはプロット上では不都合なときもあって、確かに「この人はこの場面ではこう言うだろうな」と思っても、「それを言っちゃうと小説が思うように進まなくなる」という難しい状況が、1本の小説の中で何度か出てきます。そこをどうするかがその小説の質を決めると思うんです。そういうときには、その登場人物が動くように書いて、その中で問題を解決していく。プロット上の都合でそれを曲げることはしないようにしています。

    なので、登場人物が悩んでいるときは、おそらく作者も一緒に「どうすればいいんだ」と頭を抱えていると思いますよ。

     

    「書く手が止まる恐怖」と「終わりの見えない恐怖」が小説をおもしろくする

    ――プロットよりも「人を書く」ことを重視されているとのことですが、ストーリーの終着点はある程度決めて書かれるのですか?

    下町ロケット』みたいに、「最後はロケットが飛びます」といった終着点はあるのですが、途中はどうなるかわからない。ゴルフにたとえるなら「超ロングパットを打つ感じ」でしょうか(笑)。目指す方向に向かってパットを打つんだけれど、そこにたどり着くまでにはいろんなラインがある。そんなイメージです。

    ――途中で止まっちゃったりしたら……といった心配はないですか?

    そうそう、止まる可能性はあるんですよ(笑)。でもその恐怖と立ち向かうことで、おもしろいものができるんです。あらかじめプロットがあれば安心はできるけれど、作者としては発見が何もない小説が出来上がってしまうので。

    実はもうひとつ、「終わらない恐怖」もあるんです。書いていて終わりが見えなくても、安易に終わらせないこともすごく大事。

    小説は広がるところまで広げ尽くすと、どこかで書くことがなくなります。そこが物語の終わりです。これはけっこう勇気がいることなのですが、書いていて「この人はこういう人だったんだ」「こういう考え方もあるのか」という発見のある小説になるし、作者がそう思っているんだから、読者だって「なるほどな」と思ってくれる。書くときのそういう“リスク”が、実は小説のおもしろさになっていると思います。

    ――そういった挑戦が、池井戸作品の魅力につながっているのですね。

    読んでいただければおわかりの通り、僕の小説は、あまり難しくないんですよね。ストーリーラインがシンプルであることも、小説において大事だと思っています。

    きわどいラブシーンもないので、ドラマであれば家族みんなで見ることができるのでは。お父さんだけ、お母さんだけ、娘さんだけ、というのではなくて、たとえば家族が日曜9時にテレビの前に集まったときに、みんなで同じところで泣いたりしながら、仲良く見られる。幅広い世代が楽しめるコンテンツにはなっていると思うので、そこが支持されているのかなと思います。

    原作者としては、映像化作品を見て、本を手に取ってもらうのが一番なので、本作もぜひ映画と小説、両方を楽しんでいただければうれしいですね。

     

    「空飛ぶタイヤ」作品情報

    6月15日(金)全国ロードショー

    出演:長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生、深田恭子、岸部一徳、笹野高史 ほか
    監督:本木克英
    原作:池井戸潤『空飛ぶタイヤ』(講談社文庫、実業之日本社文庫)
    脚本:林民夫
    企画・配給:松竹

    soratobu-movie.jp

     

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