• 『伴走者』ってどんな人?元@NHK_PRの“中の人”浅生鴨が描く「他人の勝利のために戦う人々」:インタビュー【前編】

    2018年02月27日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    NHK広報局の公式ツイッターアカウント「@NHK_PR」の初代担当として知ら
    れ、退職後に小説家としてデビューした浅生鴨さん。『アグニオン』『猫たちの色メガネ』と小説を発表してきましたが、実は浅生さんはNHK在籍時から現在に至るまで、オリンピック・パラリンピックを取材してきたのだそうです。

    2月27日(火)に発売された『伴走者』は、そんな浅生さんの経験を活かして書かれたまったく新しいスポーツ小説です。“伴走者”とは、視覚障害のある選手の目の代わりとなって、彼らの勝利のために共に戦う人たちのこと。勝ちにこだわる傲慢なマラソンランナーや、天才スキーヤーである女子高生と伴走者の姿を通して、本書では障害者スポーツの実態や迫力ある競技の様子、人間関係の機微などが描かれています。

    ほんのひきだしでは『伴走者』の刊行に合わせ、本書を執筆したきっかけから取材の様子、ちょっと変わった(?)執筆スタイルまで、浅生さんにたっぷりとお話を伺いました。3⽉9⽇(金)に開幕する平昌パラリンピックの前に、作品とインタビューから、障害者スポーツの世界をのぞいてみませんか?

    伴走者
    著者:浅生鴨
    発売日:2018年02月
    発行所:講談社
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784062209540

     

    “伴走者”とは、どんな人?

    ――伴走者とはあまり聞きなれない言葉ですが、どんな人をさすのですか?

    NHKに在籍していたときに、パラリンピックのCMを作る機会がありまして、取材していく中で伴走者という存在を知ったんです。視覚障害のある選手の目の代わりとなって、周囲やレースの状況を伝えたり、ペース配分やタイムを管理したり。他人を勝たせるためにがんばる彼らの姿を見て、不思議というかユニークというか、「おもしろい人たちだな」と思って、そのCMは伴走者をテーマにしました。

    それがきっかけで、伴走者というものが「僕たちとパラスポーツ選手たちの間を取り持ってくれる、中間的な存在」として僕の中に残っていたんです。

    長編小説の依頼を受けて、いくつか出した企画のひとつが伴走者で、話を進めていく中で編集者にも興味を持ってもらえたので、書いてみることにしました。

    ――本作の舞台は、2020年の東京パラリンピックが終わったあとに設定されています。「2020年を目指す話」ではないというのが意外でした。

    ひとつには、マイナースポーツって細かいルールがしょっちゅう変わるので、その時点でのルールとの整合性をとるのが大変なんです。そのため、もう少し未来の話にしています。

    それからもうひとつは、何度かこの本でも書きましたが、2020年に東京オリンピック・パラリンピックがやってくると、その時はすごく盛り上がるけれど、ブームが去ったあとはきっと「そういえばあったね」で済まされてしまう。その先を見据えて物事を考えないと、「結局2020年で全部終わっちゃうなあ」という気がしていたので、それ以降のことにも意識を持ってもらえるといいなという思いがありました。

     

    スポーツ選手は傲慢に決まっている!?

    ――『伴走者』の前半に収録されている「夏・マラソン編」は、淡島というベテランのランナーが伴走者としてスカウトされ、視覚障害者ランナーの内田とともに、パラリンピックへの切符を手にするために南国のマラソン大会でメダルを狙うというストーリーです。

    内田が非常に傲慢な人物で印象的でしたが、徹底的に“勝ち”にこだわる姿勢が清々しいとも思いました。

    内田は「勝つためには手段を選ばない」という考えをもっているので、ほかの選手を煽ったりブラフをかけたり、卑怯ともいえる作戦をとります。

    でもスポーツって、そういうものだと思うんです。目標が明確で、そこに向かってまっすぐに進んでいく。だから見ているこっちも迷いがなくなります。

    僕は基本的に、スポーツ選手はみんな傲慢に決まってると思っています(笑)。

    伴走者も含め、スポーツ選手はみんな「勝ちたい」というエゴの塊。僕らの感覚からすると彼らは「勝つためには何でもやる人たち」だし、そもそも普通の「いい人」では勝てないでしょう。

    ――一方、“伴走者”の淡島はデータ分析に秀で、「機械」と呼ばれるほど正確無比な走りにこだわってきたランナーとして描かれています。

    淡島が緻密な正確さを追求したのは、より高いレベルのレースでは彼は勝てないから。だからこそ勝ち負けよりも記録にこだわってきたし、ある意味では勝負から逃げていたんですよね。

    それが内田という勝つことに貪欲な人間と出会うことで火が付いて、「勝ちたい」と思うようになる。そういう変化も描いています。

    ――勝負への姿勢も性格も対照的な2人ですが、人物像はどのように設定されたのですか?

    実際に小説を書く時にはあまり意識をしていなくて、目の前でそのキャラクターが動いてしゃべっているのを、僕は淡々とメモっているだけなんです。

    登場人物も「こういうキャラクターにしよう」と思って書いているわけではないのですが、取材でお会いした方がモデルになって、そのキャラクターが作り上げられていくところはありますね。障害者にも怠け者や傲慢な人は、いくらでもいますから。

    ▼『伴走者』の表紙は、視覚障害者ランナーの和田伸也さん(左)と伴⾛者の中⽥崇志さん(右)の手を撮影した写真が使われています。実際のレースでも、選⼿と伴⾛者は輪になった1本の紐を握って走ります。

     




     

    伴走は、もはやチームスポーツ

    ――後半の「冬・スキー編」は、アルペンスキーの元トップレーサー・涼介が、勤め先の会社から命じられ、全盲の女子高生のガイドレーサーをすることになるという話です。

    こちらでは健常者が視覚障害者について理解を深めていく様子や、35歳の涼介が女子高生の晴に振り回されて変わっていく姿など、人間関係の変化にも重きが置かれていますね。

    夏編では、どちらかというと“競技のおもしろさ”をメインに書きました。マラソンは誰もが知っているものなので、その伴走を競技として書けば、レースで行なわれていることがイメージできておもしろいだろうなと思ったんです。

    一方の冬編で書いたのは、アルペンスキーのダウンヒル。もともとあまり知られていない競技なので説明が難しいし、1回の滑りがわずか3分で終わってしまいます。それに順位に関しても、単純に実測タイムで競うのではなく、障害に応じた数値を掛け合わせて決められます。だから競技だけを描いても、あまりドラマにはならないんですね。

    なので冬編では、夏編には入りきらなかった“人間関係の機微”をていねいに描きたかった。「こんなことを言っちゃってもいいのかな」と思う健常者側の心理や、「なんで言ってくれないの」という障害者側の心理などを書いています。

    ――とはいえアルペンスキーでは、視覚障害者のレースでも世界レベルになると時速100キロを超えると書かれていますね。このスピードで目が見えていないとなると、まさに恐怖との戦いだと思いました。

    恐怖の源泉は無知だと思っています。わからないから怖い。その「わからない」を解消するために、ガイドする伴走者がいるんです。

    それは僕らの日常でも同じで、人との関係や違う文化と接するときもそうですよね。
    その時に「これはこうだよ」と教えてくれる存在がいれば、恐怖が消えていく。もちろん視覚で得られる情報がないので恐怖は増すでしょうけれど、それをやわらげる存在がいてくれれば何とかなる。それは、あらゆる面で起きることではないでしょうか。

    ――だからこそ信頼関係が必須ですし、トップレベルの選手をガイドしながら競技する伴走者には、最高レベルの技術が求められるわけですね。

    テニスのダブルスみたいに、選手と伴走者はもはやチームスポーツに近いので、一方だけがうまくても意味がない。お互いが高いレベルで揃っていないと勝てないんです。実際に世界トップレベルの人たちでも、伴走者が交代したらゴールできずに棄権してしまうというパターンが結構あって、それくらい微妙なものなんですね。

    そういう意味では夏編は男同士、冬編は男女の組み合わせですけれど、この小説はいわゆるバディものとしても読めるかなと思います。

    後編へ続く(2018年2月28日公開予定)
    「ドキュメンタリー番組と同じ」浅生鴨流・小説の書き方――『伴走者』インタビュー【後編】

    浅⽣ 鴨 Kamo Aso
    1971年、兵庫県生まれ。作家、広告プランナー。NHK職員時代の2009年に開設した広報局ツイッター「@NHK_PR」が、公式アカウントらしからぬ「ユルい」ツイートで人気を呼び、中の人1号として大きな話題になる。2013年に「群像」で発表した初の短編小説「エビくん」は注目を集め、日本文藝家協会編『文学2014』に収録された。2014年にNHKを退職し、現在は執筆活動を中心に広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手がけている。著書に『中の人などいない』『アグニオン』『猫たちの色メガネ』がある。

    アグニオン
    著者:浅生鴨
    発売日:2016年08月
    発行所:新潮社
    価格:1,836円(税込)
    ISBNコード:9784103501718
    猫たちの色メガネ
    著者:浅生鴨
    発売日:2017年09月
    発行所:KADOKAWA
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784041061800

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