• 長瀬智也は“ある点”を除けば主人公そのもの――原作者・池井戸潤に聞く「空飛ぶタイヤ」

    2018年06月14日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    池井戸潤さんの小説『空飛ぶタイヤ』が長瀬智也さん主演で映画化され、6月15日(金)に公開されます。

    ベストセラー小説を次々と生み出し、その多くがドラマ化されている池井戸さんですが、意外にも映画化は本作が初めて。そして『空飛ぶタイヤ』は池井戸さん自身にとっても、作家としての分岐点になった思い入れの深い作品なのだといいます。

    そんな映画「空飛ぶタイヤ」を、原作者・池井戸潤はどう観たのか? インタビューでじっくりお話を伺いました。

    池井戸 潤 Jun Ikeido
    1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒業。98年『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞、2010年『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞、11年『下町ロケット』で第145回直木賞を受賞。『半沢直樹』『花咲舞が黙ってない』『ルーズヴェルト・ゲーム』『ようこそ、わが家へ』『民王』『アキラとあきら』『陸王』など、数多くの作品がドラマ化され、話題となっている。

    空飛ぶタイヤ 上
    著者:池井戸潤
    発売日:2009年09月
    発行所:講談社
    価格:745円(税込)
    ISBNコード:9784062764520

     

    「空飛ぶタイヤ」は池井戸作品、初の映画化!

    ――池井戸さんの小説は、『半沢直樹』シリーズをはじめ数々の作品が映像化されていますが、映画化は今回が初めてだそうですね。実写映画化のお話があったときには、どのように思われましたか?

    シナリオがしっかりしていたので、気持ちよくOKさせていただきました。

    この作品は、原稿用紙で1,000枚以上ある長編なんですけれど、それを2時間の映画に収めるには、最も大事な部分を抽出する必要があったと思うんです。原作のエッセンスをしっかり取り出す読みの正しさ、作りの確かさをシナリオから感じて、信頼できるクリエイターの方たちだなと思いました。

    ――主人公である運送会社社長の赤松を演じるのは、TOKIOの長瀬智也さんです。小説では「かなりしょぼいオヤジ」として描かれていますが、長瀬さん演じる赤松は相当な二枚目ですね。

    映画ですからね(笑)。長瀬さんは、ストレスを抱えてかなり疲れ切っている様子を醸し出されていましたし、「カッコイイ」という一点だけを除けば、赤松そのものだと思いますよ。

    ▼池井戸さんが「主人公そのもの」と語る長瀬智也さん演じる赤松がこちら。

     

    「いくら言葉を尽くしても、ああいうシーンには勝てない」

    ――役者さんの中には「自分が関わった作品は客観的に見られない」という方もいるようですが、原作者としてはいかがですか?

    若干ドキドキはしますが、観客として楽しんで見ています。僕は自分の作品が映像化されるときには、シナリオやキャスティングについて基本的に口出しはしません。プロデューサーさんや監督さんは、原作を読んだ時点ですでに撮影プランを持っているはずなので、そこに原作者が口を挟むと、そのイメージが実現できなくなる可能性があるからです。

    たとえばドラマでは、夕陽がグーッと沈むようなシーンを挟むことがありますが、あれは映像ならではの表現ですよね。

    小説というのは基本的に心情描写が主で、それが積み上がってできています。ところが心情描写はカメラでは撮れませんから、映画にしてもドラマにしても、それを映像に“翻訳する”という作業が必要になります。そのときにクリエイターの想像力が駆使されて、映像ならではの表現が効果を発揮するんだと思うんです。

    小説のお客さんと映画のお客さん、ドラマのお客さんはそれぞれ違って、僕が知っているのは小説のお客さんだけです。ドラマや映画にはそれぞれの作り方があって、映像の人たちはそれをよく知っている。あとは監督さんたちの色で、完成度を高めてもらえたらと思います。

    ――本作でも、「これは映像ならでは」と思われたシーンはありますか?

    佐々木蔵之介さんが方言を話すシーンですね。あの独特な感覚は、映像でないと出ないんですよ。いくら言葉を尽くしても、ああいうシーンには勝てないですね。

     

    『空飛ぶタイヤ』は池井戸潤のベースとなる記念碑的作品

    ――本作は、池井戸さんにとって非常に思い入れのある作品だそうですね。

    『空飛ぶタイヤ』はいまから12年前の小説になりますが、それまでとは作り方をちょっと変えた、いまの僕に繋がるベースとなっている作品です。

    本作は、運送会社や自動車会社、銀行の社員など事件に関わる人物がおそらく70人近く登場する群像劇ですが、つまり、70人分の人生が小説に描かれた期間でぶつ切りになっているわけです。その「一人一人が生きている人間なんだ」ということを意識して、プロットを重視するのではなく、人物をよりリスペクトして書いています。

    この小説がようやく直木賞の候補になって、僕の作家としての位置づけも変わりました。それまで僕の作品はミステリーのつもりで書いていたのに、企業小説の棚に入っていたんです。「それなら企業小説を」と思って書いたら、今度は文芸の棚に入る(笑)。本は出してみないと、どう受け取られるかわからないんですよね。

    いまも同じ書き方をしていますが、その創作方法に最初に挑戦したのが本作なので、僕にとって記念碑的な作品といえます。

    ――登場人物が70人もいるとなると、キャラクター設定だけで大変ですよね。どの人物も生き生きと描かれていますが、あらかじめ人物造形は決めてあるのですか?

    書きながら肉付けしていく感じですね。

    ただこの作品だけは、写真付きの「登場人物一覧表」があるんです。そのキャラクターのイメージに合う顔写真をビジネス誌などから探してきて、切り貼りしています。

    ただ、かえってその写真に引きずられてしまう部分もあるんです。あらかじめ決めた人物設定に沿って書くよりも、「この人なら、こんな時どうするか」とその人物の内面にフォーカスしたほうが、キャラクターはぶれないですね。

    本作でいえば、主人公の赤松と対峙するホープ自動車の沢田などは、最初はすごく嫌な奴ですが、途中から印象が変わってきます。でもそれは沢田の人となりが変わったわけではなくて、見え方が変わっただけ。赤松側からだけでなく、沢田側から見た彼の都合だとか気持ちがわかった瞬間に、「自分もこうするかもしれないな」と読者が共感して、人物のとらえ方が微妙に変化してくる。そういうキャラクターを書くのは、難しいけれどおもしろいんです。

    ▼赤松と敵対するホープ自動車の沢田を演じるのは、ディーン・フジオカさん。

    後編へ続く(2018年6月15日公開予定)
    “正義”よりエンターテインメントに徹して小説を書く:『空飛ぶタイヤ』池井戸潤インタビュー【後編】

     

    「空飛ぶタイヤ」作品情報

    ある日突然起きたトレーラーの脱輪事故。
    整備不良を疑われた運送会社社長・赤松徳郎(長瀬智也)は、車両の欠陥に気づき、製造元である大手自動車会社のホープ自動車カスタマー戦略課課長・沢田悠太(ディーン・フジオカ)に再調査を要求。
    同じころ、ホープ銀行の本店営業本部・井崎一亮(高橋一生)は、グループ会社であるホープ自動車の経営計画に疑問を抱き、独自の調査を開始する。それぞれが突き止めた先にあった真実は大企業の“リコール隠し”―。
    果たしてそれは事故なのか事件なのか。男たちは大企業にどう立ち向かっていくのか。正義とはなにか、守るべきものはなにか。
    観る者すべての勇気を問う、世紀の大逆転エンタテインメント!

    6月15日(金)全国ロードショー

    出演:長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生、深田恭子、岸部一徳、笹野高史 ほか
    監督:本木克英
    原作:池井戸潤『空飛ぶタイヤ』(講談社文庫、実業之日本社文庫)
    脚本:林民夫
    企画・配給:松竹

    soratobu-movie.jp

     

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    ©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

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