• 大阪の書店員が読み解く「朝井まかて」の魅力

    2015年09月22日
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    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    Osaka Book One Projectが選ぶ、第3回「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」に決まった朝井まかてさんの『すかたん』(講談社文庫)。同書はちゃきちゃきの江戸娘と大坂の青物問屋の“すかたん”な若旦那の恋物語であると同時に、作り手と問屋が協力して、町の人々により良いものを届けたいと奔走するお仕事小説でもあります。

    朝井まかてさんを囲み、Osaka Book One Projectの取り組みと作品の魅力について、梅田 蔦屋書店のコンシェルジュ・荒木智美さん、西日本書店副店長・槌賀(つちが)啓二さんに語っていただきました。

    すかたん
    著者:朝井まかて
    発売日:2014年05月
    発行所:講談社
    価格:745円(税込)
    ISBNコード:9784062778398

    江戸詰め藩士だった夫が急死し、大坂の青物問屋で住み込み奉公することになった知里。抜け作で遊び人だが、野菜にかけては熱心な若旦那。江戸娘と浪華の“すかたん”が恋仲に!? 恋と仕事の痛快王道時代小説。

     

    Osaka Book One Project とは

    「大阪の本屋と問屋が垣根を越えて一冊のほんまにええ本を売ろう」と集まった大阪の文学賞で、2013年制定。選書の条件は、①大阪に由来のある著者、物語であること ②文庫であること ③著者が存命であることの3点。特徴は、売り上げの一部を使用し大阪府社会福祉協議会を通じて、児童養護施設へ本の寄贈を行っている点。図書の選定を児童養護施設に依頼し、子どもたちに選ぶ楽しさ、本を読む楽しさを伝えている。過去2回の選定作は、第1回『銀二貫』(髙田郁著/幻冬舎時代小説文庫)、第2回『仏果を得ず』(三浦しをん著/双葉文庫)。

    (左から:荒木さん、朝井さん、槌副店長)

    ▲左から:荒木さん、朝井さん、槌賀さん

    ほんのひきだしPRO朝井まかて ―Macate Asai
    1959年、大阪生まれ。甲南女子大学文学部卒業。2008年、第3回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞してデビュー。受賞作は『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』と改題、講談社文庫収録。2013年、幕末から明治を生きた歌人・中島歌子の一生を描いた『恋歌』で第3回本屋が選ぶ時代小説大賞、2014年に同書で第150回直木賞を受賞。直木賞受賞第1作『阿蘭陀西鶴』で第31回織田作之助賞を受賞した。最新刊は『藪医 ふらここ堂』。
    蔦屋バナー.01 梅田 蔦屋書店
    〒530-8558 大阪府大阪市北区梅田3-1-3 ルクア イーレ9F
    TEL:06-4799-1800
    営業時間:7:00~23:00

    西日本書店バナー.01

    西日本書店
    〒530-0041 大阪府大阪市北区天神橋2丁目北1-14
    TEL:06-6352-5577
    営業時間:平日9:00-21:00/土9:30-21:00/日・祝11:00-20:00

     

    「掘り起こし」が仕事

    ―Osaka Book One Project(以下OBOP)が主催する第3回「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」に朝井まかてさんの『すかたん』が選ばれました。朝井さんはOBOPの活動については以前からご存じでしたか。

    朝井:選定作が発表された後の、大阪の書店さんの風景がすごかったんです。お店の前を通ると、店頭に本がどっさり積まれていて、ええなあ、うらやましいなあと(笑)。自分とは無縁のことやと思っていました。

    ―『すかたん』は2014年に文庫化された作品。新旧を問わず、文庫の中から選定されるのもこのプロジェクトの特徴ですね。

    槌賀:そうですね。「掘り起こす」という意味もあって、まだ皆さんの手に届いていない本を、「こんな作品もありますよ」とお薦めすることも大事だと思っています。

    朝井:それも私たち書き手にとってありがたいことです。この『すかたん』では大坂の青物(野菜)商いを書いていて、大阪市中央卸売市場に取材に行かせてもらいました。そこでも仲買の方が「この野菜はあまり知られてへんけどぜひお客さんに味わってもらいたいとピックアップして、それを市場に出す。そういう目利きの機能を僕たちは持っている」と。いまおっしゃっていた掘り起こしが大事だと言うてはって、忘れられない言葉です。そういう意味では、OBOPと『すかたん』で描いた世界は共通しているところが多いです。

    槌賀:僕らも本屋で働いていて、この物語と自分の仕事をどこか掛け合わすところがあります。物を売る人はみんなそうなのかもしれませんが。

    朝井:OBOPは本を売ってくださる書店の方たちと、生産者である書き手と、版元と、問屋さんと、みんなが垣根を越えて取り組まれている。この『すかたん』はまさにそのことを書いたので、余計にこの本が選ばれたことがうれしい。そして私には、子どもたちに本をプレゼントする取り組みだということを一般の方に伝えていく役割があると思っています。ほかの賞とは自ずと構えが違います。

    荒木:半年間の販売期間が終わると贈呈式があって、その時にお子さんが来られます。

    朝井:会えるんですか。

    槌賀:そうなんです。そこで目録を渡します。やはり物を売るには何か成果がないと、僕らも張り合いがない。一つの成果として子どもたちに本を贈ることができるのは、次回もがんばろうという励みになります。

    朝井:それは楽しみです。全国でも珍しい取り組みだと聞きました。お客さんにも参加していただけることが大きいですよね。

    槌賀:選定作として「プロジェクト」を進めていこうということなので、「受賞」ではないんです。そこがほかの賞とは違うと思っています。

    朝井:半年間活動期間があることなど詳しくは知らなかったので、いざ中に入らせてもらったら、書店員さんや問屋さんたちの熱さ、真摯さに何度も胸を打たれました。私もプロジェクトの一員として、取り組んでいきたいと思っています。

    荒木:私たちも作家の方に講演などでお話しいただくこともありますが、プロジェクトとして一緒に何かを進めていくことはないので、貴重な機会です。

     

    地元・大坂を舞台に

    荒木:『すかたん』はとにかくキャラクターが魅力的です。特に女性が素敵で、主人公の知里はもちろん出てくる人がみんな生き生きしていて、テンポ良くドラマが進んでいく。それは誰が読んでもおもしろいと思える要素なので、この作品に決まって良かったなと思います。いろんな人に読んでもらえることが大事なので。

    槌賀:大きな(物語の)流れがある中で、一章ごとにひとつのエピソードが完結して次へ続くので読みやすい。時代小説の読者はどうしても年配の方が多いのですが、OBOPをやる上では若い人にも読んでもらいたいという思いがあります。そういう意味でも、いまおっしゃったように一人一人のキャラクターが際立っているので、主人公は女性でも、そこに出てくる男性に自分を置き換えられる。「すかたん」な若旦那の男気が格好いいし、主人公の知里も、男性から見ても「こういう女性っていいな」と思います。

    荒木:お仕事小説としての側面もあるので、男性が読むと若旦那みたいに、「こうや」と突っ走る仕事の仕方をしてみたいと思う人がいるかもしれませんね。

    朝井:はた迷惑なんですけどね。実際にそれをやられたら(笑)。

    ―『すかたん』では幕府の保護によって問屋が独占していた青物販売に、百姓たちの「立ち売り許可」を得ようと若旦那が奔走し、問屋仲間から猛反発を受けます。

    朝井:この事件は、大坂でほんまにあったことです。直売りと問屋との争いで、何回も訴訟が起きた。大坂だけなんですよ、当時、青物・赤物(果物)が競りで商われていたのは。大阪発祥の商いのスタイルなので、それを作っていく過程でいろいろな事件があった。そういう訴訟沙汰があったことは知っていたので、青物商いを扱うなら通底するテーマとして入れたいなと。

    槌賀:物語の中に若冲の絵が出てきますよね。僕、若冲好きなんです。「あれ、若冲が出てきた」ともう一度調べ直してみると、京の青物問屋の長男として生まれたけれど、早々に弟に家督を譲り、絵の道に進んだことが史実通り書かれていて、すごいなと。そうやったんやと改めて若冲の絵を見返しました。

    朝井:若冲の野菜の絵が私も好きで、なんとか登場させたいと思って。若冲は青物商いの息子さんということと、時代が近かったことで、「以前庄屋屋敷に滞在した」ということにしたら登場させられるかなと。

    槌賀:そこはこだわりだったんですね。

    朝井:好きな方だけがそうやって反応してくださればいいと、こそっといろいろな種を蒔いてあります。こうやって気づいてくれて、みんなそれぞれ響く部分が違う。そういう多面的な受け取り方をしてくれることが私はうれしいです。

    ―『すかたん』は、朝井さんが初めて地元・大坂を舞台にした小説ですね。

    朝井:私は元々歴史小説、時代小説が好きだったのですが、時代小説を書こうとは思っていませんでした。江戸の園芸を調べるのがライフワークでしたから、初めて小説を書こうと思ったときに、自ずと江戸の園芸をテーマに書いていたんです。上方落語で育っているので、江戸弁は志ん朝さんのCD、DVDを聴き、懸命に体に入れました。最初から時代小説を書こうと思っていたら、もちろん大坂を舞台に書いていたと思うんです。やっと3作目で地元・大坂を舞台に書いたのが『すかたん』です。

    荒木:大坂を書いてみようと思われたきっかけは何かあったのですか。

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