• 道尾秀介の10年が結実した“やさしい嘘”の物語『透明カメレオン』インタビュー

    2018年02月15日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    〈道尾秀介さんの『透明カメレオン』文庫版がこのほど発売されました。単行本刊行時(2015年1月)のインタビューを再掲載します。〉

    透明カメレオン
    著者:道尾秀介
    発売日:2018年01月
    発行所:KADOKAWA
    価格:778円(税込)
    ISBNコード:9784041063521

    道尾秀介 Shusuke Michio
    1975年生まれ。2004年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。05年に上梓された『向日葵の咲かない夏』が08年に文庫化され100万部を超えるベストセラーに。07年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞、09年『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞、10年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』で第23回山本周五郎賞、11年『月と蟹』で直木賞を受賞。ほかに『サーモン・キャッチャー the Novel』『満月の泥枕』『風神の手』など著書多数。

     

     「10年間」が結実した 『透明カメレオン』という物語

    「作家生活10周年記念作品」と銘打たれ、2015年1月に発売された道尾秀介さんの『透明カメレオン』。道尾さんのデビュー作『背の眼』が書店に並んだのは、2005年の1月だった。

    「本当に丸10周年なんです。この本は、ずっと応援してくれた方や書店さん、出版業界への恩返しだと思っています。

    今まではわりと、〈わかる人はわかってください〉という書き方の本が多かったのですが、『透明カメレオン』は小説を読んだことがない人でも十分に楽しめるものにしたかった。かつ、たくさんの本を読んできた人や、これまでの読者にも深く満足してもらえるようにと書いた一冊です」

    インタビューなどでは折に触れ、「小説は自分のために書いている」と語ってきた。「読者のために書く」という初チャレンジは「予想していたよりも難しかった」という。

    一般に広く受け入れられやすいものは、特徴がなくなりがち。「たくさんの読者に手に取ってほしい」と願いながらも、無難なものに落ち着くことなく、「棘があるなら棘があるまま、毒があるなら毒があるまま」に楽しんでほしいと挑んだのが本作だ。

    背の眼 上
    著者:道尾秀介
    発売日:2007年10月
    発行所:幻冬舎
    価格:617円(税込)
    ISBNコード:9784344410367

     

    “聴く”ように読む

    『透明カメレオン』の主人公は、深夜の人気ラジオ番組のパーソナリティ・桐畑恭太郎。「ものすごく素敵な声」と冴えない容姿のギャップに悩む、34歳だ。代わり映えのしない毎日を刺激的な出来事につくり替え、毎夜リスナーに届けている。

    妹の出産のため、共に暮らす母は妹と実家に里帰り中。1人淋しく暮らす恭太郎が唯一自分らしくいられる場所が、仕事帰りに通う浅草のバー「if」だ。店には美人ママの輝美や人気キャバクラ嬢の百花、害虫駆除会社を経営する石之崎、ゲイバーのホステスであるレイカ、仏壇店の店主・重松と個性的な面々が集う。

    ある雨の夜、ビルの外から不審な物音がし、ifに全身びしょ濡れの美女・三梶恵が現れる。互いのふとした勘違いをきっかけに、恭太郎と仲間たちは目的も知らされないまま、彼女の“殺害計画”に巻き込まれていく。

    「if」があるのは、浅草の路地裏にある古いテナントビル。自身も浅草に行きつけの店が数軒あるという道尾さんは、浅草を舞台に選んだ理由をこう語る。

    「この小説は、お互いの情が絡み合うことで、問題が起きたり、面倒くさい展開になってしまったり。いわば人情で成り立っている物語です。浅草といういまでも昔ながらの義理人情が色濃く残っている場所で、思いやりが重なり合う話を書きたかったんです」

    パーソナリティという職業も、「もともとラジオ放送を聴くのが好きで、ずっと書いてみたいキャラクターでした」。

    ラジオを聴いたことがない人はいないけれど、番組を離れたパーソナリティの日常は、なかなか窺い知ることはできない。

    「本番から聴こえてくるパーソナリティと構成作家の関係といったちょっとした知識をもとに、舞台裏を想像しながら書く楽しみがありました」

    恭太郎の声は〈平均よりもトーンが高く、少しハスキーがかって〉いて、聞いた人が思わず顔を上げてしまうような〈特殊な声〉。

    ストーリーには度々番組での恭太郎の“語り”が挿入されるが、その軽妙な語り口は、誰もが自然と自分にとって、最高に心地よい声音で“聴いて”いるはずだ。

    もちろん、そうして挟み込まれるラジオ放送も、すべてが重要な意味を持つ。恵に対する恭太郎の思いや仲間たちのこと、“計画”の背景には何があるのか……。それらが絶妙なおかしみを含んだ文章でさりげなく提示され、心にするりと入り込む。

    「どこでページを閉じてもらっても十分楽しめる。なおかつ最後まで読んでもらえると、予想もできなかった感動がある」

    ユーモラスな語り口やたまに入ってくるラジオ放送、恭太郎が仲間たちと繰り広げる決死の覚悟のアクションシーンなど、物語を盛り上げるさまざまなパーツはラストの感動へと導く巧妙な仕掛けでもある。

    ミステリーあり、家族あり、恋愛ありと、さまざまな要素が見事なバランスでまとめ上げられた本作。読後のカタルシスを最大限に味わうためにも、キャラクターたちに懐を開いて、一つ一つの仕掛けを存分に楽しむことをぜひおすすめしたい。




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