• 『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』モテたいという欲求に翻弄される男たちをユーモラスに描く!東山彰良インタビュー【前編】

    2018年01月15日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    全選考委員に絶賛された2015年の直木賞受賞作『流』が、累計40万部のベストセラーとなっている東山彰良さん。11月21日(火)、その東山さんの『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』が発売されました。

    本作は、しがない男子大学生の”有象くん”と”無象くん”の2人を主人公に、「女の子のこと」で右往左往する男たちを描いた連作短編集です。

    各編には、有象くん、無象くんのほかにも“イケメンくん”や“温厚教授”、“女王ちゃん”など、名がキャラクターを表す人物たちが登場しますが、彼らはステレオタイプなままでは終わらず、その人間味あふれる人となりと先の読めない物語が、機知に富んだ文章で綴られていきます。

    ユーモア満載の本作について、「馬鹿馬鹿しいな、おもしろいなと楽しんでもらえたら」と語る東山さん。創作のきっかけから本作にこめた思いまで、たっぷりとお話を伺いました。

    女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。
    著者:東山彰良
    発売日:2017年11月
    発行所:講談社
    価格:1,404円(税込)
    ISBNコード:9784062207980

    如何にモテるか――それだけをこの胸に問い続けて、今日まで生きてきた。この本の主成分は、これまで恋に関して沈黙するしかなった有象無象たちの涙なのだ。モテ、という人類最大のテーマ。男たちよ泣け、女たちよ笑え――有象無象たちの哀歌(エレジー)、誕生。

    講談社BOOK倶楽部『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』より〉

     

    「有象くん」「無象くん」は、読者が持っている“概念”で遊ぶためのネーミング

    ――本作は、福岡を舞台とした、「有象」「無象」という2人の男子大学生が主人公の作品集ですね。どのようなきっかけで書かれた物語なのですか?

    P・G・ウッドハウスというイギリスの作家が、『ジーヴズ』シリーズという、お金持ちの若様と執事のコンビを主人公にしたコメディを書いているんです。その本を読んで、「いずれこういう小説を書いてみたいな」という思いがありました。

    そんな時に、僕は福岡出身なのですが、福岡を舞台にした、ネットに載せる小説が1本ほしいと依頼がありまして。それで自分の思った通りに、自由に書かせてもらったのが、1作目の「あの娘が本命」という短編です。

    ――「あの娘が本命」には、有象無象くんの元サークル仲間である“イケメンくん”“二番手くん”“本命ちゃん”“引き立て役ちゃん”の4人が登場します。二番手くんから彼ら4人が体験した出来事が語られるのですが、最初は恋の四角関係が描かれるのかと思いきや、ホラーテイストあり、伝奇的要素ありと、物語は急展開を見せます。

    そうですね。こういう形であれば、「僕が思っていたことが書けるな」「シリーズとして広げていけるな」と思い、連作短編として続けることにしました。

    ――主人公の“有象無象”くんはじめ、登場人物たちにはその人物像が即座にわかるような名前が付けられていますね。

    この小説では、名前はすべて「概念」になっています。主人公の2人は、あくまでもその名の通り“有象無象”であって、モテない、イケてない、取るに足りない、そういう一般的な若者の代表です。実際に、有象くんと無象くんのセリフを入れ替えたとしても、全然問題ないですし。

    ――主人公なのにあんまりな言われようという気もしますが(笑)、すべての登場人物の名前を概念にしようということは、当初から考えていたのですか?

    1本目を書いたときですね。この形なら、「“イケメンくん”ならかっこいい男の子だろう」とか、「“本命ちゃん”なら可愛くてモテるのだろう」とか、どのキャラクターも名前を聞いただけでどんな人物かがわかりますよね。

    ――しかし、彼らはその枠に収まってはくれませんね。物語が進むうちに、読者は当初持っていたイメージを覆されることになります。

    そういう意味では、読者が持っている「概念」で遊べたのは確かですね。

    たとえば「“イケメンくん”なのに結局はイケてない」というおもしろさもありますし、“温厚教授”が激怒していれば、読者は「一体何があったのだろう」と思ってくれます。

     

    「地方の大学生」という設定が“有象無象”感を際立たせる

    ――収録されている全6編のうち、前半の3編は、有象無象くんが知人の話を聞いていく形で進行していきますね。

    我々の人格を形成しているのは、実際に体験したことだけではなくて、見聞きしたことや友だちの話といった、間接的な体験も含まれています。有象無象くんについても、「彼らが事件にぶつかって、それを一生懸命解決することによって次のステップに進む」というオーソドックスなエンターテインメントの手法ではなくて、もっと我々と等身大の感覚で、彼らの成長過程を表現したいと思いました。

    なので、中には彼ら自身の物語もありますが、必ずしも2人がストーリーを主導していくわけではなくて、彼らが「見聞きした物語」という形で構成しています。

    ――最初のお話にもありました通り、舞台は福岡です。セリフもみんな、博多弁ですね。

    本作を1冊にまとめるにあたって、当然セリフを標準語にするのか、あるいは方言にするのかを考えたのですが、我々地方に住んでいる者にとっては、東京にいるというだけで、なんとなく“有象無象”ではない感じがするんです。

    ――多種多様な人が集まっているという意味では、東京のほうがよけいに“有象無象感”があるような気がするのですが……。

    そういう感覚も確かにありますけれど、たとえば飛行機で東京に来るときに、東京のごちゃごちゃした街並みを見下ろすと、僕はすごく圧迫感を感じる。けれども東京出身の人は、「帰ってきたなという安堵感がある」とみなさんおっしゃいます。そんなふうに、地方出身者と東京で生まれ育った人とは、決定的に感覚が違うのではないかと思います。

    進学や就職で上京する若者が多くいるように、どうしても地方には東京に対する憧れがあります。日本全国で考えた場合、東京は当然東京だけで、あとは「それ以外の場所」です。それならば「東京ではない場所」の代表として福岡を書けば、主人公の“有象無象感”が際立つのかなと。

    セリフを標準語にして舞台を東京の大学に設定すると、ひっかかりなく読めるけれど、「でも東京にいるんだよね」となってしまう。東京出身の方には、その感覚はないかもしれませんね。

     

    後編へ続く(2018年1月16日公開予定)
    「いかに馬鹿馬鹿しいか」!『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』東山彰良インタビュー【後編】

    東山彰良 Akira Higasiyama
    1968年台湾生まれ。2002年「タード・オン・ザ・ラン」で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞。03年同作を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で作家デビュー。09年『路傍』で第11回大藪春彦賞。15年『流』で第153回直木三十五賞。16年『罪の終わり』で第11回中央公論文芸賞。17年『僕が殺した人と僕を殺した人』で第34回織田作之助賞を受賞。リレーミステリーアンソロジー『宮辻薬東宮』にも参加している。

    著者:東山彰良
    発売日:2017年07月
    発行所:講談社
    価格:950円(税込)
    ISBNコード:9784062937214
    僕が殺した人と僕を殺した人
    著者:東山彰良
    発売日:2017年05月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784163906430
    罪の終わり
    著者:東山彰良
    発売日:2016年05月
    発行所:新潮社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784103346524

     

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