• 本屋「Title」店主・辻山良雄さんが懐かしく思い起こす「通り過ぎてきた書店たち」

    2017年12月09日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    来月でオープンから2年となる、東京・荻窪の本屋さん「Title」。ほんのひきだしではこれまで、その開店までの道のりやオープン当日のようすなどを紹介してきました。

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    近所の人たちはもちろんのこと、遠方から足を運ぶリピーターもいるほど、Titleは多くの人を魅了しています。店主・辻山良雄さんのファンになる方も多いんだとか。

    その辻山さんによる初のブックガイド『365日のほん』がこのほど出版されました。辻山さんが「これからの新しいスタンダード」となる本を季節に合わせて選び、紹介しています。Titleでは現在、この本で紹介している全365冊を集めた「365日のほん展」も開催中です。

    今回は、辻山さんがこれまで出合ってきた書店についてのエッセイをご寄稿いただきました。Titleのレジに座るようになって、ふと懐かしく思い出したことがあるという辻山さん。それはどんなことなのでしょうか?
    辻山良雄
    つじやま・よしお。1972年神戸市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リブロ入社。広島店、名古屋店など中核店舗の店長を経て、池袋本店統括マネージャー。2015年7月に同店が閉店した後、退社。2016年1月、東京・荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店「Title」をオープン。著書に『本屋、はじめました』『365日のほん』。

     

    通り過ぎた書店たち  辻山良雄

    子どものころ、生まれ育った家からは歩ける範囲で4軒の書店があった。どの店も、子どもでもすぐにひと回り出来るような小さな店であったが、床から天井近くまでぎっしりと本で埋められた空間は、面積からは伺い知れない世界の深みを見せていたように思う。

    それらの店に置いていた本のほとんどは、子どもが読むような本ではなかったので、実際に見ていた棚は児童向けの漫画コーナーだけだった。それでも〈本〉が小さな空間にところ狭しと並んでいる光景は、子どもにとって「何かわからないものが、そこにある」という静かな恐怖を感じさせた。「大きくなれば、そのうちここの本も読めるようになるのだろうか」と思いながら、狭い店内を足早に通り過ぎた。

    高校生のころにもなると、電車に乗り大きな町の書店に行くことも増えた。それでも近所の書店には学校の帰りに立ち寄ることが多く、小遣いで買える範囲で目に留まった文庫本を買っていた。近くに住む友人の家に毎晩のように押しかけ、徹夜で当時流行っていた歴史シミュレーションゲームをして遊んでいたので(学校では寝ていた)、吉川英治や司馬遼太郎の歴史小説を文庫で読破していくのが楽しみだった。相変わらず狭い店の書棚には見慣れない本が並んでいたが、子どものころ感じた恐怖心はなくなっていた。

    大学から東京に出た。通う書店はターミナル駅にある大型書店か、大学近くの古本屋へと変わった。高田馬場にある芳林堂書店、新宿の紀伊國屋、池袋のリブロなどによく行ったが、その頃は外国文学や現代思想にかぶれていたので、毎日どこかの書店に行ってはそうした棚を飽きずに眺めていた。並べられた本の表紙、背表紙を見るだけで「世の中にはこんなに知らない世界があるのか」と静かに興奮した。数年が経ち就職を考えなければならなくなったとき、本に関わる仕事以外の選択肢は思い浮かばなかったが、本を読む時間よりも、本に囲まれている時間のほうが好きだということに気がついた。それまでは自分が書店に勤めるということは思いつかなかったが、考えてみればそれが自分にとって最もふさわしい仕事に思えた。

    中に入ってみた書店は、外から見るものとは随分と違っていた。毎日ダンボール何箱分かの新刊が入荷し、それを並べながら売場を変えていく作業は終わりがなく、そうした流れのなかに書店の光景があるのだと実感した。就職したのは池袋に本店があったリブロだが、本店には配属されず東京の郊外や地方都市にある200坪ほどの支店を転勤して回った。実家を出てから年に1~2回は帰省していたが、そのころには地元の小さな店には行かなくなり、町が変わるなかでいつの間にかなくなってしまった店も増えた。

    リブロに入社して十数年が経ち池袋本店に配属となった。1,000坪の大型書店で、常時100人近くが働いていた。毎朝の本の出入りはすさまじく、小説家や大学教授も頻繁に訪れ毎日のようにイベントを行った。とにかく常に動いている店で、瞬く間に働く時間が過ぎていった。しかし時代を作ったその店も、2015年7月に閉店する。「こんな大きな店でもなくなる時が来るのか」と、他人事のように思いながら店を閉めた。

    そして2016年1月、荻窪にTitleという20坪ほどの店を開いた。自分にとってそれまで書店は常に大きくなるものだったが、それが子どものころに親しんだ小さな空間へと再び戻った。書店はその大小にかかわらず、それぞれ固有の一つの世界を持っていると今更ながらに実感した。「あのころいつもレジに座っていた本屋のおじさんは、毎日何を考えていたのかな」と自分がそこに座るようになってふと思い出した。

    【著者の新刊】

    365日のほん
    著者:辻山良雄
    発売日:2017年11月
    発行所:河出書房新社
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784309026343

    春、夏、秋、冬……過ぎゆく毎日に、暮らしを彩る1冊の本を。
    オープン以来大きな話題を呼んでいる書店「Title」(タイトル)の店主が、これからの新しいスタンダードともいえる本・365冊を、季節毎にそっと紹介。
    気鋭のイラストレーター・中山信一氏によるかわいらしいイラストも満載。
    手軽な文庫サイズで、本棚の片隅にいつも置いておきたい、どこでも、どこからでも楽しめる、ブックガイド。

    河出書房新社公式サイト『365日のほん』より)

     

    365日のほん展

    開催日:
    2017年11月25日(土)~2017年12月24日(日)

    時間:
    12:00~21:00 水曜日・第3火曜日定休 *12月15日(金)はイベント開催のため18時まで

    場所:
    Title2階ギャラリー(東京都杉並区桃井1-5-2)【MAP】

    詳細はこちら
    http://www.title-books.com/event/3691


    (「日販通信」2018年1月号「書店との出合い」より転載)


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