• アートと解剖、その距離を補う7冊――批評家・布施英利が〈ディグる〉アートする/身体

    2018年04月22日
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    ほんのひきだし編集部
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    批評家・布施英利の〈ディグる〉アートする/身体

    昨年の春に、2冊の本を出した。『人体 5億年の記憶 ―解剖学者・三木成夫の世界』と『わかりたい!現代アート』だ。

    片や人体解剖学の本、そしてもう一冊は現代アートである。まったくジャンルが違う。なぜ一人の人間が、そんな畑違い(と思われる)の本を同時に出すのか? そう思われるかもしれない。

    たしかに、骨や内臓やという話ばかりの本がある一方で、マルセル・デュシャンとかアンディ・ウォーホルとかの解説の本である。まったくジャンルが違う。もし、一方の本に興味を持って読んでくださる方がいたとしても、他の一冊には食指は動かないかもしれない。

    とはいえ、両方の本を共に買って、どちらも読んで下さる、という奇特な読者もいらっしゃるかもしれない。なにしろ、どちらも本も、丹精込めて書いた自分の分身なのだ。どちらも読む、ということになれば、これ以上にありがたいことはない。

    ともあれ、4つのタイプの読者がいることになる。こうだ。

    1.『人体 5億年の記憶 ―解剖学者・三木成夫の世界』のみを読む。
    2.『わかりたい!現代アート』のみを読む。
    3. どちらも読む。
    4. どちらも読まない。

    もちろん、自分は「3」であっていただけることを望む。2冊買ってほしい、ということだけではない。この2冊の本の、ジャンル違いと思われる、その距離の中に、自分が考える、ある大切な世界があると思うからだ。2冊の本は、それぞれ独立した世界だ。しかし、そういう独立世界と独立世界がつながることで見える、もう一つの世界もある。自由な、知的冒険に溢れる世界だ。

    今回、この2冊の本の「距離」を補う(あるいは、さらに距離を引き離す)、この2冊以外の本も挙げてみた。光文社新書で出した、自分の「絵画がわかる」三部作と、恩師・養老孟司先生の近著2冊である。養老先生のは、解剖学の研究体験をベースにした、ヨーロッパ墓巡りの、旅と思索の本である。

    これで7冊になった。それぞれの本は、それぞれ独立したものだが、7つの星をつないで一つの形に見える北斗七星のように、これら7冊の本のラインナップによって、それぞれの本とは別の宇宙が現れてくれたらと思う。

    ぜひ、どれか1冊、いや2冊、3冊、そして出来たら7冊をお読みいただきたい。

    選書リスト
    1.『人体 5億年の記憶 ―解剖学者・三木成夫の世界』(布施英利/海鳴社)
    2.『わかりたい!現代アート』(布施英利/光文社・知恵の森文庫)
    3.『構図がわかれば絵画がわかる』(布施英利/光文社新書)
    4.『色彩がわかれば絵画がわかる』(布施英利/光文社新書)
    5.『遠近法がわかれば絵画がわかる』(布施英利/光文社新書)
    6.『身体巡礼』(養老孟司/新潮文庫)
    7.『骸骨考』(養老孟司/新潮社)

     

    1.『人体 5億年の記憶』

    人体5億年の記憶
    著者:布施英利
    発売日:2017年03月
    発行所:海鳴社
    価格:2,160円(税込)
    ISBNコード:9784875253303

    不世出の解剖学者・三木成夫の学問世界を、解説した本。三木は、人体を、進化の果てに出来上がったものとして見た。つまり体には、その5億年の記憶が詰まっていると。私たちは、なぜこのような体をしているのか、また心というものの正体は何か、そのような世界観に、三木は「体の進化」という観点から回答を与えた。三木の弟子である布施が、恩師の学問を体系的にまとめた本。

     

    2.『わかりたい! 現代アート』

    わかりたい!現代アート
    著者:布施英利 TYM344
    発売日:2017年04月
    発行所:光文社
    価格:756円(税込)
    ISBNコード:9784334787189

    1917年、マルセル・デュシャンが『泉』というタイトルの、ただの便器を美術館で発表した。そこから100年の現代アートを34組のアーチストを取り上げることで回顧した本。わかりやすい文章で現代アートを開設したと同時に、本書に掲載した画は、若手の美術家・TYM344の作品で統一。現代アートの解説であると同時に、この本自体が現代アートになっている、という挑戦的な本でもある。

     

    3~5.『絵画がわかる』三部作

    構図がわかれば絵画がわかる
    著者:布施英利
    発売日:2012年10月
    発行所:光文社
    価格:1,123円(税込)
    ISBNコード:9784334037123

    画の見方は、ふつう歴史に沿った見方(=美術史)や、哲学の体系をベースにした見方(=美学)がされることが多い。しかし本シリーズは、構図・色彩・遠近法という観点から、絵画の本質に迫る。レオナルド・ダ・ヴィンチは、「絵画の科学」を、遠近法、明暗法(光の科学、色彩学)、そして解剖学などの切り口から探究したが、本シリーズは、その現代版の試みとも言える。現代の絵画の科学、それがこの三部作となる。

     

    6.『身体巡礼』

    身体巡礼 ドイツ・オーストリア・チェコ編
    著者:養老孟司
    発売日:2016年12月
    発行所:新潮社
    価格:637円(税込)
    ISBNコード:9784101308425

    「引退したらやってみようと思っていたことがあるんです」という養老先生のヨーロッパ墓巡りの、思索の旅。行き先は、ドイツ・オーストリア・チェコの中欧。長年、ヒトの死体と向き合ってきた解剖学者の視点で、ハプスブルグ家の心臓埋葬という奇妙な風習や、チェコの4万体の骸骨が飾られた寺でその意味を考え、「自己と社会」など思索の幅が広がっていく。最後に結論として「未来都市の設計では、やはり墓場を中心に置くべきである」とまとめる。

     

    7.『骸骨考』

    骸骨考
    著者:養老孟司
    発売日:2016年12月
    発行所:新潮社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784104160082

    『身体巡礼』に続く、ヨーロッパ墓巡り、骸骨巡りの旅、第二弾。今回の行き先はイタリア・ポルトガル・フランス。先のチェコのセドレツ納骨堂に続き、ヨーロッパ三大骸骨寺、ローマのサンタ・マリア・デッラ・コンチェツィオーネ・デイ・カプチーニ教会、ポルトガルのカンポ・マヨール寺を踏破。墓好き、骸骨好きには最良のガイドであるが、それ以上の養老思想の全貌が語られ、養老ワールドの良きガイドでもある。

    布施英利(ふせ・ひでと)
    1960年生まれ。美術批評家、解剖学者。これまで約50冊の著書がある。東京芸術大学美術学部卒業、同大学院博士課程(美術解剖学専攻)修了。学術博士。東京大学医学部助手として養老孟司教授のもとで人体解剖の研究をするなどを経て現在に至る。最初の単著は28歳の時に出した『脳の中の美術館』(筑摩書房)。以後、本欄で紹介した近著まで、芸術と科学のジャンルをまたぐ著作を発表してきた。57歳。




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