• 全編ベッドシーンで“現代の性”を描く『娼年』シリーズ完結!:石田衣良『爽年』インタビュー【前編】

    2018年05月03日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    主演の松坂桃李さんが“大胆な濡れ場”に挑戦したことでも話題になっている、4月6日(金)公開の映画「娼年」。原作は2001年に刊行された石田衣良さんによる同名小説で、2008年には続編『逝年(せいねん)』が発売、そして4月5日(木)にシリーズ完結編となる『爽年(そうねん)』が発売されました。

    ボーイズクラブのオーナーである御堂静香にスカウトされ、20歳にして男娼となった主人公のリョウ。第1作『娼年』で大学生だったリョウは、7年の歳月でさまざまな女性や欲望に触れ、今作で“ある決着”にたどり着きます。

    〈現代の性〉をテーマに書き継がれてきた本シリーズ。17年前の『娼年』、10年前の『逝年』、そして今作『爽年』まで、石田さんにお話を聞きました。

    爽年
    著者:石田衣良
    発売日:2018年04月
    発行所:集英社
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784087711394

    娼夫として7年もの歳月を過ごしたリョウ。御堂静香の後を引き継ぎ、非合法のボーイズクラブLe ClubPassion(「クラブ・パッション」)の経営を一手に引き受けるまでに。男性恐怖症、アセクシュアル……クラブを訪れる女性たちにも様々な変化が。
    リョウは女性の欲望を受けとめ続ける毎日の中で、自分自身の未来に思いを巡らせ始めた。性を巡る深遠な旅の結末に、リョウが下した決断とは……。

    集英社 BOOK NAVI『爽年』より〉

     

    全編ベッドシーンの小説を、正面から書き切ってみたかった

    ――『娼年』が発売されたのは2001年、17年も前になるんですね。当時、テーマに「性」を選ばれたのはなぜだったんでしょうか?

    デビュー当初に、「何でも好きなものを書いていいよ」と言われて書き始めたのが『娼年』です。

    その頃は新しい小説のアイデアが次々に湧いてきましたし、ちょうど「池袋ウエストゲートパーク」のドラマが放送されたりして、仕事がいろいろな方向に広がっていく時期でした。書き下ろしということで“枷”もなく、「今までとまったく違うことをやってみよう」というある種の野心もあって、「ほぼ全編ベッドシーンの話を正面から書き切ってみたい」という思いを実現させたのがこの作品です。

    ベッドシーンは、昔から恋愛ものの短編小説などで書いていて楽しかったし、僕の場合は恋愛やセックスが文章の質にぴったりと合っていた。熱量が高いとか、コッテリしているタイプではないので、かえってはまるんでしょうね。人間の欲望や性、関係性といったものは絶対に古くなりません。小説家としてのキャリアの初期に見つけたテーマがこれだけ広がりをもち、性愛小説を語るうえで“現代のクラシック”といえる一冊になったのは幸運でした。

    ――『娼年』『逝年』『爽年』と印象的なタイトルが並びますが、もともと3部作にしようという構想はあったのですか?

    そういう気持ちは特になかったのですが、1冊目の『娼年』を書いたあとに、ある記者さんから「このお話には続きがあるのでは?」と言われたんです。「確かにそうだな」と思って、2冊目の『逝年』を書き始めた。今回の『爽年』は、『娼年』が舞台化・映画化されるにあわせて書いた、アンコールピースのようなところがあります。

    娼年
    著者:石田衣良
    発売日:2004年05月
    発行所:集英社
    価格:432円(税込)
    ISBNコード:9784087476941
    逝年
    著者:石田衣良
    発売日:2011年05月
    発行所:集英社
    価格:464円(税込)
    ISBNコード:9784087466959

     

    日本の“性”や“恋愛”が、どんどん貧しくなっている

    ――本シリーズは「現代の性」がテーマですが、さまざまな欲望の形を描いてきた『娼年』『逝年』に対して、『爽年』では“性における困難”をすくい上げているのが印象的でした。「40代の処女」「セックスレス」「男性恐怖症」のほかに、「アセクシュアル(無性愛)」の女性も登場しますね。

    この時代に読み応えのある素材を探していったら、そうならざるを得なかったんです。現実よりも一段尖らせて書くのが小説なので。

    『爽年』は「小説すばる」で連載したものなのですが、連載当時から「なぜか毎回『性の不可能性』に突き当たってしまう」「この感じはどうしてなんだろう?」と思っていました。極端にいえば、日本人の性がどんどん貧しくなっているんじゃないだろうかと。それで、不幸になっていく過程がシリーズ全体のベーストーンになってしまったのだと思います。

    ――3作を通してリョウがさまざまな女性の心と身体を開いていく、性の多様性が感じられる小説ではありますが、現実は性の可能性が広がるどころか、不活性化の方向に進んでしまっているということでしょうか。本作を書き上げられて、何か答えは見つかりましたか?

    やはり時代が変わったということはあるでしょうね。

    自分以外のために、みんなが無駄なものを使わなくなりましたよね。結婚や出産も、経済的なプラスマイナスで考えている。そうして無駄なものをカットしていく流れの中で、性とか恋愛がどんどん捨てられてしまっているなと感じました。

    格差社会のようなもので、全体が貧しくなる中で、ある一部に性の幸せや豊かさがぎゅっと詰まっている。このシリーズで書いているのは、そういう意味ではすごく豊かな性の現場です。そう考えると、「娼年」シリーズを女性の読者が多く支持してくださっているのは、みんな何かしら“性のつらさ”を抱えて生きているからなのかもしれませんね。

    ――象徴的なのが、大学生時代にリョウの同級生だったメグミの変化です。『娼年』である行動を起こしたメグミは、『逝年』で和解してクラブの運営に携わり、『爽年』ではセックスレスの主婦として登場します。第1作ではリョウの“仕事”を受け入れられなかったメグミが、今作では「娼夫は将来有望な仕事」と言うまでに変わっていますよね。

    最初はあんなに潔癖な女の子だったのにね(笑)。でも結婚していても満たされないとなると、自然とそう考えるようになるんじゃないでしょうか。

    「結婚しなければ幸せになれない」と思い込む一方で、その“幸せ”が具体的にどんなものかを見つけられていない人は多いと思います。幸せの解を見ていないがために、日本人は人を愛するとか、継続的にセックスをするという、性愛の関係を維持することが下手になっている気がします。




     

    相手と思いを共有しないと、いつまでも性は楽しめない

    ――実例を知るという意味では、リョウをはじめボーイズクラブのメンバーは、性の話に対してとてもオープンです。性の問題をフランクに話し合う雰囲気は、日本にはあまりないですよね。

    それをしないからどんどん性が貧しくなるんですよね。ぜひ『娼年』シリーズや映画を、自分のパートナーと会話するきっかけにしてもらえたらいいなと思います。

    いまの日本人って、みんな「誰も自分のことはわかってくれない」「自分は一人きりだ」と思って生きている気がします。

    恋愛とか性愛もそうで、誰もが持っている不満や願い、あるいはファンタジーを自分だけで抱えて生きるのではなくて、相手と共有するようにならないと、いつまでたっても性は楽しくならないのではないでしょうか。

    後編(2018年5月4日公開)に続く
    「娼年」はきわどいところまで描いた「大人の恋愛映画」:石田衣良『爽年』インタビュー【後編】

    石田衣良 Ira Ishida
    1960年生まれ、東京都出身、成蹊大学卒業。97年、『池袋ウエストゲートパーク』で第36回オール讀物推理小説新人賞を受賞。以降、2003年『4TEEN フォーティーン』で第129回直木賞を、06年『眠れぬ真珠』で第13回島清恋愛文学賞を受賞。13年には、『北斗―ある殺人者の回心』で第8回中央公論文芸賞を受賞。

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    映画「娼年」作品情報

    主人公の森中領は東京の名門大学生。日々の生活や女性との関係に退屈し、バーでのバイトに明け暮れる無気力な生活を送っている。ある日、美しい女性がバーに現れた。女性の名前は御堂静香。「女なんてつまんないよ」という領に静香は”情熱の試験”を受けさせる。それは、静香が手がける会員制ボーイズクラブ、「Le Club Passion」に入るための試験であった。
    入店を決意した領は、翌日から娼夫・リョウとして仕事を始める。最初こそ戸惑ったが、娼夫として仕事をしていくなかで、女性ひとりひとりの中に隠されている欲望の不思議さや奥深さに気づき、心惹かれ、やりがいを見つけていく。

    映画「娼年」全国ロードショー 上映中

    出演:松坂桃李 真飛聖 冨手麻妙 猪塚健太 西岡徳馬 江波杏子 ほか
    原作:石田衣良(『娼年』集英社文庫刊)
    脚本・監督:三浦大輔
    製作:映画「娼年」製作委員会
    配給:ファントム・フィルム

    http://shonen-movie.com/


    ©石田衣良/集英社 2017映画「娼年」製作委員会
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