• 『神の雫』原作者に「上等なワインのような余韻」を残した一冊とは?

    2017年12月22日
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    日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当
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    全世界で累計1,000万部を突破した大人気ワイン漫画『神の雫』。その原作者である樹林伸さんの初のワイン小説『東京ワイン会ピープル』が、11月15日(水)に発売されました。

    ※『神の雫』は「亜樹直」名義の作品。

    東京ワイン会ピープル
    著者:樹林伸
    発売日:2017年11月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,674円(税込)
    ISBNコード:9784163907512

    不動産会社に勤める入社4年目のOL桜木紫野は、初めて参加したワイン会でベンチャーの若手旗手、織田一志と出会う。ある事件で身動きがとれなくなった織田の代理で、紫野はさまざまなワイン会を巡る。そこは男女の愛情と欲望と打算が渦巻く場でもあった。ワインに引き寄せられた人々の熱情と宿命に、紫野も巻き込まれてゆく……。

    〈文藝春秋BOOKS『東京ワイン会ピープル』より〉

    本作は、樹林さんならではのワインの知識と魔力がたっぷり味わえる連作短編集。『神の雫』同様、ワインに対する豊かな表現に、必ずやその味わいを想像してしまうはずです。

    そんなふうに、「優れた小説は、読者を疑似体験に引き込む力をもっている」という樹林さんを、この夏、ささやかな冒険に連れ出した本があるそうです。樹林さんに、読書日記を寄せていただきました。



     

    この夏の、ささやかな冒険

    先日、「日経新聞」のインタビューでも話したことだけれど、子供のころはともかく書店が一番お気に入りの居場所だった。漫画はもちろん、小学生向けのミステリや雑学本から始まって、一般小説、図鑑から画集にいたるまで、片っ端から「立ち読み」するのが日課だったのだ。

    小学生から中学生くらいにかけての僕にとって、読書は欠かせぬ日常であると同時に勉強からの逃げ場であり、それゆえに国語の教科書に載っているような作品には、けっして近づかなかったものだ。だから、勉強のために本を読ませようとする世の親たちの努力が、あまり実らないだろうことも、よくわかっている。僕は勉強が嫌いで本に逃げ、そして本を書く仕事につくことになった。

    そんな僕だけれど、自分が書く仕事を始めてからは、年々読書量が減っている。読みたい本を見つけて買ってはみるものの、読む時間がなくてそのまま書棚の肥やしになってしまう。これではいけないと思って、書棚に積んだままページを捲っていない本を数冊、仕事場や食卓の目につく場所に置いたりもするのだけれど、目の前の原稿締め切りに追われて、つい後回しにしてしまうのである。

    ただ、今年の夏は連載を畳んで時間に余裕があったこともあり、雑誌連載を終了させて後半を書き下ろすことにした新作小説の執筆の前に、刺激を受ける意味もあっていくつかの小説を読むことができた。その中の一冊が、村上春樹著『スプートニクの恋人』だった。言わずと知れた大作家が20年近く前に著した作品だが、ハードカバーで新刊当時に購入しながらも、たまたま未読だったのだ。

    スプートニクの恋人
    著者:村上春樹
    発売日:2001年04月
    発行所:講談社
    価格:637円(税込)
    ISBNコード:9784062731294

    読まずに放置した理由は記憶にないが、この本が出たのは1999年の4月、僕はまだいちおうは出版社に籍をおきながら、編集兼原作者として複数の週刊漫画連載を抱えていた。しかも会社を辞して独立する準備も始めていた頃だから、読みたい気持ちはあっても時間が作れなかったのだろう。

    書棚に数多ある未読本の中で、この作品を選んだのにはわけがある。今回の小説は主人公を20代の女性に設定し、彼女の一人称で物語を綴ることにしたのだが、一人称記述の小説というのは、あまり書いた経験がなかったのだ。そこで、一人称の達人であり、なおかつ個性的で下手に影響を受けてしまうこともなさそうな、村上春樹さんの作品を一つじっくり読んでみようと思ったのである。

    はたして選択は正解だった。達人の紡ぐ文章は滑らかで、情景がつぶさに浮かび上がり、また主人公「ぼく」の「すみれ」に対する複雑な愛情が、静かに胸に染み込んでくる。読み進めるうちにいつの間にか僕は「ぼく」になって、愛する女性の居所を求めてエーゲ海を臨む小島のひなびた港町に旅をする。そして「スプートニクの恋人」である女性、ミュウと出会うことで、「すみれ」の足跡をたどりながら夢とうつつの狭間を漂う。

    なんとも不思議な気持ちを抱えたままで、物語はあっけなく終る。村上作品に慣れていない読者は、もしかすると少し戸惑うかもしれない。アメリカ映画のようなすっきりした解決もなければ、スクエアに調和したエンディングも待っていない。「ぼく」に感情移入して読んでいた僕の気持ちが昇華されることもなく、しかし上等なワインのような永い余韻を残してくれたのだった。

    さほど長くない小説だけれど、この作品は読み手を旅に引きずりだし、ささやかな冒険に駆り立てる。村上さんの代表作の一つ『羊をめぐる冒険』もそうだったと、30年以上前の読書体験を思い出すことができた。

    羊をめぐる冒険 上
    著者:村上春樹
    発売日:2004年11月
    発行所:講談社
    価格:540円(税込)
    ISBNコード:9784062749121

    優れた小説は、読者を疑似体験に引き込む力をもっている。

    さて、僕の新作小説『東京ワイン会ピープル』は、皆さんを夜の西麻布の妖しい宴に連れ出すことができるだろうか。

    東京ワイン会ピープル
    著者:樹林伸
    発売日:2017年11月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,674円(税込)
    ISBNコード:9784163907512

    樹林伸 Shin Kibayashi
    1962年東京生まれ。漫画原作者、小説家。コミック原作の代表作に、天樹征丸名で『金田一少年の事件簿』、安童夕馬名で『サイコメトラーEIJI』、姉・樹林ゆう子と亜樹直名で『神の雫』などがある。小説家として『ビット・トレーダー』『陽の鳥』などの作品を発表。ワインへの造詣が深く、2010年、フランスの代表的なワイン誌による「ワイン今年の人」特別賞(最高賞)に選出された。

    神の雫 1
    著者:オキモト・シュウ 亜樹直
    発売日:2005年03月
    発行所:講談社
    価格:576円(税込)
    ISBNコード:9784063724226
    誰にも教えたくない神ワイン
    著者:樹林伸
    発売日:2013年12月
    発行所:幻冬舎
    価格:1,404円(税込)
    ISBNコード:9784344025073
    ビット・トレーダー
    著者:樹林伸
    発売日:2010年04月
    発行所:幻冬舎
    価格:864円(税込)
    ISBNコード:9784344414549

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