• 40代の女オタクが“地下アイドル”の世界で初めて知った感情とは?『地下にうごめく星』渡辺優インタビュー【後編】

    2018年05月27日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    仙台を舞台に「地下アイドル」の世界を描く、渡辺優さんの『地下にうごめく星』。“アイドル”という光に引き寄せられ、自らの居場所を見つけていく人々を、小気味よい毒とユーモアを交えて綴った青春小説です。

    40代の独身女性である夏美が、初めて行ったライブでアイドルに心を奪われ、その場でプロデューサーになることを決めるところから始まる本作。集まった個性豊かなアイドルたちと活動する中で、夏美とアイドルたちが得たものとは何だったのでしょうか。

    インタビュー後編では、本作の主軸となる“40代の女オタク”に込めたメッセージや、これまでの執筆を通して見えてきた作家としてのテーマについてもお聞きしています。

    地下にうごめく星
    著者:渡辺優
    発売日:2018年03月
    発行所:集英社
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784087711387

    前編はこちら
    地下アイドルを目指す女装男子や天使、夢をあきらめない人々が見つけた光とは――渡辺優『地下にうごめく星』インタビュー【前編】

     

    “アイドルオタクの生態”に共感

    ――6編目の「リピート」では、再び夏美が主人公として登場します。彼女は地下アイドルのプロデュースと会社員の両立という慌ただしい日々を送りながらも、アイドルたちへの愛と保護者のような気分を味わっています。

    夏美の物語で印象に残ったのが、「自分の幸せに飽きる」という言葉でした。これは1編目と本編をつなぐ、キーとなるフレーズですね。

    「自分の幸せに飽きる」というメッセージは、夏美の物語の主題として書きたいなと思っていました。

    私自身もゲームやアイドルが好きで、それらに触れているときは心から楽しいと感じているのですが、そういう“熱中している趣味”以外の時間を振り返ってみると「楽しみのメインは食べること」という生活をしているんです(笑)。ただ、食べ物ってたいていおいしいし、食べる楽しみというのは幼い頃から幾度となく繰り返し経験していますよね。そう考えたとき、「この先もずっと“食べ物がおいしい“と喜び続けられる自信がないな」と思うと同時に、「自分の好きなアイドルがおいしいものを食べて幸せを感じている姿には飽きる気がしない」ということに気付いたんです。

    「こんな楽しみもあったんだ」という新たな発見は、人を成長させますよね。夏美は40代で地下アイドルにはまって、初めて「大切な誰かを幸せにしたい」という感情を知りました。そんな風に、オタクになれば「いくつになっても楽しいよ」ということをアピールしたいなという思いもありました。

    ――本作では「アイドルオタク」たちの情熱も丁寧に描かれていますが、渡辺さんの“オタクとしての思い”も込められているのですね。

    「モーニング娘。」さんや「AKB48」さんなど、テレビに出ているアイドルはずっと好きだったので、“アイドルを好むオタクの生態”みたいなものには共感できるところがあったんです。

    またゲームオタクを自称して生きてきた期間が長いので、「オタクはこういうものだ」と俯瞰して捉えるのではなくて、「我々オタクは~」という自己紹介的な感じで書いていけたらなと思っていました。

    そうはいってもオタクの人は幅広いので、「いや、お前なんかオタクじゃない」と言われてしまうのではないかという不安もあるんですけれど(笑)。

     

    鬱屈を抱えながらもポジティブに生きていく人々を描く

    ――デビューに向かって邁進していた夏美とアイドルたちですが、最後は二転三転と思わぬ方向に物語が展開していきます。「ただアイドルに憧れていただけ」の彼らが新たな一歩を踏み出し、自分の夢に向かって突き進んでいくからこそまぶしさが感じられる。そんなエンディングになっていますね。

    彼らの選択は、必ずしもほめられたものではないかもしれません。でも人が本当に優先させたいものがあって、その思いが真摯なものであるなら、その選択を許してあげてもいいのではないかとも思うんです。

    オタクになる前の夏美は、他人の気持ちを察して行動するような分別のある大人でした。でもアイドルの世界に出会ってからは、信じられない嘘をついたり、単なる思い付きで「プロデューサーになる」と活動を始めたりしますが、そこには自分でもどうしようもないくらいの情熱があります。そんなふうに夢に向かって進んでいくときには、何かに遠慮したり、縛られたりする必要はないのではないでしょうか。

    とはいえ、いま思い返しても、『地下にうごめく星』の登場人物はみんな自由な人たちですよね(苦笑)。

    ――本作も含め、渡辺さんの作品は「自分らしく生きていくこと」「生きていく上での居場所探し」がひとつのテーマとなっていますよね。

    「拠りどころになるような話を書こう」と意識して小説を書き始めるわけではないのですが、書いていくうちにそういった方向に寄っていく傾向があるなと自分でも気づき始めたところです。

    いま書いている次回作も乗りに乗っている人の話ではないので、そういう話が好みなのかもしれません。今後もちょっと暗い部分がありつつ、それでもわりとポジティブに生きていく人たちの話に行きつくのかなと思っています。

    渡辺 優 Yu Watanabe
    1987年宮城県生まれ。大学卒業後、仕事のかたわら小説を執筆。2015年に「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2017年、『自由なサメと人間たちの夢』を刊行。

    『地下にうごめく星』特設サイトはこちら

    ラメルノエリキサ
    著者:渡辺優
    発売日:2018年02月
    発行所:集英社
    価格:497円(税込)
    ISBNコード:9784087457001
    自由なサメと人間たちの夢
    著者:渡辺優
    発売日:2017年01月
    発行所:集英社
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784087710236

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