• 〈書評〉W受賞の新鋭が描く天晴な成長物語  文・三橋曉

    2015年08月14日
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    日販 商品情報センター「新刊展望」編集部
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    同じ作家や作品のWクラウン、トリプル受賞はよくあることだが、『屋上のウインドノーツ』で松本清張賞、『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞に輝いた額賀澪のように、賞を主催する出版社の2社ががっちり手を結んで作者をバックアップする例は、ちょっと珍しいかもしれない。

    同時刊行のデビュー作の片方、『ヒトリコ』を紹介すると、担任教師の心ない決めつけで、クラスから仲間はずれにされた女子は、壮絶なイジメを受けながら、こう考えた。そうだ、わたしは“ヒトリコ”でいようと。そんな彼女は、ただ一つ向き合えるものとしてピアノと出会う。やがて、高校に進学した彼女は、孤独癖に陥る直接の原因となった当時のクラスメートと再会する。

    他人との関わりを断ちながらも、背筋をしゃんと伸ばした、ヒロイン日都子の凜とした生き方が何よりも素敵だ。小学校の卒業式に始まり、幼稚園から高校と至るまでの少年少女たちの群像劇が瑞々しく濃やか。ありがちな価値観やキレイ事を排した成長の物語は、清々しく天晴れというほかない。

    ヒトリコ
    著者:額賀澪
    発売日:2015年06月
    発行所:小学館
    価格:1,296円(税込)
    ISBNコード:9784093864176

    主人公が拾った喋る蟹をめぐるオフビートな恐怖小説でデビューした倉狩聡だが、第2作の『今日はいぬの日』には、喋る犬が登場する。日本スピッツのヒメは、飼い主とは名ばかりの家族に失望していた。ある日のこと、不思議な石を齧って人間の言葉を話せるようになった彼女は、世話をきちんとしない一家に牙を剥き、犬のことをペットと見下す人類全体に復讐を開始する。

    一頭の秀でたリーダーが、仲間を率いて人間を襲うという展開は、動物パニックもののひとつの定石だが、人類最古にして最愛の友と言われながら、人間の都合で虐げられる犬族の悲しみを併せて描き、作者の持ち味を出している。ご近所の黒猫スズちゃんや、公園のドッグランで出会ったボーダーコリーのミコトがヒメと交わす会話や、彼らがその後にたどる悲しい運命が、いつまでも心に残る。

    今日はいぬの日
    著者:倉狩聡
    発売日:2015年06月
    発行所:KADOKAWA
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784041030318

    その重たい響きのタイトルに似合わない、ラノベ調の軽快なフットワークで展開する古内一絵『痛みの道標(みちしるべ)』は、ブラック企業で働く27歳の達希が、世をはかなんで投身自殺を図るところから始まる。しかし命を救ってくれた祖父の幽霊から、半ば強引に人探しを頼まれる。かくして太平洋戦争で祖父の従軍地だったインドネシアの島へと赴くが。

    幽霊の祖父に謎めいた少女も加わった彼ら一行が、赤道直下の街で掘り起こしていくのは、戦争の記憶と命を奪われた人々の無念さである。それは同時に人々の心を平気で蝕む現代社会の歪みにも呼応する。登場人物の口をつく“最初は全部、転ばぬ先の杖だったんだろうよ”の言葉は、今の日本が置かれた戦争をめぐる危機的な状況に警鐘を鳴らすかのようだ。

    痛みの道標
    著者:古内一絵
    発売日:2015年07月
    発行所:小学館
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784093884341

    島本理生の恋愛小説はユニークな視点を持つものが多いが、『匿名者のためのスピカ』には、心から驚かされる。プロローグで高校生の景織子(きょうこ)は交際相手の男に拉致され、監禁されているのだ。無事救出されるが、それから数年後、法科の大学院に通う彼女は、同じ院に学ぶ青年、修吾と出会う。就職の相談がきっかけとなり、彼は景織子と交際を始めるが、間もなく彼女の身辺に監禁犯だった元恋人の存在を突きとめる。

    真実は物事にかかわる者の数だけあるものだが、中盤からの南の島への逃避行をめぐっても、当の元恋人と景織子、そして修吾の親友と、それぞれの説明や解釈が矛盾することなく共存する。また監禁男の動機を、心の闇という言葉で片付けず、その深層にきちんとメスを入れていくあたりもいい。恋愛とは、そもそも答えのない男女の関係だが、その領域に踏み込む勇敢さが生んだ意欲作だろう。

    匿名者のためのスピカ
    著者:島本理生
    発売日:2015年07月
    発行所:祥伝社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784396634728

    (「新刊展望」2015年9月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)
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