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〈インタビュー〉荻原浩さん『金魚姫』 同居人は金魚の化身!? 哀しくユーモラスな生と記憶の物語

2015年09月24日
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日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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「物語の素材として、以前から金魚が気になっていた」という荻原浩さん。金魚は1700年ほど前の中国でフナの突然変異種として生まれ、その後、観賞用として人為的な改良が重ねられてきた。

「魚の基本みたいなフナが真っ赤になったり、目玉が飛び出たり。真っ当な進化だったら何千年、何万年かかるはずなのに、1000年でまったく別のものにしてしまった。金魚を書けば、そういうふうに生き物を弄り回してきた人間のろくでもなさや業が書けるのではないかと。それと同時に金魚の色あいの艶やかさなど、自分にどこまで描写できるだろうということにも興味がありました」

金魚姫
著者:荻原浩
発売日:2015年07月
発行所:KADOKAWA
価格:1,836円(税込)
ISBNコード:9784041025284

仏壇・仏具を販売する勤め先はブラック企業。同棲していた恋人にも振られ、生きる気力を失っていた潤は、夏祭りの金魚すくいで1匹の琉金を手に入れる。古本屋で見つけた「金魚傳」という古書を片手に金魚を飼い始めた潤だったが、その夜、彼の部屋に赤い衣を身に纏い、全身から水を滴らせた美女が現われる。「笑止」や「合点」など古めかしい言葉を使い、えびせんには目が無い。知ったかぶりでテレビのものまねを連発する風変わりな女。記憶を持たない彼女をリュウと名付けた潤は、その直後から死者の姿が見え始め、次々と契約がとれるようになる。束の間順調に見えた二人の生活だったが……。

リュウは「なんのために、いまここにいるのか」。現代の二人と交錯するように描かれるのは、唐や明の時代の中国、琉球、そして長崎の地で、簡単に、無残に命を奪われる人々の姿だ。1700年という時の流れの中で、そこに居合わせる女は何を意味するのか。いうなれば“現代編”と“歴史編”の2つの軸が絡み合い、読者はその謎とリュウの深い哀しみに包まれていく。

何の罪もない人が有無を言わさず撲殺されたり、釜茹でにされてしまったり。そんな理不尽な死を、荻原さんは歴史編で有り体に見せていく。一方、法律や倫理観で守られているはずの現代だが、「ブラック企業に勤める潤が本気で死を考えてしまうのも、殺されかけている状態なのではないか」。

これまでも〈生と死〉や〈記憶〉を作品のテーマにしてきた。

「それがすべてではないですが、自分が何を書きたかったのかと考えると、〈死ぬな〉〈生きろ〉ということだと思う。この本を読んでくれる人の中で〈もういいか〉と考えてしまっている人が、死ぬなんてバカバカしいなと一人でも思ってくれたらうれしいです」

二人のコミカルで微笑ましい毎日に忍び寄る、思いも寄らぬ因果。赤が引き出す色彩の鮮やかさに、金魚が象徴する女性の悲哀が影を落とす。死があるからこそ愛しい、〈生きる〉ということ。すべてが繋がった先に訪れるラストシーンは、あまりにも切なく美しい。

それは丁寧に織り上げられた物語を旅してこそ見えてくる景色。小説の深い味わいを湛えた一冊だ。


荻原浩さん-cc_1 RGB.01荻原 浩 Hiroshi Ogiwara
1956年、埼玉県生まれ。広告会社勤務を経て、コピーライターとして独立。1997年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞、2014年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞を受賞。『砂の王国』『愛しの座敷わらし』『誘拐ラプソディー』『花のさくら通り』『家族写真』『冷蔵庫を抱きしめて』など著作多数。


(「新刊展望」2015年10月号「著者とその本」より転載)
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