• 〈書評〉命をかけた男たちの生き様に括目せよ!  文・東えりか

    2015年08月15日
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    日販 商品情報センター「新刊展望」編集部
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    沢木耕太郎がロバート・キャパに興味を持ったのはリチャード・ウィーランが書いた『キャパその死』(文春文庫)という伝記を翻訳したことがきっかけだったという。第一次インドシナ戦争の取材中、地雷の爆発で死んでから半世紀以上経つが、彼の写真は相変わらず人気が高い。

    キャパの出世作である「崩れ落ちる兵士」に疑問を抱いていた沢木耕太郎は『キャパの十字架』(文藝春秋)でその謎を暴いた。その過程で「旅するカメラマン」と呼ばれたキャパの足跡を追ううちに、彼の素顔が見えてきたようだ。『キャパへの追走』はキャパが訪れた土地、泊まったホテル、見た風景の“今”を写すため、沢木自身が足を運び写真に切り取っていく。

    1913年、ブダペストでユダヤ人の両親の下に生まれ、ナチス化するドイツからウィーンへ逃亡し、その後パリに住まう。写真家集団「マグナム」や恋人であり仕事のバディでもあったゲルダ・タローと出会ったのもパリだった。スペイン戦争の取材中に「崩れ落ちる兵士」を撮り有名になったキャパは、多くの作品を残した。ノルマンディー上陸作戦やパリ解放、命を落とすことになるインドシナ戦争までの40年の足跡を沢木は読み解こうと想像をはたらかせる。

    死の直前まで滞在していた日本で写した少年の写真に、沢木は自分の姿を見る。ニューヨークのキャパの墓に詣で旅の終わりを報告する。沢木の思いが昇華された一冊である。

    キャパへの追走
    著者:沢木耕太郎
    発売日:2015年05月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784163902609

    日本人の戦場カメラマンで一番有名なのは沢田教一だろう。「日本のキャパ」と称賛され、ピュリツァー賞ほか多くの報道写真の賞を受賞した。34歳という若さで戦場の塵となったことまでキャパの人生に重なる。『戦場カメラマン 沢田教一の眼』は、受賞作品以外にも、妻の手元に残っていた多くの写真を初めて世に問う作品集となった。

    人々の記憶に残るのは「安全への逃避」というベトナム戦争で、戦火を逃れて必死で逃げる家族の写真である。UPI専属のカメラマンだった沢田は、世界に配信されたこの写真によって一躍有名になる。その後も最前線で兵士の表情を追った。

    故郷である青森に今年90歳になる沢田の妻、サタさんが暮らしている。取材で訪れた東奥日報社論説委員の斉藤光政は膨大な数の未発表写真を見て、すぐさま新聞の連載を申しこみ、サタさんの聞き取りを中心に12回掲載されたものが本書の土台となっている。サタさんにとって可愛い男だった沢田は戦場で決して銃を持たなかったという。「戦いをしないと決めた日本人だから」と言い続けた沢田は今の日本を天国からどう見ているのだろう。

    戦場カメラマン沢田教一の眼
    著者:沢田教一 斉藤光政
    発売日:2015年05月
    発行所:山川出版社(千代田区)
    価格:2,700円(税込)
    ISBNコード:9784634150737

    同じ時期、ベトナム戦争の真っただ中で震えていた日本人作家がいた。開高健。朝日新聞の臨時海外特派員として派遣されていた開高は丸腰のまま銃撃戦に巻き込まれた。命を落とすかもしれないというその中で、彼の頭にひとりの男が過ったかもしれない。佐治敬三、サントリーの二代目社長である。ふたりは上司と部下の関係を越えた親友以上の存在だった。『佐治敬三と開高健 最強のふたり』(北康利)は戦後まもなくに出会い、破天荒な経営者とコピーライターとして、数々のヒット商品を作り上げた2人を追い続けた作品だ。

    戦後、ウイスキーで儲けていた寿屋(後のサントリー)が次に仕掛けたのはビール。しかし壁は厚く、なんと45年もビール事業は赤字を計上し続けた。佐治敬三の意地である。それをさりげなくサポートしていたのが開高健であった。

    お互いの心にいつも存在していた「エトヴァス ノイエス」というドイツ語は「日に新た」という意味だという。常に革新に挑む男たちの姿は胸に響く作品となった。

    佐治敬三と開高健
    著者:北康利
    発売日:2015年07月
    発行所:講談社
    価格:1,944円(税込)
    ISBNコード:9784062186124

    (「新刊展望」2015年9月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)
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