• 地下アイドルを目指す女装男子や天使、夢をあきらめない人々が見つけた光とは――渡辺優『地下にうごめく星』インタビュー【前編】

    2018年05月26日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    2015年に『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビューした渡辺優さん。同作は強烈なキャラクター設定と疾走感あるストーリー展開が高く評価され、続いて刊行された短編集『自由なサメと人間たちの夢』でも、新人らしからぬ筆力で注目を集めました。

    そんな新鋭が3作目の題材に選んだのは、“地下アイドル”。

    特別な楽しみもなく淡々と日々を過ごす40代の独身女性をはじめ、「本当は宝塚に入りたかったアイドル」「女の子よりもかわいくなりたい女装男子」「天使として振る舞うことで自分を保とうとする少女」などさまざまな人物が描かれており、連作短編集でありながら、一編の群像劇としても読むことができます。

    作品のタイトルは『地下にうごめく星』。地下アイドルの世界に渡辺さんが見た“星”とはどんなものだったのか? たっぷりお話を伺いました。

    地下にうごめく星
    著者:渡辺優
    発売日:2018年03月
    発行所:集英社
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784087711387

    地方都市でライブ活動をする地下アイドルたち。その魅力に惹かれ、無謀にもアイドルのプロデュースに挑戦する40代会社員の夏美。はかない輝きを追いかけ、自らの居場所を探す人々の姿を描く、連作短編小説。

    集英社『地下にうごめく星』より〉




     

    地下アイドルは「現実と地続きのリアルさ」が魅力

    ――『地下にうごめく星』は、どういったきっかけで書かれたのでしょうか?

    もともと地下アイドルに詳しかったわけではないのですが、以前、アイドル好きの同僚に誘われて初めてライブに行ったんです。そこであまりの楽しさに、すぐにはまってしまって。その経験がずっと頭にあったので、新しい小説を書き始めようと思ったときに「地下アイドルを題材にしよう」と思いました。

    ――本作は仙台が舞台です。“アイドルの本場”である東京ではなく、地方を選ばれたのはなぜですか?

    仙台を舞台にしたのも、地方でアイドル活動をやろうと思っても、イベント会場もお客さんも少ないし、本場の東京までは交通費も時間もかかるといった、乗り越えなくてはいけない壁がありますよね。

    私もずっと仙台に住んでいるので、そんな地方ならではのデメリットを感じていて。でも全国各地にご当地アイドルが生まれていく中で、「地方にもがんばっている子たちがいるんだぞ」ということを盛り込みたい気持ちがありました。

    ――第1編「リフト」は、会社員として働く40代後半の独身女性・夏美が主人公です。彼女は同僚に誘われて初めて地下アイドルのライブに足を運び、テレビとは違うリアルな熱気に包まれて、一瞬にして「ガチなオタク」に変貌します。

    ライブハウスでは生のステージを見ているからか、そのイベントが「自分に近い、地続きの世界で行なわれている」と実感できるのが魅力です。実際にライブを見て「どんな世代でも夢中になれる世界だな」と思ったので、主人公はあえて、あまり客層にいなかったような人物にしようと思いました。

    テレビで見るアイドルは、ちゃんと大人が手をかけて、商品としてこちらに届けられている感じがしますよね。地下アイドルにもプロデューサーがついている場合はありますが、本職ではなく、平日は会社員として働いているような人も多いんです。

    そのせいか、地下アイドルは喋っている言葉ひとつとっても自分自身でプロデュースしているような、等身大な感じがしました。 “芸能人”というよりは、「現実に生きている人間なんだ」と親しみが感じられるというか。

     

    地下アイドルの“光”の部分を書きたかった

    ――初めてのライブで衝撃の事実を知らされた夏美は、会社員を続けながら、プロデューサーとしての活動を始めます。そんな夏美のもとに集まったのは、それぞれに生きづらさや報われない思いを抱えた3人の少女と1人の少年。そのうち第2編「リミット」では、夏美の人生を大きく変えた存在でもある「楓」という女の子が描かれます。

    彼女は宝塚歌劇団に憧れるものの、年齢制限で挑戦すらできず地下アイドルになった23歳の女の子です。

    宝塚って独特で、歌劇団に入るには宝塚音楽学校に入る必要がありますが、18歳を過ぎると入学の道が閉ざされてしまう。20歳で宝塚を知った楓はいまだに未練を抱えていますが、地下アイドルの世界には、そういった別の夢からあぶれた人も受け入れてくれるような“懐の深さ”があるのではないかと思うんです。

    ――続く第3編「リアル」では、“女装男子”の高校生・翼が登場します。彼は、女の子が大好きでありながら「彼女たちよりも可愛くなりたい」とライバル心を抱く、一風変わったキャラクターですね。

    本作にはアイドルを複数出そうと思っていたのですが、似たり寄ったりにならないように、あえて男の子を1人入れてみました。ただトランスジェンダーについての話ではないので、翼は単に可愛いものが好きなだけの、一般的な男子高校生として書いています。

    「普通の男の子がアイドルになりたいと思う理由は何だろう」と考えたときに、まず浮かんだのが「就活」のことでした。いまの高校生・大学生は、不景気で先行きも見えない不安な状況の中で、将来を考えていかなくてはならないですよね。そんな状況に追い込まれた若い人たちが“地下アイドル”という存在に光を見いだし、魅かれることは、性別関係なくあるんじゃないかなと思ったんです。

    ――その翼がアイドルオタクの仲間として出会うのが、「天使」を名乗る女子高生・瑞穂です。彼女は家庭にも学校にも居場所を見つけることができず、「自分は天使である」という設定によってなんとか心を守っています。

    瑞穂は、当初から登場させたいと思っていたキャラクターです。彼女にとってアイドルの世界は、唯一自分を受け入れてくれる場所。日常生活の中で痛みを抱えているけれど、好きなアイドルが彼女の救いになっています。

    地下アイドルというとネガティブな切り取り方をされがちですが、最初に地下アイドルの話を書こうと思ったときから、そうではなく、若者たちの希望やオタクの支えになるような“光”の部分を書きたいという気持ちがありました。

     

    テレビとは違う、地下アイドルの世界ならではの“寛容さ”

    ――5編目の「アイドル」に登場するのは、19歳の愛梨です。彼女は東京で地下アイドルとして活動していましたが、ある事情でグループを抜けることになり、地元の仙台に戻ってきます。ここまでそれぞれに個性的な人物が登場してきましたが、愛梨もまた、「容姿に秀でていない」という特徴のあるキャラクターです。

    地下アイドルは、たとえ容姿に秀でていなくても、愛嬌や握手の対応、パフォーマンスの仕方などでファンを増やすことができる。それもこの世界ならではの寛容さだと思うんです。テレビの中とはまた違ったアイドル像を示したくて、作ったキャラクターが愛梨です。

    ――愛梨は容姿よりも、歌唱力と愛嬌で勝負するタイプ。相手の欲しがっている言葉やリアクションを差し出すのが得意で、それを自らの長所ととらえています。

    容姿に自信のない子だと、ほかのアイドルたちに対して憧れの気持ちもあって、自然とオタクに近い目線になるのではないでしょうか。そうするとオタクの気持ちもある程度わかるから、相手の心を読んで、求められているようなパフォーマンスを出すことに特化しているんじゃないかなと。でもそれは本人にとって、きっと楽しいばかりではないはず。そんな部分を書いています。

    後編(2018年5月27日公開)に続く
    40代の女オタクが”地下アイドル”の世界で初めて知った感情とは?『地下にうごめく星』渡辺優インタビュー【後編】

    渡辺 優 Yu Watanabe
    1987年宮城県生まれ。大学卒業後、仕事のかたわら小説を執筆。2015年に「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2017年、『自由なサメと人間たちの夢』を刊行。

    『地下にうごめく星』特設サイトはこちら

    ラメルノエリキサ
    著者:渡辺優
    発売日:2018年02月
    発行所:集英社
    価格:497円(税込)
    ISBNコード:9784087457001
    自由なサメと人間たちの夢
    著者:渡辺優
    発売日:2017年01月
    発行所:集英社
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784087710236

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