• 「珈琲店タレーランの事件簿」の岡崎琢磨さんは書店回りが大好物

    2017年11月06日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』で2012年にデビューし、累計200万部突破の同シリーズで一躍人気作家となった岡崎琢磨さん。最新刊『さよなら僕らのスツールハウス』は、シェアハウスを舞台にした切ない青春ミステリです。

    今回はそんな岡崎琢磨さんに、書店にまつわるエッセイをお寄せいただきました。デビュー間もない頃に全国各地の「書店回り」をした時のエピソードと、岡崎さんから書店員のみなさんへのメッセージが綴られています。

    岡崎琢磨
    おかざき・たくま。1986年福岡県生まれ。京都大学法学部卒。2012年、第10回「このミステリーがすごい!」大賞・隠し玉として『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』でデビュー。同書は2013年、第1回京都本大賞を受賞。現在シリーズ5作目まで刊行されている。他の著書に『季節はうつる、メリーゴーランドのように』『新米ベルガールの事件簿 チェックインは謎のにおい』『道然寺さんの双子探偵』『病弱探偵 謎は彼女の特効薬』など。

     

    書店さん回る回る回る  岡崎琢磨

    大変ありがたいことにデビュー作の売れ行きが好調だった折、版元から「書店回りをしましょう」と言われた。デビューから二ヵ月足らずのことだった。

    新刊が出た際などに、版元の営業さんや編集者さんと一緒に各地の書店へ挨拶に行くのである。作家としては新生児だった僕はそんな慣習があることも知らず、言われるがままたくさんの書店にお邪魔し、それまでまったく知らなかった書店の一面を窺い知るとともに、いくつもの興味深い経験をした。

    とある書店で、配布するフリーペーパーに手書きのコメントを頼まれた。書き終えて別の書店へ移動し、ふと思う。さっきのコメント、誤字があったのでは?

    普通なら《家の鍵閉めたかしら》レベルの心配だ。たいてい閉めているものだ。しかし、僕には前科があった。書店さんに置いてもらう手書きPOPで、よりによってタイトルの《淹》を《滝》としてしまったことに、発送してから気づいたのだ。《あなたの滝れた珈琲を》。タキレタコーヒー。意味不明である。

    そのときのことが頭にあったので、無理を言ってすべての書店を回ったあとで最初のお店を再訪した。果たして誤字が見つかった。作家なのに誤字とは、とんだ恥をかくところだった。冷や汗を拭いつつ売り場を見せてもらったら、目の前で自著が買われていった。戻ってみるものである。貴重な体験をした。

    各地の書店をめぐる都合上、ときに車移動に時間がかかる。あるとき車中で営業さんが僕に、「どうして売れたんだと思いますか」と訊ねてきた。

    「運がよかっただけです」とでも謙遜しておくべきところだ。しかし何を勘違いしたか、やはり読者目線が大事なのだと思う、などと一席ぶってしまった。しばらくしゃべったあとではたと気づく。隣に編集者さんがいる。僕の担当ではなかったが、長く業界に携わり苦楽を味わってきた方だ。

    われに返って青ざめ、僕みたいな新人がわかったような口を利いて面目ない、と頭を下げた。すると編集者さん、おもむろに顔を上げて一言。

    「すみません、寝てました」

    それが気遣いのなせる業だったのかは、彼女のみぞ知る、である。

    僕がデビューしたのは二十六歳のときのこと。作家の中では、ずいぶん若かったようである。いろんな書店員さんから、繰り返し言われたことがある。

    「若いですねえ! ……朝井リョウさんの次に」

    年齢のせいで奇妙なライバル心を持たれていたことなど、朝井氏はきっと夢にも思うまい。

    どの書店でも温かく迎えてくださり、それでも一日かけて十を超える店舗にお伺いすると、最後には疲れるものだ。版元に戻った僕はクタクタになり、テーブルにへばりつきながら、同伴してくれた編集者さんに「美人の社員さんが肩揉んでくれるとかないんですか」と言った。冗談とは言え問題発言だが、何せクタクタなので大目に見てほしい。それを耳にした担当の女性編集者は、美人と聞いてこう言ったそうである。

    「おや、私の出番かな」

    この作家にしてこの担当あり、といった感じだ。そういうコンビネーションで作り上げた作品を、一冊でも多く売ってもらえるように挨拶をするのだ。

    実際に本を売ってくださる方々と直接お会いし、お話をすることはいろいろと勉強にもなり、励みにもなり、刺激にもなる。僕は書店回りが大好きになった。以後、新刊が出るときには必ず担当さんに「書店回りしませんか」と声をかけ、できる限り実行するようにしている。

    そういうわけなので全国の書店の皆様、お忙しいところ恐れ入りますが、これからもどうぞよろしくお願いします。皆様との出会いを、楽しみにしてます。

     

    【著者の新刊】

    さよなら僕らのスツールハウス
    著者:岡崎琢磨
    発売日:2017年10月
    発行所:KADOKAWA
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784041058527

    関東某所、切り立った崖に建つシェアハウス、「スツールハウス」。
    その名の通り、若者たちが腰をかけるように住み、旅立って行く場所。
    同じ屋根の下、笑い、ときめき、時間を共有するものたちは、やがて懐かしく思い出す。
    日常の謎に満ちた、何気ない生活を。
    そしてそこには確かに、青春があったのだと……。

    ~何気なくも愛おしい青春の謎たち~
    第一話 「メッセージ・イン・ア・フォト」弁護士の直之が、元彼女・あゆみの結婚式の動画用に送った写真の謎とは。
    第二話 「シャワールームの亡霊」無人のシャワールームから聞こえるシャワーの水音に隠された、ある事件。
    第三話 「陰の花」フラワーショップで働く白石は、かつての同居人で既婚の花織から、ある花の写真を見せられ……。
    第四話 「感傷用」16年間住み続け、「スツールハウスの主」と呼ばれた女性、鶴屋素子。彼女がそこを去った訳とは。
    第五話 「さよなら私のスツールハウス」人気作家となった素子は、「スツールハウス」を訪れるが……。

    KADOKAWA公式サイト『さよなら僕らのスツールハウス』より ※試し読みできます)


    (「日販通信」2017年11月号「書店との出合い」より転載)




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