• 本の大海原を浮輪ひとつでぷかぷかしながら、荻原浩さんが考えたこと

    2018年04月09日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    直木賞作家・荻原浩さんの新刊『極小農園日記』が、3月9日(金)に発売されました。

    極小農園日記
    著者:荻原浩
    発売日:2018年03月
    発行所:毎日新聞出版
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784620325064

    デビュー作『オロロ畑でつかまえて』、映画にもなった『明日の記憶』、直木賞受賞作『海の見える理髪店』などなど、荻原さんの作品は単行本だけで40冊近くにのぼります。ところが意外にも、エッセイ集は今回が初めて。長年の趣味である家庭菜園での奮闘記と、創作や旅について綴ったエッセイがたくさん収められています。

    荻原さんの持ち味である軽やかな文章と絶妙なユーモアを存分に楽しめるうえ、素顔や日常も垣間見えてファンにはなんともうれしい一冊。しかもカバーや文中のイラストは、荻原さんの直筆です!(すっごくかわいい♡)

    今回はそんな荻原浩さんに、本屋さんにまつわるエッセイをお寄せいただきました。

    荻原 浩
    おぎわら・ひろし。1956年埼玉県生まれ。成城大学経済学部卒。広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターに。1997年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞、2014年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞、2016年『海の見える理髪店』で直木賞を受賞。『なかよし小鳩組』『愛しの座敷わらし』『冷蔵庫を抱きしめて』『金魚姫』『ギブ・ミー・ア・チャンス』『ストロベリーライフ』『海馬の尻尾』ほか著書多数。新刊『極小農園日記』は初のエッセイ集。

     

    本の海の中を泳ぐ方法  荻原 浩

    本屋さんに行くと、とくに大きな店に行くと、しばしば茫然とする。

    本がたくさんある!

    あたりまえだけど。

    その数に圧倒され、ずらりと並んだ本棚が、水平線の彼方まで島影ひとつない大海原に思えたりする。その海に浮輪ひとつでぷかぷか浮いている気分になる。

    本を選びに来ているのだから、読む人間にとってはありがたいことなのだが、茫然とし、圧倒され、ぷかぷかしてしまうのは、僕が「読む人」であると同時に「書く人」でもあるからだ。

    いつも思う。このたくさんの中から自分の本を選んでもらうのは、奇跡に近いんじゃないかと。たとえ少数だとしても読んでくれる人がいる、それだけで僥倖ではないかと。

    だって、いくら品数豊富なレストランだって、メニューはたかだか百ぐらいでしょ。スーパーマーケットや薬局で歯磨き粉をどれにするか悩むにしたって、選択肢はせいぜい二十とか三十。コンビニの小パック牛乳なんて、へたしたら一択。

    本の場合は――この際、小説にかぎったとしましょう。それでも――計算できないし、計算したくもない。

    飲食店のメニューのベストテンを当てて完食するまで帰れないというバラエティ番組があるけれど、もし本屋さんで『ベストテンをすべて読破するまで帰れまテン』なんてやっちまった日には、一年は帰れないんじゃないだろうか。

    だから、本屋さんでぷかぷかするたびに思う。しっかり書かねばと。怠けず、流されず、挑戦を恐れず、新刊は常に自己ベストであらねば、と。文庫化の際にはきちんとリニューアルせねば、と。

    自分の本を手にしてくれた読者は、奇跡的な出逢いを果たした運命の人なのだから、あくびをさせないようにとびっきりのストーリーでおもてなしをし、ゆめゆめ途中で放り出されないよう文章を磨き、たったひとつのフレーズでも、こちらの思いのひとかけらでもいいから、お帰りの際には、日持ちのいいお土産を用意しなければと思う。

    本屋さんに行くとたいてい(とくに新刊が出ている時期には)、自分の本が置かれているかどうかを定期点検のようにチェックしてしまう。

    平積みにされていれば「ありがとう」と心の中で呟き、曲がりを直したりする。棚挿し一冊の場合、「お」の行のビッグネームに挟まれて肩身の狭い思いをしているわが子(自分の本)に「がんばれよ」と声をかける。奥に引っこんでしまっていたら、引っぱり出す。3ミリぐらい出っぱらせて。

    だから、たまさかPOPなどを立ててもらっていたりすると、とても嬉しい。本の大海で溺れているわが子に投げかけられた救命ブイに見える。

    少し前に出した文庫『月の上の観覧車』に、手づくりの観覧車の立体POPをつくってくれた本屋さんが何軒かあった。これも嬉しかったですね。

    「いや、まいったな。こんなことまでしてくれなくても」なぁんて思いながら、観覧車の曲がりを直したり、紙製のゴンドラを吊るす糸のよれを引っぱったりした。

    でも、考えてみれば、こうしたPOPだって、読者としての書店員さんが、「お、この本は」と思ってくれたから立つのであって、このへん寂しいから一本いっとくか、というものではない(と思う)。

    そうしてみると、やっぱりこちらができることは、ひとつ。

    いいものを書くこと。

    それしか本の海の中を泳ぎ続ける方法はない。

    がんばります。曲がってたら、直すから。

    (「日販通信」2018年4月号「書店との出合い」より転載)

     

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